刊行物のご案内
心理学研究 第94巻 第3号(2023年8月)
種類 | 原著論文 |
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タイトル | カタカナ語と漢字語の既知感,理解,印象の違い――付印式,記述式語彙テストの比較―― |
著者 | 垣花 真一郎 |
要約 | 本研究では大学生に対し,カタカナ語,漢字語に関して,付印式及び記述式の語彙テスト,印象評価課題を実施した。語彙テストの結果は,高親密度語の場合,カタカナ語の成績は付印式の方が記述式より高く,漢字語の場合はその逆であった。低親密度語についても同様の結果であり,加えて漢字語については両方式のテストともに訓読みが有る漢字語が無い漢字語より成績が高かった。この結果は,カタカナ語は既知感がある語でも意味理解が不十分であり,未知語の場合は意味推測が困難であること,漢字語は意味推測がしやすく,特に訓読みが有る場合はそれが顕著であることを示している。また,印象評価においては,カタカナ語が漢字語より新しく,柔らかい印象を与えることが示された。書き言葉における漢字の利点とカタカナ語の欠点が議論された。 |
キーワード | カタカナ語,漢字語,付印式語彙テスト,表音文字, 表意文字 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22021 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 日本語版状態ホープ尺度の作成および信頼性・妥当性の検討 |
著者 | 鍋田 奈々・田中 圭・生田目 光・佐藤 洋輔・宇野 カオリ・沢宮 容子 |
要約 | 本研究では,日本語版状態ホープ尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討した。確認的因子分析の結果,日本語版状態ホープ尺度は,原版と同様の2因子構造を有し,良好な内的一貫性を有していた。また,状態ホープは,特性ホープ,状態自尊感情,ポジティブ感情と正の相関,ネガティブ感情と負の相関であった。これらの結果は,尺度の構成概念妥当性を支持するものであった。さらに,状態不安において,状態ホープは特性ホープの影響を超える独自の説明力を持ち,尺度の増分的妥当性を示していた。さらに,大学生(N = 154)を対象に作成した30日分の日報を用いて構成概念妥当性を示し,状態ホープが日常的出来事と関連することが示された。また,交差遅延効果モデルにより,状態ホープ,特性ホープ,精神的健康との関連性が示された。本研究の結果から,状態ホープ尺度は十分な信頼性と妥当性を有していることが示された。 |
キーワード | 状態ホープ,日本,信頼性,妥当性,日誌法 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22202 |
種類 | 研究資料 |
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タイトル | 日本語版感情ビネットの作成と学生サンプルにおける妥当性の検討 |
著者 | 田島 勇二・栗山 七重・志水 佑后・佐々木 淳 |
要約 | 文章による感情喚起刺激が存在すれば,従来の画像・動画による刺激の特徴である,実験または調査時における環境の制約や,参加者に心理的なショックを生じうること,罪悪感などの複雑な感情を喚起しづらいことといった課題に対応できる。そこで,本研究ではWingenbach et al. (2019) が作成した,シナリオによる感情刺激である感情ビネットを日本語に翻訳し,その妥当性を検討することを目的とした。ISPORによるガイドラインに基づいた翻訳過程では,順翻訳者2名による順翻訳の後,逆翻訳者1名がそれを英語に逆翻訳し,原著者の確認と修正を得た上で,感情喚起のための40個の感情ビネット(怒り,嫌悪,恐怖,悲しみ,喜び,感謝,罪悪感,ニュートラルのカテゴリを含む)が作成された。続いて,日本人学生70名に対して調査を行った。感情カテゴリごとに感情語の的中率が最も低いビネットを除いた分析の結果,クラスター分析では感情カテゴリごとにビネットが独立していることが確認され,かつビネットの許容範囲の的中率と強度が認められた。以上の結果から感情ビネットの妥当性が確認され,最終的な刺激セットである32個のビネットが完成した。ビネットは,感情に関する研究(例えば,感情喚起や感情認知など)に用いることができる。 |
キーワード | 場面想定法,基本感情,視点取得,共感性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22203 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 日本人高校生女子のボディイメージ――客観的シルエット図による再検討―― |
著者 | 鈴木 公啓 |
要約 | 本研究は,客観的シルエット図を用いたうえで,高校生女子のボディイメージの特徴,そして,それらと体型不満や痩身願望との関連を明確にすることを目的とした。同時に,男性高校生の有する高校生女子ボディイメージも扱った。高校生女子169名と高校生男子148名を対象に,客観的シルエット図を用いて,いくつかのボディイメージについて回答を求めた。また,高校生女子には体型不満と痩身願望についての項目への回答も求めた。分析の結果,実際には大きな過見積もりをおこなっていないこと,ただし,現在よりもかなり痩せた体型を理想としていることが確認できた。また,体型の実体ではなく認識が体型不満や痩身願望と関連していることが示唆された。そして,理想像を設定する際に同性の視線をどう見積もっているかが反映されている可能性が示唆された。 |
キーワード | 身体像(ボディイメージ),シルエット図,体型不満,痩身願望 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22309 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 対人過敏傾向および自己優先志向とインターネット依存の関連 |
著者 | 鈴木 雄大・坂本 真士・村中 昌紀・山川 樹・亀山 晶子・松浦 隆信 |
要約 | 本研究では,対人過敏傾向および自己優先志向それぞれとインターネット依存傾向の関連について,これら変数間の直接効果,および問題解決型コーピング傾向と感情表出型コーピング傾向それぞれを媒介変数とした間接効果に注目して検討した。大学生114名を対象に質問紙調査を行い,そのうち回答もれのない92名が分析対象者となった。その結果,対人過敏傾向および自己優先志向それぞれからインターネット依存傾向への直接効果が有意であった。また,問題解決型コーピング傾向を媒介変数とした対人過敏傾向からインターネット依存傾向への間接効果は有意でなかったものの,感情表出型コーピング傾向を媒介変数とした自己優先志向からインターネット依存傾向への間接効果は有意であった。自己優先志向からインターネット依存への直接効果は自己優先志向の特徴が反映された結果であり,また間接効果は不快感を表出しようとする動機づけのプロセスである可能性が考察された。 |
キーワード | 人過敏傾向,自己優先志向,インターネット依存,問題解決型コーピング,感情表出型コーピング |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22311 |
種類 | 研究報告 |
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タイトル | 未来は君の右手の小指にあるのか?――佐藤(2014)の追試による時間概念の検討―― |
著者 | 池田 慎之介 |
要約 | 佐藤(2014)は,3つの実験(それぞれn = 10)を通じて,我々の身体上に時間概念が関連付けられており,右手と未来,左手と過去が関連していることを報告している。本研究では,佐藤(2014)と同様の手続きで追試を行った。更に,片手のみを用いる概念的追試の条件も追加し,右側の指と左側の指にも時間概念との関連付けが見られるかどうかも調べた。その結果,実験1(n = 10)では,両手条件でも右手条件でも時間概念との関連付けは見られず,倍のサンプルサイズを用いた実験2(n = 20)では,両手条件において一部時間概念との関連付けが見られた。更に実験3(n = 20)では,両手条件においても左手条件においても時間概念との関連付けは見られなかった。これらの結果から,時間概念は左右の指とは関連付けられておらず,また左右の手との関連付けも佐藤(2014)が報告したほど頑健ではない可能性が示唆された。 |
キーワード | |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22317 |
種類 | 展望論文 |
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タイトル | 処理流暢性を巡る議論の変遷 |
著者 | 八木 善彦・笠置 遊・井上 和哉 |
要約 | 課題や刺激処理の容易さは,多様な判断に一貫して肯定的な影響を及ぼすことが示されてきた (流暢性効果)。本論文では,流暢性効果を説明するための八つの理論 (流暢性効果モデル) について紹介し,既存の証拠との整合性を議論した。整合性に関する議論は,流暢性効果モデルが説明すべき三つの観点 (Unkelbach & Greifeneder, 2013),(a) なぜ判断への影響が肯定的であるのか (方向性),(b) 効果の基盤情報は単一であるか複数であるか (単一性),(c) 多様な判断に一貫性の高い影響を与える仕組みは何か (多様性) に基づいて行った。既存の証拠は,情動的判断課題においてはポジティブな基盤情報が自動的に,認知的判断課題においては中性的な基盤情報が解釈過程を経て,判断に影響を与える可能性を示した。これらの証拠に基づき,既存のモデルを融合的に解釈する方法について議論を行った。 |
キーワード | 処理流暢性,流暢性効果,判断,単純接触効果 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal94-3#22401 |