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心理学研究 第95巻 第4号(2024年10月)

種類 原著論文
タイトル ガム咀嚼の選択的注意への影響――メタ分析を用いた検討――
著者 阿部 雄大・西村 律子
要約 本研究はガム咀嚼が選択的注意機能へどの程度の影響を示すのかメタ分析を実施し検討することを目的とした。また,選択的注意機能の評価課題(フランカー課題,ストループ課題,サイモン課題)ごとのメタ分析も実施し,課題形式によるガム咀嚼の影響の違いについても検討した。その結果,論文全体に対する分析では,固定効果モデルにおいて有意な平均効果量が確認された。しかし,研究間の異質性が有意であったため,課題形式の違いに着目し,選択的注意機能を評価する課題ごとにメタ分析を行った。その結果,フランカー課題およびストループ課題においては,固定効果モデルおよび変量効果モデルに有意な平均効果量が見られなかった。一方,サイモン課題においては固定効果モデルおよび変量効果モデルともに有意な平均効果量が確認された。以上のことから,ガム咀嚼は選択的注意の中でも特に反応選択を伴う後期段階において適合性効果を減少させる効果があると言える。
キーワード ガム咀嚼,選択的注意,メタ分析
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#22042
種類 原著論文
タイトル 刑務所への接触が施設や出所者への態度に及ぼす影響――PFI刑務所開設地域の分析――
著者 上瀬 由美子
要約 日本では再犯防止推進のために,出所者に対する理解不足に起因する偏見を社会の中で低減させることが課題となっている。本研究では刑務所と地域の共生を目指して近年開設された2つのPFI刑務所の近隣住民に質問紙調査を実施し,開設後の地元刑務所に対する接触が,施設への態度,刑務所制度への信頼,出所者に対する受容的態度に与える影響を分析した(分析対象者: N=1782)。共分散構造分析の結果,施設に対する接触は,地元刑務所に対する肯定的な評価を媒介して,刑務所制度への信頼を高めていた。またこの信頼構築は出所者への受容的態度を高め,施設への抵抗感を低めていた。このことから出所者の社会復帰への理解と支援を高めるためには刑務所制度への信頼が重要であることが示された。また施設への直接的/間接的接触だけでなく,刑務所で就労・ボランティアを行う家族や知り合いをもつことによっても,刑務所開設による地域変化や施設の地域貢献度を強く感じることにつながっていた。この点に基づき,国職員と地域住民が協働する制度が,拡張接触を生み出す機能を果たしていると論考された。
キーワード 偏見低減,協働,拡張接触,社会的統合,社会政策
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#23001
種類 研究資料
タイトル 就業者個人の生産性の高さを測定する尺度の開発
著者 市川 玲子・鈴木 美穂・谷沢 典子・秋冨 穣
要約 就業者の生産性は,心身の健康状態だけでなく,さまざまな要因から影響を受けることが示されている。しかし,既存の生産性尺度の多くは,労働時間損失率(absenteeism)を指標として用いている。本論文では,就業者の生産性の高さをさまざまな観点から測定する主観的生産性尺度 (Subjective Productivity Scale: SPS) を開発した。研究1では,就業者の生産性が高い状態をボトムアップ的に整理した。研究2ではSPSの項目を作成し,研究3においてその信頼性と妥当性を検証した。SPSの下位尺度は,それぞれabsenteeismではなく労働遂行能力と関連しており,SPSが既存の尺度とは異なるアプローチで就業者の生産性を測定していることが示唆された。さらに,生産性が高い状態の個人がネガティブな状態も経験しうることが示されたことから,生産性が高い状態を多面的に理解する必要があることも明らかとなった。
キーワード 労働生産性,労働遂行能力,就業者,主観的生産性尺度
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#22225
種類 研究資料
タイトル 児童用幸福感尺度の作成および信頼性・妥当性の検証
著者 小嶋 佑介・中坪 太久郎
要約 子どもを対象とした幸福感の測定は,近年その重要性が指摘されるようになっている。日本においても,子どもを取り巻くさまざまな社会的問題に対応していくために,子ども自身が回答可能な自己報告式の尺度を作成する必要があると考えられる。本研究の目的は,児童を対象とした児童用幸福感尺度を作成し,その信頼性および妥当性を検証することであった。対象は小学校5年生および6年生であり,はじめに,幸福についての記述から尺度項目を作成した。次に,探索的因子分析を行った結果,児童用幸福感尺度は,3因子12項目で構成されることが示された。最後に確認的因子分析および,精神的健康度,セルフ・エスティーム,ソーシャル・サポートといった近接概念との相関分析から妥当性についての検証を行った。
キーワード 幸福感,子ども,児童
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#22228
種類 研究資料
タイトル COVID-19への感染予防行動としてのマスク着用の動機――尺度の作成と妥当性の検討――
著者 宮崎 弦太
要約 本研究では,COVID-19に対する感染予防行動としてのマスク着用について,その動機を測定するための尺度を作成し,その妥当性を検討した。2023年2月に日本人成人を対象にオンライン調査を行い,747名のデータを分析対象とした。構成概念妥当性に関する構造的な側面の証拠として,探索的因子分析の結果から,マスク着用の動機尺度は,向社会的動機,自己利益志向的動機,他者の評価を懸念したマスク着用の3因子で構成されることが示された。各下位尺度の信頼性は高かった。構成概念妥当性に関する外的な側面の証拠として,偏相関分析の結果から,マスク着用の向社会的動機は,特性向社会性および主観的幸福感と正の関連があることが示された。また,他者の評価を懸念したマスク着用は,他者からの否定的評価に対する社会的不安と正の関連があり,ポジティブ感情およびネガティブ感情と正の関連があった。マスク着用の自己利益志向的動機は,他者からの否定的評価に対する社会的不安と正の関連があり,ポジティブ感情と負の関連があった。これらの結果は,本研究で作成したマスク着用の動機尺度について,構造的な側面と外的な側面の妥当性についての証拠が得られたことを示している。
キーワード マスク着用の動機尺度,COVID-19に対する感染予防行動,向社会性,他者からの否定的評価に対する社会的不安,主観的幸福感
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#22229
種類 研究資料
タイトル 成人期初期の日本人に対する実行機能行動評価尺度の信頼性・妥当性の検討
著者 諏訪 絵里子・樋口 隆太郎・稲月 聡子・家島 明彦
要約 実行機能とは,目標を達成するために脳機能を調整および制御する広範にわたる認知プロセスのことを指す。うつ病や注意欠如・多動性障害(AD/HD)など様々な心理的症状が,実行機能障害に関連していることが知られている。実行機能の評価は神経心理学的評価の中心的な要素となっており,特に日常的な文脈で能力を評価できる質問紙尺度による評価は,生態学的に妥当で有効な方法である。中でも実行機能行動評価尺度は欧米で標準化され,最も一般的に使用されている尺度である。本稿では,実行機能行動評価尺度成人用(The Behavior Rating Inventory of Executive Functioning: BRIEF-A)の日本人に対する信頼性・妥当性を検討した。日本在住の20 歳から 29 歳までの日本人552名を対象にアンケート調査を実施した。確認的因子分析の結果,先行研究で示されている 3 因子モデルのモデル適合度は十分で,内的整合性の値も十分に高かった。また,妥当性を調査するために,既存の二つの尺度との相関を調べ,さらにAD/HD 関連の症状が多いグループと少ないグループのスコアを比較した。これらの結果から,BRIEF-A が成人期初期の日本人において十分な信頼性と妥当性を担保していることが示された。
キーワード 実行機能,自記式評価尺度,成人期初期,信頼性,妥当性
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal95-4#22231