刊行物のご案内
心理学研究 第97巻 第1号(2026年4月)
| 種類 | 原著論文 |
|---|---|
| タイトル | ストーキング被害者による加害者のパーソナリティ認知と被害者の精神的苦痛の関連 |
| 著者 | 小林 大介・若島 孔文 |
| 要約 | 本研究の目的は,ストーキング被害者による加害者のパーソナリティの認知が,被害者の精神的苦痛と関連するという仮説モデルを検討することである。過去5年間に元交際相手との別れを経験し,その元交際相手からの接近を経験した18歳から39歳の一般人を対象にWeb調査を実施し,207名(男性73名:女性134名)を最終的な分析対象とした。仮説モデルの検討を行うために,男女別に構造方程式モデリングによる多母集団同時分析を実施した結果,男性の場合,迷惑な接近行動の経験と,加害者の情緒不安定性の認知が精神的苦痛と関連することが示された。女性においては,迷惑な接近行動の経験と,加害者の情緒不安定性の認知,協調性の認知が精神的苦痛と関連することが示された。これらの知見から,ストーキング被害者に生じる精神的苦痛を見る際には,ストーキング被害者による加害者のパーソナリティ認知に対しても目を向ける必要があることが示唆された。 |
| キーワード | ストーキング被害,迷惑な接近行動,元交際相手,パーソナリティの認知,精神的苦痛 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24007 |
| 種類 | 原著論文 |
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| タイトル | 日本の心理学における構成概念の意味の通時的変化――「心理学研究」誌を対象として―― |
| 著者 | 西山 慧・齊藤 智 |
| 要約 | 心理学は心の普遍的な理論を確立することを目指している。しかしながら,近年の研究によって,理論を構成する心理学的構成概念の意味が文化的な変容の影響を受けやすいことが示されつつある。このことは,普遍的な理論を探求するという心理学の根本的な考え方を揺るがす可能性がある。現在の文化的な差異の背後にあると考えられる構成概念の意味の時間的変動を検討した研究はほとんどない。そこで本研究は,現代の日本の心理学における構成概念の意味の通時的な変化を検討した。具体的には,自然言語処理技術の1つであるInfinite SCANを使用して,構成概念を表す単語が使用される文脈の数とその出現割合の変化を推定した。対象となるコーパスは,1974年から2023年までに「心理学研究」誌に掲載された論文本文から取得した。その結果,心理学がすでに成熟していると考えられる過去50年間であっても,構成概念を表す単語の出現文脈が変化していることが示された。意味の分布仮説に基づくと,それら出現文脈の変化は当該構成概念の意味の変化と見なされる。理論の構築や応用を含めた心理学の研究実践において,構成概念の意味の通時的な変化は考慮される必要があるだろう。 |
| キーワード | 心理学的構成概念,意味の通時的変化,自然言語処理,社会構成性,心理学の哲学 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24022 |
| 種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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| タイトル | 日本語版Moral Foundations Vignettes (MFV-J) の作成 |
| 著者 | 山田 順子・中分 遥・須山 巨基 |
| 要約 | 道徳基盤ビネット (Moral Foundations Vignettes: MFV; Clifford et al., 2015) は,道徳に違反する行動をとる仮想の人物に関するビネット (小シナリオ) を用いて道徳的態度を測定する目的で開発された測定指標である。本研究の目的は,道徳基盤ビネットの日本語版 (MFV-J) を作成し,その信頼性と妥当性を検討することである。MFV-Jの妥当性を検証するため,443名を対象とした調査を行った。因子分析の結果,原版であるMFVで理論的に想定される9因子モデルが最も当てはまりが良いことが示された。基準関連妥当性を検証するため,MFV-Jの各因子と日本語版道徳基盤尺度 (MFQ-J) との関連を検討したところ,先行研究の分析結果と類似した関連のパターンが得られた。以上の結果に基づき,MFV-Jの有用性について論じた。 |
| キーワード | 道徳基盤理論,道徳基盤ビネット,道徳態度 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24228 |
| 種類 | 原著論文 [方法・開発] |
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| タイトル | 日本語版スパイト傾向尺度の作成 |
| 著者 | 増井 啓太・下司 忠大 |
| 要約 | 本研究の目的は,スパイト傾向尺度の日本語版(Japanese version of the Spitefulness Scale: SS-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討することであった。1,500人の日本人参加者がSS-Jと,Dark Triad,Big Fiveパーソナリティ,インターネット上の荒らし行為を測定する質問紙に回答した。探索的因子分析の結果,SS-Jは15項目からなる一次元構造であることが明らかになった。この尺度は強い内的一貫性を示した。さらに,SS-J得点は,Dark Triadのマキャベアリズム,サイコパシー,自己愛傾向,およびインターネット上の荒らし行為と正の関連を示した。反対に,SS-J得点はBig Fiveパーソナリティの協調性と負の関連を示した。これらの知見は先行研究と一致しており,SS-Jの収束的妥当性と併存的妥当性が明らかとなった。 |
| キーワード | スパイト傾向,尺度作成,信頼性,妥当性 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24229 |
| 種類 | 研究報告 |
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| タイトル | 消費者被害事例を読むときの後知恵バイアスの生起可能性 |
| 著者 | 米満 文哉・隅田 莉央・有賀 敦紀 |
| 要約 | 日本では,被害防止のために様々な事例が消費者に広く紹介されているが,詐欺や消費者問題による被害は依然として大きい。その一因として,我々は,後知恵バイアスが消費者問題事例紹介の警告効果を低下させたり,あるいは逆効果となったりしているのではないかと考えた。後知恵バイアスとは,ある出来事の結果を知るまでは,その結果を予測できていなかったにもかかわらず,結果を知った後には,その結果を事前に予測可能であったと捉える錯覚である。参加者は,潜在的被害者(A)と潜在的加害者(B)が登場する消費者被害事例のシナリオを読んだ。なお,シナリオの文章は1文ずつ順次呈示された。シナリオの結果に関する知識を操作するため,参加者を2つの群に分け,一方の群にはシナリオを実際の消費者被害の事例として(消費者被害条件),もう一方の群には日常的な出来事として(統制条件)教示した。参加者は,各文章の後に登場人物Bの信頼度を評価した。その結果,消費者被害条件の参加者は,統制条件の参加者よりも早い段階でBを信頼できないと判断した。このことは,消費者被害の事例を読む際に後知恵バイアスが生起する可能性と,消費者がこれらの問題を実際よりも予測可能であるように錯覚して判断することを示唆している。 |
| キーワード | 認知バイアス,後知恵バイアス,消費者被害,消費者教育 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24316 |
| 種類 | 研究報告 |
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| タイトル | 思春期前期の友人と過ごす時間と自尊感情の関連――2波の短期パネルデータによる探索的検討―― |
| 著者 | 小川 翔大 |
| 要約 | 本研究の目的は,思春期前期における友人と過ごす時間量と自尊感情の双方向因果の検討である。そのため,本研究では中学生1,196名(平均年齢13.28歳;男性615名,女性565名,不明16名)に2波(4ヵ月間隔)の短期パネル調査を実施した。質問項目は,自尊感情,余暇に費やした活動の時間量(同校の友人と過ごす時間,異校の友人と過ごす時間,養育者と過ごす時間,一人で過ごす時間,勉強時間)であった。交差遅延効果モデルと同時効果モデルによる統計的因果の推定では,交絡要因を調整するため全ての時間量を同時投入した。それらの分析の結果,自尊感情から同校の友人と過ごす時間に正の効果が示された。反対に,同校の友人と過ごす時間から自尊感情への効果は示されなかった。以上を踏まえて,本研究では,高い自尊感情が友人との交流と学校適応を促進する機能について考察した。また,今後の研究の方向性として,友人と過ごす時間の「量」と「質」の相互作用を解明する必要性について考察した。 |
| キーワード | 全般的自尊感情,仲間関係,余暇時間,ライフスパン自尊感情尺度,縦断研究 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24321 |
| 種類 | 研究報告 |
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| タイトル | 一般的緊張理論における犯罪的コーピングに対する時間的展望の調整効果 |
| 著者 | 関 嵐月・岡本 英生 |
| 要約 | 一般的緊張理論は,個人が好ましくないとされる出来事や状態(客観的緊張)に遭遇する際に,個人の認知(主観的緊張),否定的な感情,および犯罪的コーピングに影響を与える調整要因の存在を提唱している。しかし,これら全ての要因に影響する調整要因はまだ見つかっていない。時間的展望は認知,感情,行動に影響を与える重要な要因として認識される。そのため,本研究では一般的緊張理論における調整要因としての時間的展望の影響を検証するため,252名の対象者(男性126名,女性126名)に対して質問紙調査を実施した。その結果,時間的展望は犯罪的コーピングに直接的な影響を与える他,間接的な影響も与えることが分かった。本研究は犯罪的コーピングを減少させるために,過去の経験を積極的に再認識すること,現在における無力感を経験すること,未来への意欲を育むことの重要性を示唆した。 |
| キーワード | 一般的緊張理論,犯罪的コーピング,時間的展望 |
| 個別URL | https://psych.or.jp/publication/journal97-1#24322 |





