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心理学研究 第95巻 第1号(2024年4月)

種類 原著論文
タイトル 児童養護施設における生活経験の有無による抑うつ症状の比較――小児期逆境経験に着目して――
著者 中井(松尾) 和弥・福井 義一
要約 本研究では,児童養護施設での生活経験と小児期逆境体験が抑うつ症状に及ぼす影響を検討した。児童養護施設での生活経験を持つ人々とそのような経験を持たない人々をWeb上でサンプリングし,最終的に児童養護施設での生活経験を持つ人々75名と,そのような経験を持たない人々96名のデータを分析した。児童養護施設における生活経験と抑うつ症状の連関を検討した結果,児童養護施設での生活経験を持つ人々は,そのような経験を持たない人々と比較して,抑うつ症状が強かった。一方で,抑うつ症状の深刻さに対する児童養護施設での生活経験の効果は,小児期逆境体験を考慮すると消失した。また,児童養護施設での生活経験を持つ人々とそのような経験を持たない人々のどちらにおいても,小児期逆境体験は抑うつ症状を増悪させていた。本研究の結果より,児童養護施設を退所した人々の抑うつ症状の深刻さは,小児期逆境体験の影響を強く受けている可能性が示唆された。
キーワード 児童養護施設退所者,小児期逆境体験,抑うつ症状
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22023
種類 原著論文
タイトル 共行為場面における自己関連刺激処理――事象関連電位による検討――
著者 加藤 公子・吉崎 一人
要約 本研究は,他者の課題表象活性と自己刺激処理の優先性との関係を調べるため,Go/No-goフランカー課題を用いて,他者との課題遂行(実験1)及び,個人での課題遂行(実験2)における事象関連電位を記録した。課題は,画面に呈示された文字列の中央の文字が,自己のターゲットであれば反応することであった。実験1では,No-go試行の中でも自己ターゲットがフランカーとなる刺激に対し,P3b潜時の延長,振幅の増大が認められ,刺激評価の進行が推測された。同刺激に対する偏側性準備電位(LRP)からは反応準備電位が観察された。一方,実験2ではNo-go試行に対するP3b振幅は認められず,LRPも確認されなかった。これらの結果は,他者との共行為は自己優先性をもたらす要因となる可能性を示唆した。
キーワード 共行為,自己優先性,フランカー課題,事象関連電位
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22026
種類 研究資料
タイトル 三領域嫌悪感尺度日本語版の妥当性と信頼性の検討
著者 荒井 崇史・岩佐 和典
要約 三領域嫌悪感尺度(Three Domains of Disgust Scale: TDDS)は,進化適応の観点から想定された病原体,性的,道徳的の3つの領域における嫌悪感感受性を測定する。この尺度は日本語に翻訳されているが,日本国内での妥当性・信頼性は検証されていない。そこで,本研究では,日本語版TDDSの妥当性と信頼性を検証することを目的とした。研究1では,1,030名(男性515名,女性515名)を対象にWeb調査を行い,尺度の因子構造や併存的妥当性,そして内的一貫性の検討を行った。その結果,病原体嫌悪においてやや問題が見られたが,性的嫌悪と道徳的嫌悪は妥当性と信頼性を有していた。研究2では,大学生108名(男性22名,女性86名)に対して2週間間隔で2度調査を行い,尺度の再検査信頼性を検証した。その結果,TDDSは再検査信頼性も高いことが示された。以上の研究を踏まえて,最終的に尺度の妥当性と信頼性について議論した。
キーワード 嫌悪,三領域嫌悪感尺度,病原体嫌悪,性的嫌悪,道徳的嫌悪
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22201
種類 研究資料
タイトル 目標追求時の困難な経験に対する信念尺度の開発
著者 外山 美樹・清水 登大・長村 圭吾
要約 本研究では,困難な経験は有益な結果をもたらすと考える「有益性信念」と,困難な経験は有害な結果をもたらすと考える「有害性信念」の2つの下位尺度から成る「困難な経験に対する信念尺度」を開発することを目的とした。調査対象者は大学生と社会人で,3つの調査を実施した。尺度を作成するにあたっては,内容的な側面の証拠を確保した上で,項目を選択した。本研究の結果より,本尺度の一般化可能性の証拠(内的一貫性,時間的安定)が確認された。また,本尺度の2因子構造のモデルの適合度は,良好であり,構造的側面の証拠が確認された。加えて,本尺度と (a) 理論的に関連が予想される外的変数,(b) 目標達成が困難になった際の目標追求行動,(c) 困難な課題の取り組み時間,との関連を検討した結果,予想通りの関連が見られた。これらの結果より,本尺度の外的側面の証拠が確認された。最後に,本尺度を用いた今後の研究の展望について議論された。
キーワード 困難な経験,信念,目標追求行動
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22226
種類 研究報告
タイトル 見た目の信頼性に依存した高齢者の推測バイアスの除去――若年成人と行う投資ゲームの効果――
著者 澤田 知恭・原田 悦子
要約 本研究では,高齢者が持つ顔の見た目の信頼性に依存した推測バイアスが,若年成人と会話しながら行う投資ゲームにより除去されるか検討した。実験には48名の高齢者が参加した。参加者は投資ゲームを一人で行う群,初対面の高齢者と一緒に行う群,初対面の若年成人と一緒に行う群のいずれかに分けられた。参加者は投資ゲームを行った後に,信頼性記憶テストに回答した。信頼性記憶テスト成績について Multinomial Processing Tree モデルを用いた分析では,若年成人と会話しながら投資ゲームを行った高齢者のみ,人物の信頼性を推測する際に顔の見た目の信頼性に依存しないことが示された。この結果は,高齢者が詐欺被害に繰り返し遭うリスクを低減する対策に有用な示唆を与える。
キーワード 認知的加齢,バイアス除去,反対意見の考察,信頼性判断,世代間交流
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22328
種類 研究報告
タイトル web実験によるお辞儀効果の再現性の検討
著者 大杉 尚之・河原 純一郎
要約 日本において,お辞儀が第一印象に影響することは,学校教育や入社後の新人研修セミナーで特集を組まれるなど一般的に信じられている。この傾向はお辞儀に関する実験的研究でも示されており,お辞儀により顔の魅力が上昇することが明らかとなっている。しかし,これまでの研究では,大学生を対象とし,実験室で個別に実験が行われたため,結果の普遍性や再現性の観点で制限がある。そこで本研究では,日本人参加者を対象にウェブでのお辞儀効果の再現実験を行った。その結果,お辞儀は,静止した状態(統制条件)に比べて3DCGの人物モデルの顔の魅力を高めること,お辞儀の効果は停止時間を長くするとより高まることが示された。この結果は,大学生と社会人の両方で観察されたことから,幅広い属性(年齢,性別,自己観)の日本人参加者に対して,お辞儀効果が再現できることが示唆された。
キーワード 顔の魅力,お辞儀動作,挨拶行動,web実験,追試
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22336
種類 研究報告
タイトル 財産犯受刑者における更生への動機づけの特徴及び影響する要因について
著者 鈴木 愛弓・金綱 祐香・和智 妙子・渡邉 和美
要約 財産犯は,我が国における主要な犯罪類型の一つである。その再犯防止のためには,受刑者が更生に向けて自身を変化させようとする動機づけを高めることが重要である。そこで,本研究では,財産犯受刑者の更生への動機づけの特徴及び影響する要因について,更生への動機づけ尺度を用いて調査を行った。調査対象者は,窃盗又は詐欺により新たに刑務所に入所した男子受刑者であり,418名の受刑者から回答が得られた。因子分析の結果,財産犯受刑者においては,前考慮期,考慮期,行動期,メンテナンス期の4因子が見いだされた。更生への動機づけの各尺度得点を目的変数とした重回帰分析の結果,窃盗事犯者と詐欺事犯者では,異なる要因が影響することが示された。窃盗事犯者の更生への動機づけには犯罪に対する認否が,詐欺事犯者の更生への動機づけには勤勉な性格特性が関連していた。
キーワード 更生への動機づけ,財産犯受刑者,再犯防止
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-1#22337