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裏から読んでも心理学

みんなが活躍する社会を作りたい。

慶應義塾大学文学部 准教授

平石 界

株主優待が好きで食品会社の株を持ってます。ケチャップとかマヨネーズとか楽しいです。数年前ですが,そのうち一社が社長の交替を知らせるパンフレットを送ってきたことがありました。写真をみてびっくり。だって役員がみな男性。少し高い位置にセッティングしたカメラを見上げ,満面の笑みの新社長を中心に,スーツ姿のオジサンたちがニッコリ笑顔でガッツポーズしてました。いやね,男も女も料理しますよ。でも,それなら尚更のこと,食品会社の中枢が男「だけ」ってのはどうなのかと。この株持っていて大丈夫なのかと心配になりました。

 

それで性比ですが,カップル的な意味でフリーな男女の人数比を実行性比と言います。これが偏ると悲劇ですよね。オスなりメスなり,多すぎる方の性にカップルになれない個体が出てきちゃう。あぶれるのは嫌だとばかり余ってる性の中で猛烈な競争が始まって,色んなトラブルのもとになります。青春時代の甘酸っぱい記憶を思い起こされた方もあるやもしれません。

 

理論的にも印象的にも納得感はありますが,データで確かめたくなるのが研究者の性で,色んな調査や実験が行われています。例えば男性が余り気味だと,社会経済的地位が低い男性が結婚しにくくなるなんて研究もあります(Pollet & Nettle, 2008)。女性にとっては,相対的に選り取りみどりな状況になるわけで,見る目が厳しくなるのも納得ではあります。理屈では。

 

オス余りが,常にメスに有利に働くとも限りません。フランスはパリのLe Galliardさんたちのチーム(2005),性比を実験的に操作してみました。あるスペースにはオスを多めに,別のスペースにはメスを多めに入れてみた。すると,オスが多いとメスへのセクハラが頻発するようになったというのです。そのために命を落とすメスが出てきて,ますますオスが余り,それがセクハラをさらに助長して……というフィードバックが働くそうで,悪夢としか言えません。あ,ちなみにトカゲの話です。メスの腹部に噛み付いたりするようで,ニンゲンに勝るセクハラっぷりです。そんなところさっさと逃げなさい!と思いますが,メストカゲたちはなぜか逃げ出さない。オス余り集団のメスはバタバタ死んであっという間に絶滅しちゃうから,セクハラから逃げるという行動が進化する暇すらないのかもね,なんて背筋も凍るようなことがサラリと論文に書いてあって,さすが,ジャン・フランソワなんてファーストネームの人は言うことが違うと感心しました。

 

メスが余ったらどうなるの?Duranteさんたち(2012)が,米国各州での実効性比と,女性の(職業面での)活躍ぶりの関係を分析してます。ざっくり言うと女性が余っている州の方が女性が活躍している。理由がふるっていて,碌な男が残ってないから自分で稼ぐしかないってことじゃない?と書いてあって,ちなみにDuranteさんのファーストネームはクリスチーナです。

 

もちろんそれでは単なる相関に過ぎない。実験で因果を明らかにするんだ!心理学者ならそう考えますよね。女子大学生に「最近,キャンパスの男女比がどんどん女性に偏ってきてます」って記事を読ませたんだそうです。そしたら「結婚より仕事!」という方向に統計的に有意に回答が変化したそうで,えー,ニンゲンそんな単純?そんなだったら女子校とか放り込んだら無茶苦茶やる気になっちゃうんじゃない?あぁでも女子大の学生たち,やる気あったなぁ。いやいや,それでいいのか?とか思いつつ読んでいたら,この実験操作が効くのは異性に対する魅力にいまいち自信のない場合であるなんてことが書いてあって,微妙な気持ちになりました。油断ならない。兎にも角にも,みんなが活躍できる社会が作れるといいですね。

Profile─ひらいし かい
慶應義塾大学文学部 准教授。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。東京大学,京都大学,安田女子大学を経て,2015年4月より現職。博士(学術)。専門は進化心理学。

平石界

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