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心理学ライフ

来た,見た,買った─馬の中にウマを見出す

長谷川壽一
関西学院大学文学部総合心理科学科 教授

三浦麻子(みうら あさこ)

Profile─三浦麻子
1995年,大阪大学大学院人間科学研究科博士課程中退。博士(人間科学)。専門は社会心理学。

京都大学霊長類研究所認知科学研究部門 教授

友永雅己(ともなが まさき)

Profile─友永雅己
1991年,大阪大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得退学。博士(理学)。専門は比較認知科学。

競馬との接し方

友永(以下 友) 競馬に興味を持ったのは大学生の頃でしょうか。研究室の先輩たちが見ているのを見て興味を持ちました。あとは,やはり笠松競馬のオグリの影響かな。馬券を買うようになったのは三浦さんに勧められてからです。三浦さんから見れば「エセ」競馬ファンです(笑)。

三浦(以下 三) 悪い道に引き込んですみません(笑)。私の競馬歴は20年ぐらいです。普段の生活がすごく規則的なので,競馬は意識的に「衝動的」になる方法かもしれません。好きな馬(ゴールドシップ)が出るからと,学期中の週末に2泊4日でパリに飛んで凱旋門賞1を観戦したことも。歴史や血統を背負った人と馬の相互作用によるダイナミックなドラマであるところも魅力です。

好きな馬は?

友 やはりサイレンススズカ2です。あとはグラスワンダー,ゴールドシップ。圧倒的だけど変な馬。ふるまいや走りに特徴のある馬が好き。個体識別がへたなんです。だからかな,馬券を買うときはまず騎手の方に目が行くんです。

三 私が好きになる馬や騎手は強すぎない,ちょっと困ったところがあるキャラクターですね。野球は大の阪神ファンですから必然なのかも。ですから,儲かりません。

人間と動物との関わり方

三 友永さんは馬も含めて動物一般を研究対象にされています。日常のご発言を見ていると「動物はありのままの生活を大切にする必要がある」「人間のエゴの対象にしてはならない」という考えをお持ちだと強く感じるのですが,それと競馬をする(馬券を買う)ことはどう両立してるんですか?

友 広い意味での「家畜」動物の扱いはとても難しいと思いますね。ウマはすでに野生種がいません。彼ら本来のくらしとは何かがよくわからないのです。

 

実は,ウマの研究と霊長類学はとても密接な関係があります。1947年に今西錦司たちが九州にニホンザルを探しに行ったのに見つけられず,そのかわりに都井岬で御崎馬を「発見」しました3。このような野生に戻ったウマたちの暮らしをさらにきちんと研究する必要があると思います。

 

一方で,「家畜」としてのウマのQOLはどこにあるのか,悩ましいところです。最近は,調教などでもあまり罰を使わなくなってきています。そういうところから改善していくのが大事なのかな。

三 報道で知る限りでは競走馬は(人間の感性で見ると)とても大切にされているイメージです。日本の中央競馬もムチの過剰使用に対して制裁規定ができました。

友 ただそれは,アスリートとして扱われている競走馬の話ですよね。個人的には,引退後の余生の問題をもう少し考えてもいいのではとは思いますが……

三 それはファンの間でも常に話題になるところで,天皇賞の勝ち馬ですら種牡馬になれないものもいる。ほとんどの馬は行方不明という名の殺処分になっているのでしょうね。引退後のゴールドシップには2回会いに行きましたが,彼の将来も子どもが走るかどうかにかかっています。とはいえ一ファンが飼えるような動物でもない。

なぜ彼らは走るのか

友 むかし,楠瀬良さんの『サラブレッドはゴール板を知っているか』という本がありました。まさにそういうことが比較認知科学者としては知りたいところです。

三 芝コースを1周半走る(ゴール板前を2回通過する)長距離レース4で,1回目のゴール板通過時に急加速,その後に急減速した馬が以前いました。騎手が追うわけもないので,馬が勘違いしたのではないかと言われています。

競馬場で競馬を見るという行為

友 初めて競馬場でレースを見て,サラブレッドそのものも大好きになりました。

三 私は競馬好きと言いつつ競馬場ではそこに集う実に幅広い人間たちの観察と馬券購入という名の頭の体操ばかりしていたので,馬が走る理由や競馬と本来のウマの習性との整合性について考える機会が得られて楽しかったです。(2016年11月,京都競馬場にて)


  1. 1 フランスで毎年10月に開催される重賞(G1)レース。
  2. 2 稀代の逃げ馬。1998年の宝塚記念を圧勝後,天皇賞(秋)のレース中に骨折,安楽死。
  3. 3 『今西錦司全集(第6巻)御崎馬の社会調査・村と人間』
  4. 4 2014年4月13日中山競馬8Rのヘイローフォンテン。

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