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心理学研究 第91巻 第4号(2020年10月)

ページ 225-234
種類 原著論文
タイトル 表情による感情認知における中国人と日本人の文化比較
著者 曹 蓮・杉森 伸吉・高 史明
要約 本研究では,表情による感情認知(どのような感情がどの程度感じられるのか)について中国人と日本人の間の文化差を検討するため,無表情から怒りあるいは喜びの感情を明確に表す表情までの静止Morphing画像を刺激として用い,感情種類の同定課題および感情強度の評定課題を実施した。その結果,日本人は中国人に比べて,中程度から明確な怒りまでの表情に対する感情強度の評定得点がより高いことが示された。このことから,日本人は中国人に比べてネガティブな感情である怒りの表情に対して,表出そのものよりも割増しして内心を推測することが示唆された。
キーワード 感情認知,表情,文化比較,感情種類,感情強度
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal91-4#18051
ページ 235-245
種類 原著論文
タイトル カミングアウトによる態度変容――ジェンダー自尊心の調整効果――
著者 鈴木 文子・池上 知子
要約 これまでの研究で,親友からのカミングアウトによって,同性愛者一般に対する態度は肯定的に変化するが,その親友に対しては回避的になることが示されている。本研究は,カミングアウト後の同性愛者一般に対する態度と親友に対する反応の違いについて検討を行った。その際,これまでの同性愛者に対する態度に見られる性差に関する議論から,カミングアウトによる態度変容の背景にある心理機制は男性異性愛者と女性異性愛者とでは異なると考え,ジェンダー自尊心の維持防衛による影響に注目した。大学生や大学院生を対象に場面想定法による質問紙実験を2つ実施した結果,男女ともジェンダー自尊心が同性愛者一般に対する否定的な態度変容を抑制する可能性が示唆された(実験1)。また,社会的感染不安やセクシュアル・アイデンティティへの脅威がカミングアウト後の親友に対する回避的反応を促進すると予想したが,社会的感染不安においてのみ影響が認められた。ただし,社会的感染不安が強いほど親友に対して回避的になるという関係は男女それぞれにジェンダー自尊心による調整効果がみられた。男性異性愛者においては促進効果,女性異性愛者においては抑制効果があるといえる(実験2)。
キーワード カミングアウト,ジェンダー自尊心,社会的感染不安,セクシュアル・アイデンティ脅威
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal91-4#18052
ページ 246-256
種類 研究資料
タイトル 離婚後の母親の面会交流の受け止め尺度の作成と信頼性・妥当性の検証
著者 直原 康光・安藤 智子
要約 本研究の目的は,離婚して子どもと同居する母親を対象とする面会交流の受けとめ尺度を作成し,信頼性・妥当性を検証することであった。離婚して子どもと同居する281名の母親が本調査に回答した。因子分析の結果,「面会交流は子どもの利益になるという信念」,「子どもや自身の安全への懸念」,「再婚にあたっての懸念」,「経済的支援への期待」,「父親への嫉妬」,「父親の子どもへの関心のなさへの失望」の6因子が抽出された。独自尺度の下位尺度は,高い内的一貫性を備えていた。また,State-Trait Anxiety Inventory や Caregiving System Scale などとの関連が認められた。さらに,離婚形態,子どもの年齢,父親の暴力,面会交流の形態で尺度得点に差があるかを t 検定や一元配置分散分析を用いて検討した。以上から,本尺度は,母親の面会交流の受けとめを測定する信頼性と妥当性を備えた尺度であることが確認できた。
キーワード 離婚,面会交流,母親,同居親
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal91-4#19215
ページ 257-266
種類 研究資料
タイトル 統合失調症を対象とした自我障害評価ツールとしてのラバーハンド錯覚測定
著者 上倉 安代・大川 一郎・井手 正和・和田 真
要約 認知科学領域では, 統合失調症の自我障害は, 身体的所有感が不適切に認識されるために生じるとされる。本研究では, ラバーハンド錯覚(rubber hand illusion: RHI)測定による健常者と統合失調症者間の自我障害の弁別可能性を検討した。健常者群10名と精神科病院に入院中の陰性症状を主体とする統合失調群26名に対しRHI測定を行った。その結果, RHIに関する質問紙では, 「左手がもう一本存在しているかのように感じた」という項目のみ統合失調症群は健常群に比べて有意に高い得点を示した。このことから, 統合失調症者は適切な身体的所有感を持ちにくく, 現実検討能力も高くはないために自我障害が強く, 現実とは異なる錯覚が生じることが示唆された。RHI測定は, 統合失調症者当人も自我障害を自覚していない場合であっても, 自我障害を評価しうる可能性が示唆された。本研究は, 統合失調症の自我障害評価ツールとしてのRHI測定の有用性を議論する一材料となると考えられる。
キーワード 統合失調症,ラバーハンド錯覚,自我障害,身体的所有感,認知科学
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal91-4#19216
ページ 267-273
種類 研究報告
タイトル 日本におけるBig Fiveパーソナリティ特性とBMIの関連
著者 吉野 伸哉・小塩 真司
要約 本研究の目的は日本におけるBig Fiveパーソナリティ特性とBMIの関連について検討することである。3つの大規模調査(調査1: 3,063名, 調査2: 4,242名, 調査3: 17,471名)を用いて,それぞれ相関分析と重回帰分析を行った。また,本研究の結果と先行研究の結果を含めてメタ分析を実施した。これらの分析の結果,勤勉性とBMIの間に一貫して負の関連が示された。また,男性において外向性とBMIの間に正の関連が示された。これらの傾向は他の東アジアよりも欧米諸国で示された知見と類似していた。日本の食生活や生活習慣からこれらの関連を考察した。
キーワード Big Fiveパーソナリティ特性,BMI,健康,パーソナリティ
個別URL https://psych.or.jp/publication/journal91-4#19320