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Over Seas

Walking in the City of Bridges

山本哲也
徳島大学大学院総合科学研究部 特任講師

山本哲也(やまもと てつや)

Profile─山本哲也
2012年,早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員,ピッツバーグ大学客員研究員を経て,2015年より現職。専門は臨床心理学,認知神経科学。著書は『絶対役立つ臨床心理学』(分担執筆,ミネルヴァ書房),『マインドフルネス:基礎と実践』(分担執筆,日本評論社)など。

バーでのラボミーティング風景(右から二人目がほろ酔いの筆者)
バーでのラボミーティング風景(右から二人目がほろ酔いの筆者)

2014年3月から約1年半,ピッツバーグ大学医学部精神医学講座に留学する機会に恵まれました。ピッツバーグ大学は,「世界で最も橋が多い街」とされる米国ペンシルバニア州ピッツバーグ市に位置しており,精神医学分野では世界でも有数の拠点のひとつです。留学のきっかけは,修士課程の時に読んだグレッグ・シーグル(Greg J. Siegle)先生の論文に非常に感銘を受けたことでした。「いつかこの先生の元で研究したい」と願い,それから5年後にその思いを叶えることができました。

 

留学中の研究生活で驚いた事柄としては,秘書などの専門スタッフの多さや,研究費の潤沢さ,そして高名な研究者の講演が頻繁に開かれるといった教育機会の豊かさなど,枚挙にいとまがありませんが,「働き方の違い」が最たるものでした。ラボでの勤務初日,同じオフィスにいたメンバー達が17時ぴったりに退勤するのを目の当たりにし,深夜まで働くことが当然だった私としては大変驚いたことを覚えています。ラボは学生や研究員の他に,研究コーディネーターやセラピストなどで構成され,皆が仕事もプライベートの時間も大切にしている印象を受けました。最も新鮮だったのは,学部生がいないサマータームになると16時頃に皆で近所のバーに向かい,そこでラボミーティングが毎週行われたことでした。ピッツバーグの大変気持ちの良い夏の気候の中,テラス席でビールを飲みながら,さまざまな話ができたのはこの上なく良い時間になりました。シーグル先生との個別ミーティングでも,毎週の発表準備は大変でしたが,研究に関わる議論に加え,共にブルースを演奏したり,生理指標を用いた楽器の開発方法をビールを片手に話し合うなど,とてもワクワクしたことを覚えています。

 

日常生活では,あらゆる事柄が新鮮で,NFLやMLBなどのスポーツ観戦をはじめ,プロレスやコンサート,地域のフェスティバルなど,興味の赴くまま参加して楽しめました。また,現地の人々がとてもフレンドリーで親切だったことが強く印象に残っています。保険会社の対応のひどさに四苦八苦していた時には,出張を控えたシーグル先生が,私に代わって先方の過失責任を長時間にわたって追及してくれるなど,実際に行動に表して助けてくれるといったことも数多く経験しました。

 

こうして振り返ると,「人生,無駄なし」という言葉が示すように,留学までに自分が経験した事柄のすべてが,留学生活の楽しさを彩ってくれたように感じます。たとえば,かつて打ち込んだ楽器経験のおかげで,シーグル先生やラボメンバーの家族,地域の方々との楽しい交流につながりました。また,寝食を忘れるほど時間を費やしたPCゲーム経験のおかげで,ラボのコンピュータガイと意気投合し,感謝祭やクリスマスなどのイベントを家族ぐるみで過ごせる機会に恵まれました。他にも,共通の趣味を通じて,地元の高校教師や退役軍人とも関係を深めることができ,現在も交流が続いています。このように,時には後悔したくなるような過去の経験であっても,期せずして実りをもたらすことがあることを強く実感しています。

 

最後に,英語が不慣れであることに加え,日本人が一人もいない職場での生活は,とても苦しい日々でもありました。一方で,同僚や友人,家族に恵まれて,その苦しさの何倍もの良い時間を過ごすことができたとつくづく感じています。ピッツバーグ市に美しい橋がかかっているように,本稿が皆様にとって新たな世界への架け橋の一助となれば,これほど嬉しいことはありません。

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