刊行物のご案内
心理学研究 第94巻 第2号(2023年6月)
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 謝罪とアルコール摂取が怒り感情の表出に及ぼす影響――鉄道利用場面の実験的検討―― |
著者 | 岡田 安功・宮地 由芽子・鶴身 孝介・楠見 孝 |
要約 | 本研究では,鉄道利用場面を模擬した実験室実験により,謝罪とアルコール摂取が怒り感情の表出に及ぼす影響を検討した。実験には,成人男性50名(飲酒あり条件24名,飲酒なし条件26名)が参加した。参加者は,飲酒条件に応じて,アルコールを含むまたは含まない飲料を摂取した後,鉄道利用時の不満状況を提示するアニメーションを視聴した。その後,その状況における駅係員の対応を提示する謝罪なし,謝罪(言葉のみ),謝罪(表情・姿勢あり)の3条件の映像を視聴した。各映像の視聴後,参加者は映像の状況で想定される怒り感情を握力として身体的に表出した。その結果,飲酒あり条件においてのみ,謝罪(表情・姿勢あり)に対する怒り感情の表出の程度が謝罪(言葉のみ)よりも低かった。よって,サービス従事者が表情や姿勢を伴う丁寧な謝罪を行うことは,アルコールを摂取した利用者の怒り感情の表出の抑制に有効である可能性が示唆された。 |
キーワード | 公共交通,怒り,攻撃,アルコール,謝罪 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21042 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 楽観バイアスが高齢者の特殊詐欺対策行動に及ぼす影響 |
著者 | 木村 敦・齊藤 知範・山根 由子・島田 貴仁 |
要約 | 特殊詐欺対策として自宅固定電話機で留守番電話機能を使用することが有効であることが知られているにも関わらず,この対策を用いていない高齢者も多いことが報告されている。そこで本研究では,高齢者を対象として楽観バイアスが留守番電話機能使用や詐欺対策の行動意図に及ぼす影響を検討した。調査により,高齢者の楽観バイアスや特殊詐欺対策行動を測定した (N = 1,598, Mage = 73.2, SD = 5.30)。分析の結果,楽観バイアスは留守番電話機能使用には影響を及ぼさなかった。一方で,楽観バイアスは不審電話着信時に騙されたふりをする行動意図に正の影響を及ぼすことが示された。楽観バイアスや性別など他の要因が特殊詐欺に対する防犯行動に及ぼす影響について考察した。 |
キーワード | 高齢者特殊詐欺,楽観バイアス,リスク認知,防犯行動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21053 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言解除直後の外出自粛・対人接触回避行動の心理的予測因 |
著者 | 伊藤 拓・樋口 匡貴・荒井 弘和・中村 菜々子 |
要約 | 防護動機理論と規範焦点理論の心理的変数が,COVID-19パンデミック中の外出自粛や対人接触回避行動と関連していることが,横断的研究によって示されてきた。しかし,それらの心理的変数が,同様の行動を予測するかどうかを検討した縦断的研究はなかった。本縦断的研究の目的は,それらの心理学的変数が,COVID-19 パンデミック下で発出された緊急事態宣言の解除直後における外出自粛・対人接触回避行動を予測するかどうかを検討することを目的とした。東京都でのCOVID-19 パンデミック下における緊急事態宣言の解除直前と直後に行われたウェブ上での調査に,781名の参加者が回答した。心理学な予測因を分析するために,交差遅延効果モデルが用いられた。分析の結果,緊急事態宣言解除直前の外出自粛・対人接触回避行動をすることの実行可能性認知 (β = .099),命令的規範 (β = .135),記述的規範 (β = -.061) が,緊急事態宣言解除直後の外出自粛・対人接触回避行動を予測していた。これらの結果によって,実行可能性認知,命令的規範,記述的規範と外出自粛・対人接触回避行動の因果的関連性が示唆された。 |
キーワード | COVID-19,予測因,規範,実行可能性認知,回避行動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21054 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 食品ハザードの評価次元の検討――人工性の評価に着目して―― |
著者 | 長谷 和久 |
要約 | 多様なハザードを扱った先行研究において,ハザードは「未知性」と「恐ろしさ」の2次元上で評価されることが示されていた。この一方で,食品に関連するハザードを評価する際には,どれほどその食品が人工的だと感じられるか,すなわち人工性の評価が食品のリスク認知や受容意図に影響することが示されていた。以上を踏まえ,本研究では従来の2次元(恐ろしさ・未知性)に関する項目に人工性に関する項目を加えたうえで,多様な食品ハザード(たとえば,遺伝子組み換え食品)のリスク認知を構成する要因について主成分分析を用いて検討を行った(N = 923)。分析の結果,人工性に関する項目は恐ろしさに関する項目と同一の主成分を構成することが示された。加えて,人工的だと評価される食品は,ベネフィットが低く評価されることも示された。本研究の知見に基づいて,忌避(もしくは,受容)されやすい食品の具体的な特徴について言及するとともに,食品リスク認知研究の今後について議論した。 |
キーワード | 食品ハザード,リスク認知,恐ろしさ,未知性,人工性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21063 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | Balanced Random Forestを用いた10代青年の自殺念慮の予測 |
著者 | 石井 僚 |
要約 | 本研究の目的は,時間的展望とその親子間の一致および家庭のSESに着目し,理論的に関連が考えられるその他の変数とともに,10代青年の自殺念慮の予測を行うことであった。1,137名の10代青年とその父母1,906名の回答からなる社会調査データを用いて,機械学習の1手法であるBalanced Random Forestによる予測を行った。その結果,検証用データセットにおいて自殺念慮ありのデータを全て自殺念慮ありと予測でき,全体での予測の正確度は8割程度であった。また,教育段階に関する親子の時間的展望の一致,家庭のSESは,いずれの重要度の指標においても,先行知見や理論から重要と考えられる本研究で用いた全ての変数の中で上位であった。そのため,10代日本人青年の自殺念慮の予測に対して,親子の時間的展望の一致,そして家庭のSESの重要性が示された。こうした結果は,親子の時間的展望の一致といった発達的側面と文化的側面を考慮した,この時期に特有の対策の必要性を示唆している。 |
キーワード | 自殺念慮,時間的展望,Balanced Random Forest,青年期,自殺の対人関係理論 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#22005 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 日本語版個人的態度安定性尺度(PASS-J)の作成 |
著者 | 松木 祐馬・下司 忠大 |
要約 | 本研究の目的は,個人的態度安定性尺度の日本語版(PASS-J)を作成することであった。個人的態度安定性とは,経時的な態度の安定性を予測する,自分自身の態度の安定性についての知覚に関する個人差と定義される。信頼性と妥当性を検証するため,Web調査を3回実施した。まず,3回の調査から得られたデータに対する確認的因子分析の結果から,PASS-Jは原版と同様の因子構造を持つことが示された。次に,2週間に渡って実施された調査1と調査2では,時点間でPASS-Jの相関分析を行ったところ,十分な再検査信頼性が示された。さらに,マルチレベル分析を行ったところ,複数の消費者ブランドに対する態度において,PASS-Jの得点が高い人は,調査1時点の態度が調査2時点の態度をより予測しており,一定の予測的妥当性を有することが示された。加えて,調査3では,PASS-Jと既存の尺度との相関分析を行った結果,一定の収束的妥当性を有することが示された。上記の結果から,PASS-Jは個人的態度安定性を測定する上で有用な尺度であることが明らかとなった。 |
キーワード | 態度の安定性,個人差,信頼性,妥当性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21240 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 日本語版BACS (Beliefs About Crying Scale) の作成 |
著者 | 白井 真理子・加藤 樹里・菊谷 まり子 |
要約 | 感情的な出来事に伴って涙を流すことは,普遍的かつ人間特有の行動であると言われている。本研究の目的は,Belief About Crying Scale(BACS)の日本語版を開発することであった。BACSは,感情の揺れ動きによって泣くことが,ポジティブな気分回復に有益であるとするかどうかの信念を,個人および対人関係において,評価するものである。研究1では,因子構造と再検査信頼性を検討した。その結果,日本語版と原版BACSの因子構造は類似しており,一定程度の再検査信頼性を有していることが示された。研究2では,妥当性の検証を行った。その結果,日本語版BACSは,想定される変数と理論的に妥当な相関を持つことが明らかになった。これらの結果から,日本語版BACSは原版と類似した特性を示し,妥当性・信頼性ともに許容範囲内であることが示された。 |
キーワード | 泣き,泣きに対する信念,涙,日本語版BACS |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#22206 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 被災前の職場環境が被災した地方公共団体職員の職場ストレッサーおよびストレス反応に与える影響 |
著者 | 髙橋 幸子・松井 豊 |
要約 | 本研究は,地震,豪雨や局地的な土砂崩れなどの自然災害から復興した地方公共団体職員を対象に,被災前の良好な職場環境が職場ストレッサーおよびストレス反応に影響する過程を明らかにすることを目的とした。被災地方公共団体 (2団体) で災害対応業務に従事した職員943人を対象とした横断的な質問紙調査の結果, PTSD症状を有する高リスク者は全体の8.6 %,気分・不安障害である可能性が高い者は全体の6.0 %であった。パス解析の結果,被災前から職場環境が良好であるほど被災後に住民とのポジティブな関わりが増え,ネガティブな関わりが減ること,業務上の人間関係の苦労が減ることが明らかになった。また復興業務で人間関係の苦労や業務多忙,業務の自己統制感の無さを多く経験しているほどPTSD症状と気分不安障害の症状が強いことが明らかになった。これらの結果は,日ごろから良好な職場環境が被災前の備えとして,復興業務に伴う職場ストレッサーやストレス反応を抑制するという可能性を示唆している。 |
キーワード | 地方公共団体職員,災害,職場ストレス |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21324 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 婚姻時における姓選択と両面価値的性差別主義の関連 |
著者 | 福留 広大・森永 康子 |
要約 | 日本では民法上,夫婦は同じ姓を名乗らなければならず,95%以上のカップルで妻が夫の姓を名乗っている。本研究では,未婚の男女を対象として,両面価値的性差別主義と姓選択の関連について検討した。その結果,男性は姓の変更を拒否するが女性は受け入れる傾向があること,男女にかかわらず敵意的性差別主義が強い場合には弱い場合よりも姓の変更を受け入れる方向にあること,好意的性差別主義を強く支持する男性は姓変更を拒否する傾向にあることが示された。これらの結果をもとに,日本における両価価値的性差別主義と姓選択の関係について考察した。 |
キーワード | 姓選択,敵意的性差別主義,好意的性差別主義 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-2#21325 |