公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

私の出前授業

大学で心理学を学ぶ ということ

小川一美
愛知淑徳大学心理学部 教授

小川一美(おがわ かずみ)

Profile─小川一美
2002年,名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(心理学)。名古屋大学大学院教育発達科学研究科助手,大同工業大学教養部講師,愛知淑徳大学コミュニケーション学部講師,同大学心理学部准教授を経て,2015年より現職。専門は社会心理学。著書は『対人関係の社会心理学』(共編著,ナカニシヤ出版),『スタートアップ「心理学」:高校生と専門的に学ぶ前のあなたへ』(共著,ナカニシヤ出版),『コミュニケーションと対人関係』(分担執筆,誠信書房)など。

私が所属する愛知淑徳大学心理学部には,毎年高校からの模擬授業依頼が年間約20件あり,専任教員で手分けして可能な限り出かけるようにしています。その他にも,オープンキャンパスでの模擬授業,バスツアーのように本学を訪問する高校生を対象とした模擬授業もあります。また,2013年からは日本心理学会主催の「高校生のための心理学講座シリーズ」を中部地区として開催させてもらっています。2015年には,愛知淑徳学園110周年企画として,高校生や保護者を対象とした『考えてみよう「人・社会・環境」:高校生のための心理学セミナー』を開催するなど,本学部は高校生や一般の方に心理学に触れていただく機会を多く作るようにしています。おそらく学部教員間でも共有されている思いだと思うのですが,私自身はこうした機会の中で,「心理学の幅の広さや多様な活用可能性,心理学研究を通して得られる力」について可能な限り伝えたいと思っています。ただし,この思いは高校生や一般の方に対してだからではなく,本学部の学生に対しても同様で,その点については日頃の大学での授業と変わりありません。

私の模擬授業

私の模擬授業は,テレビ番組のように工夫されたアニメーションで心理学の知見が解説されるというようなエレガントな感じではなく,実際に手を動かして自分で集計してもらったり,手で触って違いを確かめてもらったりといった,泥臭い手法を使うことが多いです。私の専門は社会心理学ですが,「わっ,ほんとだ」「自分にも当てはまっている!」ということを目の前で実感してもらうためには,泥臭いほうが良いのではないかと思っています。

たとえば印象形成に関する内容では,小学校高学年のI君という男の子がどのような子だと思うかを推測するというゲームをします。まずは,I君に関する情報を5つだけ配付します。その段階で,対人認知の基本3次元と言われる「個人的親しみやすさ,社会的望ましさ,活動性」について5段階で評定してもらい棒グラフを作成してもらいます。ここで,社会的望ましさが高得点か低得点かなど自分の棒グラフがどのような状態になっているかを,挙手により発表してもらいます。そうすると,不思議なことに教室の右半分と左半分で全く結果が異なり,社会的望ましさを高く評定した人たちと,低く評定した人たちは見事に教室の左右で分かれます。高校生は挙手の違いを見て,非常に驚いた顔をしてざわつき始めるのが常です。ここで,種明かしをするのですが,実は最初に配付した5つの情報が教室の右半分の人と左半分の人では異なっており,一方にはI君に関するポジティブな情報(例:I君はお年寄りにやさしい)を,反対側にはネガティブな情報(例:I君はすぐにばれるようなウソをつく)を配付していました。不思議なことでもなんでもなく,入手した情報が違うのだから棒グラフの結果が左右で異なっただけです。

高校生も「な〜んだ」とほっとした様子を見せますが,ここで彼らに問うのは日頃の対人関係についてです。「こんな簡単なゲームで,しかもたった5つの情報だけなのに,結果はきれいに違っていたよね。では,みんなの周りの人との関係はどうだろう?みんなは他の人の全ての情報を知っている?友達の全ての情報を入手することはできる?みんな自身もそうだと思うけど,人には良い面も悪い面もあるよね。みんなが目にしたのはその人の一部分だけの姿かもしれず,たまたま悪い面を最初に見てしまったという可能性もあるよね。それなのに,もし少しの情報だけでその人は〇〇な人だと決めつけてしまったらどうなる?」と。小学生のように点数をつけてそれに基づいて棒グラフを書くといった泥臭い作業による結果なのですが,これが高校生には強く驚きをもたらすようです。しかも,こちらが想像する以上に自分自身の対人関係を省察する高校生が現れます。

このゲームは続きがあり,I君に関する20個の情報を呈示して,その結果から対人認知の特徴などを解説します。詳細は小川(2002)をご覧ください。ちなみに,I君は誰もが知っている非常に有名な小学校高学年の男の子です。

大学で心理学を学ぶとは

最近は,「大学で心理学を学ぶとは」について説明するようにしています。心理学を学ぶということには,まず心理学に関する多様な知見を知識として獲得するということがあると思います。しかし,これは大学に通わなくても本を読むなど独学でもある程度可能ではないでしょうか。それに対して,心理学の研究方法を習得するというのは,大学で心理学を学ぶ大きな特徴だと思います。そして,心理学の研究方法を習得する過程の中で,様々な力が身に付くのです。いま何が問題になっていて何を研究すべきかという問題発見力や解決力,仮説を立て証明するためにはどのような研究が必要かを筋道立てて考える論理的思考力,得られたデータをどう分析するかといった実証的分析力,データ収集過程での他者とのやりとりや結果をわかりやすく他者に伝えるコミュニケーション力などなど。

高校生からよく耳にするのは「親や先生から心理学なんて勉強しても就職先がないと言われた」とか,「将来の役に立ちますか?」などといった言葉です。そんな彼らに,心理学の研究方法を習得する過程で得られる様々な力について説明をすると,安堵し,目を輝かせてくれます。心理学を大学で学ぶ意義を,もっと我々は高校生や一般の人たちに胸を張ってアピールしても良いと思うのです。もちろん,このことは本学部の学生達にも日頃から熱く語っています。なお,こうした思いを広く高校生に伝えようと,本学部の教員で高校生向けに執筆した書籍もあります(小川ら, 2013)。純粋な学問に対する興味・関心を持ってもらうことはもちろん大切ですが,大学で心理学を学ぶとどうなるのかといった未来予想図を高校生に示すことも重要ではないでしょうか。

文献

  • 小川一美(2002)「人に対する印象」吉田俊和・廣岡秀一・斎藤和志(編著)『教室で学ぶ「社会の中の人間行動」:心理学を活用した新しい授業例』(pp.61-78)明治図書
  • 小川一美・斎藤和志・坂田陽子・吉崎一人(2013)『スタートアップ「心理学」:高校生と専門的に学ぶ前のあなたへ』ナカニシヤ出版

PDFをダウンロード

1