刊行物のご案内
心理学研究 第93巻 第3号(2022年8月)
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 園の食事における新型コロナウイルス感染症対応からみる日本と中国の文化差 |
著者 | 韓 雪・長谷川 智子・外山 紀子 |
要約 | 保育実践は文化によって多様であり,そこには子ども観,保育観,教育観が反映されている。2019年末から新型コロナウイルス感染症のパンデミックが続いているが,この感染症は飛沫感染であることから,食事場面では特に制約が大きい。このような特異な状況は普段隠されている社会・歴史的問題を顕在化させる可能性がある。本研究では,感染症対応から園の食事における日中の文化差を明らかにすることを目的とし,園の食事の物的環境,感染症対応の文化間差・文化内差を検討した。日本と中国の園(幼稚園・保育所)に対して,2020年9月―2021年1月に質問紙調査を実施し,日本191園・中国179園から有効回答を得た。分析の結果,以下が示された。(a) 日本では子どもが自らの経験を通して学ぶ機会を与えるという点から,中国では大人による管理のしやすさと安全確保という点から,物的環境が整えられていた。また,日中共に食事時間の短縮やテーブル配置など,物的環境の調整を通して感染症対応がなされていた。(b) 日本では共食や会話など食事の社会的意味が重視されていることから,パンデミックの影響は中国より大きかった。(c) 幼児期の食事に関する園の考え方は感染症対応にほぼ反映されておらず,パンデミックという未曾有の危機的状況において園独自の考え方が実践に入り込む余地がなかったことが示唆される。 |
キーワード | 新型コロナウイルス感染症,園の食事,文化的差異,保育,幼児教育 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#20080 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 面会交流実施の関連要因および母親の面会交流の受けとめ等と心理的適応との関連 |
著者 | 直原 康光・安藤 智子 |
要約 | 本研究の目的は,面会交流実施の関連要因および離婚後の母親の面会交流の受けとめ等と母親の心理的適応との関連を検討することであった。離婚して子どもと同居する母親を対象とした質問紙調査を行い,348名を分析対象とした。まず,面会交流の実施状況に関連する変数を検討するため,多項ロジスティック回帰分析を行った結果,面会交流の未実施や中断といずれも関連していたのは,父親が面会交流を求めてきたか,養育費の支払状況,親権・監護権の争いであった。つぎに,離婚後の母親の面会交流の受けとめ等と母親の心理的適応との関連を検討した結果,離婚後の面会交流の争い等が母親の面会交流の受けとめを介して,元夫に対する怒り,元夫からの解放,悲嘆などの母親の心理的適応に影響を与えていることが明らかになった。最後に,紛争解決や面会交流支援の実践への示唆について検討した。 |
キーワード | 離婚,面会交流,母親,母親の心理的適応 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#200101 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 単語を手がかりとした単文産出に及ぼす知覚的シミュレーションの影響 |
著者 | 西口 美穂・楠見 孝 |
要約 | 近年,主に理解に関する多くの研究で,言語の処理に知覚的シミュレーションが生じることが示されてきた。本研究では,このような知覚的シミュレーションが文の産出にどのような影響を与えるのかを検討するため,2つの実験を行った。双方の実験とも,参加者にはまず特定の形状をした物体の画像(例:割れていない卵,割れている卵)が繰り返し提示された。そして,実験1では2つの単語(例:卵/冷蔵庫)から文を作成させ,その発話潜時を記録した。実験2では,3つの単語を提示し,ターゲットの単語(例:卵)と他の2つの単語(例:冷蔵庫・フライパン)の中から自由に選んだ単語を用いて文を作成させた。その結果,文と一致した視覚情報はその発話潜時に影響を与えなかった(実験1)。しかしながら,提示された画像と形状が一致することを暗示する文の方が,もう片方の画像の形状と一致することを暗示する文よりも多く産出された(実験2)。この結果は,文の産出における知覚的シミュレーションが伝達すべきメッセージを自発的に形成する際に重要な役割を果たすものであることを示唆する。 |
キーワード | 言語産出,文産出,知覚的シンボルシステム,知覚的シミュレーション,視覚情報 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21001 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 大学生における強みと自殺親和状態との関連に対するウェルビーイングの媒介効果 |
著者 | 伏島 あゆみ・津田 彰・田中 芳幸 |
要約 | ポジティブなパーソナリティ特性である強みの認識や活用は,ウェルビーイングの向上に役立つことが明らかである。だが,強みが自殺のリスクの高さを示す「自殺親和状態」にどのように抑制的に作用するのか,そしてウェルビーイングがその関連性を媒介するか否かは明らかではない。本研究では,強みの認識や活用と自殺親和状態の関連性,およびその関連性に対するウェルビーイングの媒介効果を検討した。大学生305名(平均19.7歳)に対して横断的質問紙調査を行い,媒介分析によって検討した。その結果,強みの認識や強みの活用と自殺親和状態との関連性はそれぞれ異なった。強みの認識は,自殺親和状態への負の直接効果と,ウェルビーイングを介した自殺親和状態への負の間接効果を示した。一方,強みの活用は,自殺親和状態への正の直接効果と,ウェルビーイングを介した自殺親和状態への負の間接効果を示した。これより,強みの認識はたとえウェルビーイングを向上させなくとも自殺親和状態を減弱させる可能性が示された。その一方で,強みの活用に関しては,強みの種類や活用される場面・状況によっては,自殺親和状態が増大する危険性も考えられる。 |
キーワード | 強みの認識,強みの活用,自殺親和状態,ウェルビーイング |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21016 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | ジュニアスポーツにおける指導者ハラスメント体験尺度の探索的検討 |
著者 | 大橋 恵・藤後 悦子・井梅 由美子 |
要約 | ジュニアスポーツにおいて,指導者による身体的暴力(体罰),精神的な暴力に加え,不公平な扱いやひいきなどを含む不適切な指導,すなわち「指導者ハラスメント」の存在が指摘される。しかしながら,指導者ハラスメントについては質的な研究やその影響に焦点をあてた研究が多く,指導者によるハラスメント体験を簡便かつ適切に測定できる尺度が見当たらない。そこで本研究は,小学生でも回答できる具体的な行動を扱った9項目からなるスポーツ場面における指導者ハラスメント体験尺度を作成し,高校時代のスポーツ経験について大学生と専門学校生に調査を行い,内的整合性,再検査信頼性,併存的妥当性などを検討した結果,一定の妥当性と信頼性を確認した。予測妥当性が検討できていないためその検討や対象範囲の検討などが必要であるものの,今後は,この尺度を用いて指導者ハラスメント体験の心理的な影響(動機づけ,精神的不健康)や指導者ハラスメントの生起過程を実証することを期待する。 |
キーワード | 体罰,尺度開発,ハラスメント,生徒,攻撃行動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#20224 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 臨地実習におけるリスク状況に対応したレジリエンス尺度の開発 |
著者 | 竹之内 優美 |
要約 | 本研究の目的は,臨地実習におけるリスク状況に対応した実習用レジリエンス尺度の開発と信頼性・妥当性の検証であった。本尺度は,文献検討によって臨地実習のストレス要因を抽出し,それらを乗り越えて肯定的な適応を果たすために重要なレジリエンス要素が反映されるように下位項目を設定した。4度の予備調査を通して下位項目の調整を図った後,看護系大学生を対象に質問紙調査を実施し,有効回答348名を分析対象とした。探索的因子分析の結果では,予備調査から一貫して5因子構造と考えられ,概ね内的整合性が得られた。確認的因子分析においても,概ね適合度が良く,一つの概念構造として解釈が可能であった。さらに,適応に関連する既存の3尺度との共変性も確認された。また,過去の臨地実習の体験との関連についても検証を行ったところ,臨地実習の辛い経験を乗り越えた者は乗り越えていない者よりも実習用レジリエンス尺度得点が有意に高いという結果が得られ,看護学生用ストレス・コーピング尺度との弁別性も明らかになった。これらのことから,実習適応の予測指標としての新尺度の有効性が示唆された。以上より,実習用レジリエンス尺度の基準関連妥当性および構成概念妥当性が支持された。 |
キーワード | 臨地実習,レジリエンス,尺度開発,基礎教育課程 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21202 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 日本語版ウォータールー利き足質問紙の作成 |
著者 | 大久保 街亜・田中 嘉彦・鳥山 理恵・石川 健太 |
要約 | 利き足の定量的な評価は,さまざまな分野で求められる。それらの分野は,心理学,神経科学,スポーツ科学,医学,医療現場など多岐にわたる。利き足を評価する測定法として,Waterloo Footedness Questionnaire-Revised(WFQ-R)が最も受け入れられている。しかし,WFQ-Rの日本語訳はまだ作成されていない。本研究では,WFQ-Rの日本語訳を作成し,その妥当性と信頼性を検証した。大学生547名(女性153名)を対象に,オンラインで調査を実施した。547名のうち,76名は再テスト信頼性を評価するために2回調査を受けた。調査の結果,日本語訳WFQ-Rは,オリジナル版で提案されたように,2因子構造(操作とバランス)を持ち,高い内的一貫性と再テスト信頼性を持つ,妥当で信頼できる利き足尺度であることが示された。 |
キーワード | 利き足,左右差,利き手 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21218 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | コミュニティ意識と学校の地域連携およびPTA活動への評価との関連 |
著者 | 吉田 琢哉・吉澤 寛之 |
要約 | 本研究ではコミュニティ意識と親が認知する学校の地域連携,およびPTA活動への評価との関連を,性差を含めて検討した。直近3年の間に小学校・中学校でPTA役員経験のある親を対象にweb調査を実施した。公立の小・中学校でPTA役員の経験があると回答した493名の親のデータを分析に用いた。学校の地域連携については,学校活動に地域住民が参加する機会の有無を指標とした。PTA活動への評価については,PTA活動から得る内的報酬と負担感を測定した。分析の結果,総じて学校活動への住民参加の機会がある場合の方が,男女ともにコミュニティ意識が高いとの関連が見られた。コミュニティ意識はPTA活動から得る内的報酬とは正の,PTA活動への負担感とは負の関連を示した。これらの変数の性差を検討したところ,コミュニティ意識やPTA活動への評価は女性の方が総じて低かった。地域活動の担い手不足の問題を解消するための環境のあり方について議論された。 |
キーワード | コミュニティ意識,地域連携,PTA活動,内的報酬,負担感 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#20349 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 青年におけるセルフケアとしての対面動作法とオンライン動作法による心理的作用の比較 |
著者 | 上倉 安代・益子 洋人 |
要約 | コロナ禍においては,身体接触を避ける必要があり,主にクライエントに触れて援助が行われてきた動作法も,非接触での実施が望まれる。そこで,本研究では,援助者による言語的教示と動作に対する助言とフィードバックを基に,非接触で,自身で行える動作法を,「セルフケアとしての動作法」と位置づけた。本研究では,青年に対して, セルフケアとしての動作法を集団式で行い,対面方式とビデオ会議システムを用いたオンライン方式による実施が,ストレス反応,心身の融和感および本来感に及ぼす効果を比較した。1回60分の動作法を対面実施群(28名)とオンライン実施群(17名)に行った結果,両群ともにストレス反応の低減,心身の融和感と本来感の向上において,ほぼ同等の効果が得られた。また,オンライン実施群では,対面実施群よりも身体的安定感と本来感の効果量が大きかった。この点については,オンライン動作法では視覚的情報の活用と自身への没入が深まったためと考えられた。セルフケアとしての動作法は,援助者の動作援助を要さずに自身で動作課題に取り組め,心身の健康のために有用であることが示された。 |
キーワード | コロナ禍,青年,オンライン動作法,対面動作法,セルフケア |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21308 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 日常の音に対する感受性――ASMR,音嫌悪症,および自閉症傾向―― |
著者 | 多田 奏恵・長谷川 龍樹・近藤 洋史 |
要約 | 自律感覚絶頂反応(ASMR)はポジティヴな情動とともに耳元や首筋にゾクゾクした感覚を生み出す。音嫌悪症では,日常の音から不適応な行動やネガティヴな情動が生じる。また,自閉スペクトラム症のなかには聴覚過敏を有する人々もいる。しかしながら,これらの聴覚に関連した反応がどのように相互依存しているのかは明らかではない。我々は,552名の健常者(18歳から60歳)におけるASMR,音嫌悪症,および自閉症傾向の実態を自己報告に基づいて調査した。その結果,若年者の58%にASMR動画の視聴経験があったのに対し,30歳以上の年齢層では12%であった。さらに,これまで本邦では知られていなかった,音嫌悪症を呈する割合は54%に達していた。音嫌悪症調査票 (MQ) の得点は加齢とともに増加していた。MQ得点は男性よりも女性のほうが高かったが,ASMRの感受性にそのような性差は認められなかった。各種調査票の8つの下位尺度に関して因子分析をおこなったところ,ASMR得点とMQ得点の間に正の相関が認められたが,ASMR得点と自閉症傾向(AQ得点)は相関していなかった。ASMRと音嫌悪症の密接な関係は聴覚過敏の特性によるものかもしれない。 |
キーワード | 聴覚,聴覚過敏,クロスモーダル知覚,情動,性格特性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal93-3#21319 |