刊行物のご案内
心理学研究 第96巻 第6号(2026年2月)
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 運転者における攻撃行動の心理的プロセス――「あおり運転」処分者の発話の質的分析―― |
著者 | 小菅 律・岡村 和子・上野 彩華・中野 友香子・金内 さよ・藤田 悟郎 |
要約 | 本研究では、運転者における攻撃行動の心理的プロセスを明らかにすることを目的とした。実際に攻撃行動により運転免許停止等の行政処分を受けた運転者118人の発話について、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチの手法を用いて分析を行った。その結果,「事件前の状況」,「相手の行動への反応」,「自分の行動意図」,「自分の行動の認知」という4つの段階を経て攻撃行動に至り,その後,「自分の行動の結果の認知」が行われ,それにより直接あるいは「行動抑制の契機」の影響を受けて行動の終結につながる場合も,さらなる攻撃行動につながる場合もあるというプロセスが明らかになった。一般運転者と処分を受けた運転者で共通点があった一方,処分を受けた運転者では事件前のプライマーの存在,怒りの維持・増幅,原因帰属の偏り,洞察の不足が特徴的であることが示された。処分を受けた運転者には,認知行動モデルに基づく介入等一般的な攻撃行動の抑止対策を応用した介入が有効である可能性が示唆された。 |
キーワード | あおり運転,攻撃行動,質的分析,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ,怒り |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#23055 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 心的対比を用いて創造性を高める |
著者 | 外山 美樹 |
要約 | 本研究の目的は,日本人を対象にして,心的対比が創造性に及ぼす影響について検討することであった。具体的には,日本人においては,ネガティブなFBを受ける(目標の達成可能性を低める操作を行う)場合に,心的対比を用いることで創造的パフォーマンスが向上するという仮説を検証することにした。また,そのメカニズムとして,認知的柔軟性と認知的持続性が媒介すると予想した。実験参加者は18歳―60歳の成人432名であった。創造性を測定する課題としては,拡散的思考を測定する代表的な課題であるUnusual Uses Taskを用いた。本研究の結果より,仮説は支持され,日本人においては,心的対比のポジティブな効果は,目標の達成が困難な場合に見られることが示された。また,心的対比を用いることで創造的パフォーマンスが向上するメカニズムにおいて,認知的柔軟性と認知的持続性が媒介することが示された。従来の創造性トレーニングとは全く異なる技法である心的対比が,創造性を向上させる重要な方略となりうる可能性について考察がされた。 |
キーワード | 心的対比,創造性,認知的柔軟性,認知的持続性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24008 |
種類 | 原著論文 |
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タイトル | 家庭での学習に対する親のかかわりが子どもの語彙力に与える影響 |
著者 | 鈴木 雅之・篠ヶ谷 圭太・小野田 亮介 |
要約 | 本研究では,東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2016―2022」の2つのコホートのデータを用いて,家庭での学習に対する親のかかわりが子どもの学力に与える影響について,学力指標として語彙力に着目して検討した。分析には,語彙力テストの実施された2016年度(Wave2)と2019年度(Wave5),2022年度(Wave8)のデータを用いた。分析対象となったコホートは2つあり,1つ目のコホート(N = 1,368)は小学3年生と6年生,中学3年生の時に,2つ目のコホート(N = 1,177)は小学6年生と中学3年生,高校3年生の時に語彙力テストに回答した。条件付き潜在成長モデルによる分析を行い,Wave2時点での親のかかわりによって,語彙力の変化量が予測できるかを検討した。その結果,傾き因子と親のかかわりの間に関連はみられず,Wave2における親のかかわりは語彙力の変化量を予測しなかった。次に,親のかかわりが語彙力を高めるかという,因果に迫った検討をするために,交差遅延パネルモデルによる分析を行った。その結果,親の自律性支援は子どもの語彙力を高め,統制と直接的指導は語彙発達を抑制することが示唆された。 |
キーワード | 語彙力,親のかかわり,自律性支援,統制,子どもの生活と学びに関する親子調査 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24009 |
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 失業者の心理的ストレッサー尺度の開発――多面的理解のために―― |
著者 | 髙橋 美保・勝又 結菜 |
要約 | COVID-19によって失業者は国際的に増加した。しかし,失業者の心理的ストレッサーを多面的に測定するツールはない。本研究は失業者の心理的ストレッサーを離職者,失業生活者,求職者の三つの側面から測定する尺度を開発した。質的インタビュー,量的調査による予備調査を経て,インターネット調査により,男女1,000名の失業者を対象に本調査を行った。結果,離職者としてのストレッサーは,「離職に対する他責・被害者意識」,「離職に関する自責・自己評価の低さ」の2因子,失業生活者としてのストレッサーは,「失業中の活動性の低下・生活の乱れ」,「失業生活者の孤立・生きづらさ」の2因子,求職者としてのストレッサーは1因子が抽出され,信頼性と妥当性が確認された。本尺度が,適切な心理的支援につながる一助になることが期待される。 |
キーワード | 失業者,ストレッサー尺度,離職者,失業生活,就職活動 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24205 |
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 日本語版Big Five Inventory-2の短縮版の検討 |
著者 | 吉野 伸哉・下司 忠大・橋本 泰央・上野 雄己・三枝 高大・小塩 真司 |
要約 | 本研究の目的はBig Five Inventory-2の短縮版であるBFI-2-SおよびBFI-2-XSの日本語版を作成することであった。調査1では60項目から成るBFI-2-Jを測定し,短縮版に対応する30項目 (BFI-2-S-J) および15項目 (BFI-2-XS-J) における利用可能性を検討した。調査2ではBFI-2-S-Jを測定し,心理尺度として使用できるか検討した。オンライン上で質問紙調査を実施し,分析対象者は調査1では962名,調査2では560名であった。両調査では妥当性検証のために他の心理尺度も測定していた。ランダム切片モデルによる探索的因子分析を用いた因子構造,項目反応理論を用いた測定精度,収束的・弁別的妥当性,多母集団同時分析によるデモグラフィック属性間の測定不変性,さらにBFI-2-S-Jのファセット得点における利用可能性について検討をおこなった。これらの分析結果を通じて,本尺度がBig Fiveパーソナリティを測定する心理尺度として有効であることを示した。 |
キーワード | Big Fiveパーソナリティ,心理尺度,短縮版,簡易尺度 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24214 |
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 就学前後の子どもを対象としたオンライン認知検査の開発と信頼性と妥当性の検討 |
著者 | 稲田 尚子・實吉 綾子・敷島 千鶴・赤林 英夫 |
要約 | 本研究は,就学前後の子どもを対象としてオンライン認知検査 (Cognitive Abilities Test-Online: CAT-O) を開発し,その信頼性,妥当性,因子構造を検討することを目的として行われた。CAT-Oは,以下の3つの検査で構成されている。オンライン絵画語い検査 (Picture Vocabulary Test- Online: PVT-O),オンライン視覚的推論検査 (Visual Reasoning Test-Online: VRT-O),及び視覚的ワーキングメモリ検査 (Visual Working Memory Test- Online: VWMT-O) である。研究1では,PVT-O,VRT-O,VWMT-Oはそれぞれ十分な再検査信頼性を示し,また既存の関連した心理検査との間に中程度から高い有意な正の相関を示した。研究2では,全国の無作為標本 (N = 1,251) を用いた順序カテゴリデータに対する確認的因子分析により,3因子モデルが最も適合度が高いことが示された。各テストの内的整合性が高いこと,正答率とカテゴリカル因子得点の平均レベルが学年レベルに応じて上昇していることより,信頼性と妥当性のさらなる証拠が得られた。CAT-Oの研究及び臨床現場での実装が今後の課題である。 |
キーワード | オンライン認知検査,信頼性,妥当性 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24226 |
種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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タイトル | 不安と心配はなぜ生じるのか?――日本語版コントラスト回避質問紙の作成―― |
著者 | 松本 昇・津藤 央亘・Sandra Llera・Michelle Newman |
要約 | 全般性不安症の個人が不安や心配を持続させるメカニズムとしてコントラスト回避が注目されている。コントラスト回避とは,急激なネガティブ情動が生じるのを防ぐために,あらかじめネガティブ気分状態に居続けようとすることを指す。全般性不安症の個人は急激なネガティブ情動の発生を恐れており,その回避のために心配をする。本研究の目的は,個人のコントラスト回避傾向を査定するために開発されたコントラスト回避質問紙(Contrast Avoidance Questionnaire: CAQ)の日本語版を作成し,信頼性と妥当性の検証を行うことであった。CAQには心配に焦点を当てたバージョン(CAQ-W)とより広範なネガティブ気分を対象としたバージョン(CAQ-GE)があり,本研究ではその両方を開発した。研究1では日本語版CAQの構造的妥当性と内的一貫性が,研究2では再検査信頼性が,研究3では基準関連妥当性がそれぞれ検証され,原版を概ね再現することができた。CAQの臨床応用と,診断横断的な適用について議論された。 |
キーワード | 不安,心配,感情制御,回避,診断横断的アプローチ |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24227 |
種類 | 展望論文 |
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タイトル | 心理学研究における分散パーソナルデータストアの可能性 |
著者 | 田口 恵也・濱田 大佐・森口 佑介・鹿子木 康弘 |
要約 | 近年の心理学領域では,データ共有の重要性が説かれており,データ共有を行うための体制も整えられつつある。ただし,既存の二次分析の手法では複数のデータセットを跨いだ変数間の関連を検討するような二次分析は実施できなかった。単一のデータセットという枠組みを超えた二次分析をおこなうためには,複数のデータセット内に存在する同一の個人のデータを紐づけた共有の仕組みが必要である。本稿では,安全にデータと個人を紐づけて共有する手法として分散パーソナルデータストア(分散PDS)に着目し,心理学研究において分散PDSを普及させるうえで解決すべき課題や分散PDSの普及が心理学研究にもたらす恩恵について議論した。 |
キーワード | 分散パーソナルデータストア,データ共有,二次分析,心理学研究 |
個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal96-6#24401 |