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心理学研究 第93巻 第1号(2022年4月)

種類 原著論文
タイトル 視点取得が他者の印象評定に及ぼす効果――テキストマイニングを用いての検討――
著者 藏本 知子
要約 本研究は,自由記述の分析にテキストマイニングを利用して,視点取得が他者の印象評定に及ぼす効果を検討した。視点取得条件か統制条件のいずれかに割り当てられた参加者は,肥満体型の男性(ターゲット)の写真を見て,自由に記述するよう求められた。次に参加者は,ターゲットとは別の肥満体型の男性について,印象評定を行った。自由記述にテキストマイニングを実施した結果,2つのクラスターを抽出した。一つは職業に注目した語のクラスター,もう一つは体型に注目した語のクラスターだった。分散分析の結果,視点取得条件の参加者は,体型情報クラスターの語の使用を抑制したことが示された。さらに,パス解析の結果,体型情報クラスターの語の量が,他者の印象評定の予測因子になる可能性があることが示唆された。
キーワード 他者評価,自由記述,視点取得, テキストマイニング
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20004
種類 原著論文
タイトル 地域スポーツでの母親のボランティア継続意図――ハラスメントと公正感受性の影響――
著者 大橋 恵・ターン 有加里ジェシカ・藤後 悦子・井梅 由美子
要約 地域スポーツクラブは子どもたちに適切な運動の機会を与えることができるが,その親からの多大なサポートを必要とするケースが多い。本研究は,子どもたちのクラブのサポートをうながす要因を,ボランティアを継続する動機という視点から検討した。我々は,小学校3年生から6年生の地域スポーツクラブに参加している子を持つ母親(N = 800)を対象にオンライン調査を行った。その結果,実際の活動量に加え,親同士のハラスメントが強いと負担感が強くなり,その結果としてサポート継続意図が下がることが示された。参加満足度は,負担感を下げることにより,サポート継続意図にポジティブな影響があった。これに加え,公正感受性が負担感とサポート継続意図を調整していることが分かった。本研究で得られた知見が,地域スポーツにおいてボランティアを行う母親以外のボランティアでも見られるかどうか検討が必要であろう。
キーワード 動機づけ,ボランティア,公正感受性,親子関係
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20038
種類 原著論文
タイトル 小中学生におけるいじめ傍観の多様な様態――いじめを目撃した際の態度による検討―― 
著者 西野 泰代・若本 純子
要約 本研究では,傍観(outsider behavior)を「いじめを目撃した際,加害,被害,強化,加担,仲裁の役割行動をとらないこと」と操作的に定義したうえで,本邦の子どもたちのいじめ傍観において複数の様態が存在するのか検討を行った。OBVQ (Olweus, 1996) によって抽出されたいじめを目撃した際の態度のうち,傍観と考えられる4様態いずれも一定の割合で存在することが示され,各様態に関する心理的特徴の検討結果では整合性ある説明が可能であった。地方中規模都市にある小学校3校と中学校2校に在籍する772名(小学生269名,中学生503名)の回答を分析対象とした。共感的関心,同調傾向,モラルディスエンゲージメント (MD) を説明変数とする多項ロジスティック回帰分析と,傍観様態に付随する心理状態である本来感,学級への満足感,全体的自己価値を従属変数とする分散分析を行った。その結果,全傍観様態に共通して,小学生よりも中学生の方が傍観をしやすく,共感的関心が影響を及ぼしていた。様態別にみると,傍観(助けるべき)は女子が多く,傍観(見ているだけ)を加えた2様態は学級や自己に満足していない子どもたちが周囲に同調して行う傍観であった。一方,傍観(しかたない),傍観(気づかない)はMDの高さから生じるものの,同調傾向の調整効果により複数の下位様態をもつと考えられた。本研究の結果から,いじめ場面で起きる傍観には多様な様態があること,また,いじめを目撃した際に子どもたちが「仲裁」ではなく「傍観」することの心理的要因についても併せて考察した。
キーワード いじめ,傍観,共感的関心,同調傾向,モラルディスエンゲージメント
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20050
種類 研究資料
タイトル トラウマティックなライフイベントについての出来事中心性尺度日本語版の作成
著者 松本 昇
要約 PTSD(Posttraumatic stress disorder)研究では,トラウマの符号化および検索を,情動価を持った通常の記憶の延長線上にあるものとみなす基礎メカニズムに寄り立つ研究者と,通常の記憶とは異なるメカニズムに基づくとみなす特殊メカニズムに寄り立つ研究者との間で論争が続いている。特に,トラウマ的出来事は重大であるがゆえに自己に統合されやすいのか(基礎メカニズム),それとも自己へ非統合のままであるのか(特殊メカニズム)については数多くの研究がなされてきた。本研究では,出来事がどの程度自己へ統合されているかの指標となる,出来事の中心性を測定するCentrality of Event Scale(CES)の日本語版を作成した。トラウマ的な出来事についてCESを実施し,信頼性と妥当性の検討を行った。CESを使用した本邦におけるトラウマ研究や文化比較研究の進展が望まれる。
キーワード PTSD,出来事中心性尺度(CES),自伝的記憶,自己
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20204
種類 研究資料
タイトル 隠匿情報検査における脈波直流成分の利用可能性
著者 山本 直宏
要約 本研究では,指尖部光電式容積脈波の直流成分(血液容積:blood volume: BV)が隠匿情報検査の指標として有効であるか調べた。模擬窃盗課題で得られた23名分の有認識質問表と無認識質問表のBVと脈波容積,規準化脈波容積(normalized pulse volume: NPV)を比較した結果,いずれの指標も水準値で項目間の識別が可能であったが,ベースレベルからの変化量では項目間の識別ができなかった。また,参加者間と参加者内のいずれの比較においても,NPVの値が低い時(血管収縮時)にBVの識別性が高くなることを確認した。以上の結果から,BVは特に血管収縮時に裁決項目と非裁決項目を有効に識別できる可能性があると示唆された。
キーワード 隠匿情報検査,脈波容積,血液容積,規準化脈波容積
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20234
種類 研究報告
タイトル 仕事に対する達成目標と仕事の意味づけとの関連
著者 市村 賢士郎・河村 悠太・枡田 恵・伊川 美保・高橋 雄介・楠見 孝
要約 近年の日本では,より良い働き方を実現するための社会的機運が高まっている。こうした背景を踏まえて本研究では,第1に,欧米での研究において示されている達成目標と仕事の意味づけとの関連が日本においてもみられるかどうかを追試的に検討した。第2に,達成目標と仕事の意味づけとの関連は職業分類によって異なるかどうかを検討した。19歳から69歳までのブルーカラーとホワイトカラーの職業従事者 (N = 792) を対象としたウェブ調査を実施した。重回帰分析の結果,習得接近目標と遂行接近目標が仕事の意味づけと比較的強く関連することが示された。また,ホワイトカラーにおいてのみ遂行接近目標と仕事の意味づけが正に関連し,遂行回避目標が負に関連するという交互作用が示された。以上の結果から,日本においては習得接近目標だけでなく,習得回避目標も仕事の意味づけと関連する要因であること,さらに職業上重視される目標の違いによって仕事の意味づけと遂行目標との関連が異なることが示唆された。
キーワード 仕事の意味づけ,達成目標,習得–遂行,接近–回避,職業分類
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20333
種類 研究報告
タイトル 新型コロナウイルス禍のアマビエにみる妖怪の社会的機能
著者 高橋 綾子・藤井 修平
要約 本研究の目的は,新型コロナウイルス禍におけるアマビエへの態度と伝統的な価値観,日常的な宗教行為との関連を調査し,現代における妖怪の社会的機能を探ることである。妖怪は信仰の対象としての機能と娯楽としての機能があるとされているが,近年の研究では,現代の妖怪に信仰の機能は見出されていなかった。しかし疫病退散の効能があるとされるアマビエは,新型コロナウイルスの感染が拡大する中で注目を集めており,娯楽以外の社会的機能も果たしていると推測される。研究1では新聞記事等を用い,アマビエの流行の全容と,アマビエを用いた意図の把握を試み,研究2では,アマビエへの態度と伝統的な価値観,日常的な宗教行為との関連を調査した。以上の研究結果からは,アマビエの持つ疫病に対する効果への期待や,アマビエが妖怪として認知され,ポジティブだけでなくネガテイブな印象を喚起することが示唆された。これにより,妖怪の機能が状況によって変化し得ることが示された。
キーワード 妖怪,社会的機能,超自然的,COVID-19,アマビエ
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#20340
種類 研究報告
タイトル 時間順序判断における視聴覚間の急速再較正と空間周波数による処理速度の違いとの関連
著者 竹島 康博
要約 視聴覚統合において,視覚刺激と聴覚刺激の提示タイミングの同時性は重要な役割を果たすと考えられる。視聴覚刺激間の同時の知覚は,直近の視聴覚刺激の提示タイミングの情報によって較正されることが明らかとなっている。これまでの研究では,この急速再較正が空間周波数による視覚の処理速度の違いも補正して生じることを,同時性判断課題を用いて報告している。本研究ではこの急速再較正の特性を,時間順序判断課題を用いて裏付けることを目的とした。実験では,参加者は純音とガボールパッチの提示順序の判断を行った。実験の結果,高空間周波数刺激の陽性残効の方向への再較正量が低空間周波数刺激と比較して大きかった。ただし,この違いは直近の試行の判断を繰り返すバイアスによって生じている可能性も示された。したがって,本研究は急速再較正が空間周波数による視覚の処理速度の違いの影響を受けないことを裏付けるものであった。加えて本実験の結果は,時間順序判断課題では急速再較正の強さを比較する場合に選択反復バイアスの強さも考慮する必要があることを示唆するものである。
キーワード 視聴覚統合,急速再較正,選択反復バイアス,時間順序判断,空間周波数
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal93-1#21303