刊行物のご案内
心理学研究 第91巻 第2号(2020年6月)
ページ | 83-93 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 塾職員が行なう学習以外の相談支援の検討――満足・疲弊に関する個人差に着目して―― |
著者 | 今井 さやか・大川 一郎 |
要約 | 学習塾(以下,塾とする)では学習指導の他に様々な相談が行なわれている。本研究では学習とは直接関わりのない相談対応や心理面での支援を相談支援と定め,塾側への調査でその機能を明らかにした。更に相談支援業務において塾職員がどのような時に満足・疲弊を感じるか(以下,満足・疲弊場面とする)を調べ,先に明らかにした相談支援機能との関係性を確認した。研究協力者は現役塾職員440名で,はじめに調査票作成のために11名へ半構造化面接を行なったのち質問紙調査を実施した。因子分析の結果相談支援の機能は「生徒への寄添助言」「親子関係調整」「保護者受容」に分かれた。満足場面は「生徒貢献」「自己充足」,疲弊場面は「多忙と我慢」「生徒対応不全」に分かれた。これらを用いて相談支援業務上の満足・疲弊場面における職員の個人差と相談支援機能の実行度との関係を構造方程式モデリングで確認したところ,「生徒貢献」場面で満足感が高い職員は全ての相談支援機能の実行度が高かった。また「生徒対応不全」場面で疲弊感が高い職員は「生徒への寄添助言」機能の実行度が高かった。 |
キーワード | 塾職員,相談支援,満足・疲弊場面,個人差 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#18066 |
ページ | 94-104 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 顔の魅力が服の魅力評価に与える影響とその性差 |
著者 | 新美 亮輔・山田 真也 |
要約 | 顔や服装は対人知覚における重要な視覚的手がかりである。しかし,顔知覚と服の知覚の間の相互作用の有無はよくわかっていない。本研究では服の魅力の評定における顔の魅力の影響を検討した。参加者はTシャツを着た人物の写真(顔と服の画像の合成)を見て,顔ではなく服の魅力を評定するよう教示された。刺激画像の顔は男女両性で,魅力が操作された。高魅力女性顔は,男女どちらの参加者においても,服の魅力評定を高めた。高魅力男性顔が服の魅力評定を高める効果は,男女どちらの参加者においてもごくわずかであった。注意の性差や個人差でこの結果を説明することは困難だった。この結果は,現代社会において男性顔より女性顔の魅力が社会的手がかりとして重視されることが多いことを反映したものかも知れない。 |
キーワード | 顔,文脈効果,注意,性差 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#19004 |
ページ | 105-115 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 青年期のアイデンティティ発達とネガティブ及びポジティブ経験に見出す肯定的意味 |
著者 | 渡邊 ひとみ |
要約 | 本研究では,過去のネガティブ及びポジティブな出来事に見出す肯定的意味の種類と,それらの肯定的意味が青年期のアイデンティティ発達に及ぼす影響を検討した。大学生494名に,今現在の自己定義及び自分らしさにもっとも影響を及ぼした過去の出来事を想起するよう教示し,アイデンティティ尺度,出来事の中心性尺度,benefit-finding項目にそれぞれ回答するよう求めた。その結果,アイデンティティの中核を成すネガティブ及びポジティブな出来事の双方から,「自己成長」,「新視点の獲得」,「対人関係の深化」,「家族間関係の深化」に関する肯定的意味が見出された。また,ネガティブな出来事に「受容と自己成長」に関する肯定的意味を,ポジティブな出来事に「新視点の獲得」に関する肯定的意味を見出すことがアイデンティティ確立を促進していた。さらに,ポジティブな過去の出来事をアイデンティティやライフストーリーの中心に位置づけることが直接的にアイデンティティ確立を促進する効果をもっていた。ポジティブな出来事の経験に肯定的意味を見出すことに加え,積極的にその経験をライフストーリーに統合する支援や介入を行うことで,アイデンティティ発達やさらなる精神的健康がもたらされる可能性がある。 |
キーワード | 肯定的意味,アイデンティティ,過去の出来事,ベネフィット・ファインディング,青年 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#19010 |
ページ | 116-124 |
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種類 | 原著論文 |
タイトル | 隠蔽が隠匿情報検査時の生理的・心理的反応に及ぼす影響 |
著者 | 小林 孝寛・藤井 正史・奥野 拓弘・藤原 修治・鈴木 直人 |
要約 | 本研究は隠匿情報検査(CIT)場面での生理的・心理的反応に及ぼす隠蔽の効果を調査した。任意で実験に参加した60人の警察職員は,1つの非隠蔽群(正直に返答する群)と2つの隠蔽群(すべての質問に「はい」・「いいえ」と返答する群)とにランダムに割り当てられ,CITの受検,感情と不安に関する質問紙への回答を行った。結果は,隠蔽-非隠蔽群間で生理反応の持続的成分,感情,不安に差がみられなかったにも関わらず,隠蔽群では皮膚コンダクタンス反応(SCR),心拍数,規準化脈波容積,呼吸速度に差が認められた。一方,非隠蔽群ではSCRでのみ差がみられた。これらの結果は,CITにおいて隠蔽は,生理反応の持続性成分,感情,不安への影響とは関わりなく,刺激への一過性の生理反応に影響を及ぼすことが示唆された。 |
キーワード | 隠匿情報検査,生理反応,感情,不安,隠蔽 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#19019 |
ページ | 125-132 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 中学生用スクールエンゲージメント尺度の作成 |
著者 | 藤原 和政 |
要約 | 本研究では,中学生用スクールエンゲージメント尺度を作成することを目的とした。中学1年生から3年生1,044名を対象に検討を行った。因子分析の結果,感情的エンゲージメント,行動的エンゲージメント,認知的エンゲージメントから構成されることが明らかになった。尺度の信頼性を検討した結果,内的一貫性,時間的安定性について十分な値が得られた。妥当性については,感情的エンゲージメントは学校生活享受感と,行動的エンゲージメントは内発的将来目標と,認知的エンゲージメントはメタ認知的方略と,それぞれ正の相関関係が認められた。以上の結果から,本研究で作成した中学生用スクールエンゲージメント尺度は,一定の信頼性と妥当性を有していると判断されたとともに,今後の展望について議論された。 |
キーワード | スクールエンゲージメント,尺度作成,中学生 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#18232 |
ページ | 133-141 |
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種類 | 研究資料 |
タイトル | 統計リテラシー自己効力感尺度日本語版の作成――統計教育の効果測定―― |
著者 | 伊川 美保・楠見 孝 |
要約 | 高度情報社会において統計リテラシーは重要だが,多くの日本人学生の統計に対する自己効力感は低い。そこで本研究では,統計リテラシーへの自己効力感に関する日本語版尺度を作成した。まず,大学生110名に予備調査を実施し,英語版の尺度を日本語訳した。続く研究1では,高校生や大学生275名に調査を行い,日本語版尺度の妥当性や信頼性を検討した。研究1の結果から,統計リテラシー自己効力感尺度が,主観的ニューメラシー尺度や批判的思考態度尺度と正の相関を持つことが示された。数学成績は統計リテラシー自己効力感を正に予測していた。研究2では,高校生167名に対して統計教育を実施し,統計リテラシー自己効力感が授業前後でどの程度変化するかを検討した。研究2の結果からは,統計教育によって統計リテラシー自己効力感が向上することが示された。自由記述を分析したところ,数値の読み解き方が理解され,心理学や進路への関心が高まるという効果が見出された。最後に,本研究の教育的意義や今後の課題について考察した。 |
キーワード | 統計リテラシー,自己効力感,尺度開発,統計教育,批判的思考 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#18238 |
ページ | 142-148 |
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種類 | 研究報告 |
タイトル | 抑うつ症状における援助要請の有効性認知と意図――日本人大学生と中国人留学生の比較―― |
著者 | 安 婷婷・永井 智 |
要約 | 本研究は,抑うつにおける援助資源の有効性認知と援助要請意図に注目し,日本人大学生と中国人留学生の相違点の比較検討を目的とした。日本人大学生389名と中国人留学生284名を対象に,抑うつのシナリオを提示した上で,提示された援助資源の有効性認知と援助要請意図について回答を求めた。その結果,日本人大学生と中国人留学生ともに「友人(1位)」,「カウンセラー(2位)」,「家族(3位)」の有効性を評価しており,援助要請意図において,専門家より「友人」,「家族」に援助要請したり,「独力」で解決したりしようとする傾向が見られた。また,両者の比較から,中国人留学生より日本人大学生の方が全体的に援助資源の有効性(「独力」以外)を評価しているにも関わらず,「独力」のみ,日本人の方が中国人留学生よりも意図が高かった。この結果から,中国人留学生は日本人大学生ほど援助要請資源の有効性を評価していなくても,日本人より援助要請の意図が高く,より援助要請しようとする可能性が示唆された。 |
キーワード | 援助要請の有効性,援助要請意図,抑うつ,比較研究 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal91-2#19313 |