心理学ライフ
研究者には向いてる趣味業
平田佐智子(ひらた さちこ)
Profile─平田佐智子
2012年,神戸大学大学院人文学研究科社会動態専攻博士課程後期課程修了。博士(学術)。2016年より現職。専修大学で非常勤講師を兼任。専門は認知心理学,言語心理学。著書は『近づく音と意味:オノマトペ研究の射程』(分担執筆,ひつじ書房)など。
締め切りに向けて新作を作り上げ,印刷して大きな会場に持って行く。所定の位置に展示し,同じテーマに興味を持つ同志と語り合い,自分の新作を手渡しする……
学会でしょうか? いいえ,同人イベントです。
同人活動というものをご存じでしょうか? ある作品のファンが集まって,自分で絵を描いたり文章を書いたりして,内輪で共有する活動を指します。この活動で作成された自費出版物は「同人誌」と呼ばれ, 上で説明したような同人イベントで頒布されます(代表的なイベントは,夏冬に開催されるコミックマーケットが挙げられます。下の写真は2016年末に開催されたコミックマーケット91での私の出展の様子です)。同人活動と聞くと,いかがわしい印象を抱かれる方が多いかもしれません。しかし,以前の閉鎖的な印象はだいぶ薄れ,また二次創作だけではなく,自らテーマを考えて行う一次創作活動も広がりつつあります。そのため,近年はさまざまなマニアたちが自らの知識を手軽に披露する場として,ものづくりブームと相まって注目されています。
私は数年前から一次創作の同人誌を発行しています。ひとつは『Semiannual Journal of Linguistics and Languages: SJLL』(2017年1月現在,8号まで発行)です。こちらはSNSで集まった言語学者・言語好きたちが,言語・言葉をテーマに,研究対象である言語の面白さをまとめています。もうひとつは『月刊ポスドク』(2017年1月現在,6号まで発行)です。発刊当初は私自身がまだポスドクだったため,自分と同じ境遇にある方々を支援する目的で発行をしてきました。現在は,すべての研究者を応援する目的の同人誌となりました。いずれもノリで始めたことですが,ネットニュースや新聞などで紹介して頂きました。また,これらの活動を通じて,人文科学・社会科学のアウトリーチやポスドク問題について,真面目に考えるようになりました。
タイトルである「研究者には向いてる趣味業」の通り,同人活動やものづくりの趣味は,研究者と非常に親和性が高いと思います。実際に,同人イベントの情報・評論分野では,こっそりプロの研究者が紛れていることもあります。最近は,生物ファンとアカデミアの生物研究者が分け隔てなく参加できる生物系イベント「いきもにあ」など,科学研究のアウトリーチの場としても創作活動は盛り上がっています。このような創作活動を通して,一般の方々と研究をつなぐルートが開かれることもあるのかもしれません。
また,同人誌を作る段階で得た画像編集や組版技術を使って,学会活動のお手伝いができないかと思い,フリーランスのデザイナーも始めました。技術的にはアマチュアですので,ほとんど依頼は来ませんが,ありがたいことに研究センター・学会大会のロゴデザインを担当させて頂きました。学会誌の原稿作りや入稿,デザイン作業などを,お忙しい先生方が引き受けるのではなく,ある程度慣れている者に投げたほうが学会活動もスムーズに進むと考えており,そのようなサポートができるデザイナーを目指しています。依頼が無いときは自主的にステッカーや雑貨を作成してスキルを積んでいます。
私は,研究者としては認知心理学を専門とし,オノマトペの研究をしておりますが,研究を行う発端となった問いは,「人のコミュニケーション行動」にあります。あまり口達者ではない私は「パワポスライドが無いとまともな話ができない研究者」のように,変わったものを持ち歩いてみせることで,物を通して話のきっかけを作ろうとしてきました。同じように,私が作った冊子やグッズなどの変わったものを通して,どこかで誰かのコミュニケーションが生まれればよい,と考えています。そういう意味では,趣味といえども根っこの部分は研究といえる活動なのかもしれません。
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