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心理学キャンパス

金城学院大学

北折充隆
人間科学部多元心理学科

北折充隆(きたおり みつたか)
所在地:名古屋市守山区大森2-1723 http://www.kinjo-u.ac.jp/pc/index.html

Profile─北折充隆
金城学院大学人間科学部多元心理学科教授。専門は社会心理学,交通心理学。著書は『迷惑行為はなぜなくならないのか?』(光文社新書),『ルールを守る心:逸脱と迷惑の社会心理学』(サイエンス社)など。

はじめに

金城学院大学は,名古屋市守山区にある,プロテスタント・キリスト教の精神に基づいた,女性のための高等教育機関です。名古屋市は,東京・大阪に次ぐ第三の都市といわれることもありますが,本学のある守山区は,市内ではあるものの山や森に囲まれた,緑があふれる自然豊かなエリアであり,校地は「金城台」と呼ばれる高台に位置します。単一キャンパスながら5,300名を超える学生が在籍しており,日本の女子大の中でもトップ10に入る,女子総合大学の規模を誇っています。

学院の歴史は古く,1889年,アメリカ人宣教師アニー・ランドルフが私邸の中に設立した「女学専門冀望館」をルーツとしています。当時は「女子に学問は無用」といわれましたが,そんな社会的認識に負けることなく,名古屋の女性に教育を施していました。

そんなわけで,本学は聖書の教えに基づき,豊かな人間性と深い専門的学識をバランス良く兼ね備えた女性を送り出すことを,そのミッションとしています。「主を畏れることは知恵の初め」をスクールモットーとし,熟慮と慎重さをもって生きるという姿勢を涵養する教育を実践しています。

市内を一望できる緑溢れる金城台
市内を一望できる緑溢れる金城台
 

金城学院大学は,戦後間もない1949年に設立されました。当初は単科(英文学部英文学科)から始まりましたが,次第に教育の幅や奥行きを広げ,2002年に人間科学部が設置されました。この人間科学部の中に,社会心理学専攻と臨床心理学専攻からなる,心理学科が誕生したのです。

多元心理学科について

設立当初,この二つの専攻は入学時から分かれていました。一応,いくつか共通の授業はありましたが,隣の専攻の授業をもっと受けたい,専攻を変更したいといった,入学後のニーズに応えることができませんでした。そこで2011年に両専攻は統合され,多元心理学科として生まれ変わりました。

多元心理学科はこれまでの専攻や,他大学の心理学科とは大きく異なり,ユニット制という独自のシステムを採用しています。これは,リベラル・アーツの考え方を,学部専門科目のシステムに応用したものであり,その自由度の高さが大きな特色となっています。リベラル・アーツは特定の学問に偏らず,人文・社会・自然科学や芸術などを自分の興味に応じ,幅広く学べるのが魅力です。これにならい,本学科は六つのユニットから,自由にメインユニット(18単位以上履修)を一つ,サブユニット(各12単位以上履修)を二つ履修するという,ユニークなスタイルをとっています。

六つのユニットはそれぞれ,「社会心理学ユニット:大山小夜先生(社会学・フィールドリサーチ)&北折(社会心理学・社会規範論)」「健康心理学ユニット:安藤玲子先生(健康心理学・メディア心理)&鈴木正隆先生(生理心理学・スポーツ心理)」「キャリア心理学ユニット:日詰慎一郎先生(組織心理学・経営行動学)&宗方比佐子先生(キャリア心理学・職場のメンタルヘルス)」「臨床心理学ユニット:加藤大樹先生(芸術療法・ブロック)&仁里文美先生(ユング心理学・臨床空間)」「発達教育心理学ユニット:川瀬正裕先生(青年期心理学・障害児援助)&野田理世先生(認知心理学・感情予測)」「医療福祉心理学ユニット:今村友木子先生(コラージュ表現療法・アセスメント)&定松美幸先生(精神科領域・児童思春期の精神障害)&渡辺恭子先生(音楽療法・芸術療法)」で構成されており,高い専門性を持ったスタッフが,それぞれのユニットを広く深く網羅する形で,学生の多様なニーズに応えるカリキュラムを展開しています。

そうはいっても,なかなかユニット履修の仕組みを理解するのは難しいようなので,私はいつも高校生や親御さんには,「アイスクリームを選ぶようなイメージを持ってください」と,お伝えします。1年次に,各ユニットは概論系の科目を提供しているのですが,これらはいわばテイスティングです。まずは六つのユニットを「味見」して,どの領域に自分が興味を持ったのか,何を学びたいのかをイメージします。その上で,2年次からの3年間で,レギュラーサイズのアイス(メインユニット)を1個,スモールサイズのアイス(サブユニット)を2個で,トリプルのアイスを作っていくような感じです……こんなふうに伝えると,だいたい理解してもらえるというわけです。

手前味噌になりますが,このシステムは本当によくできていて,組み合わせは全部で60通りに上り,学生それぞれが,自分の興味に合わせた最善の選択を可能にします。もちろん,選択した3ユニット以外を履修できないということもなく,アラカルトのように,履修したい科目を個別に選択することも可能です。まさに「学びたいことを,学びたいように,学びたいだけ」学べる自由度の高さが,本学科の大きな強みです。「多元」の冠は伊達ではありません。

進路と資格

各ユニットで学ぶことのできる心理学領域は,非常に多岐にわたります。コミュニケーションスキルや傾聴の姿勢,キャリア形成やストレスマネジメントなど,好奇心をもっていろいろなユニットを回ることで,企業が必要とする対人関係能力が養われていきます。そして,こうしたスキルを活用するフィールドとして,金融の窓口業務や秘書業務,営業や事務補助などの職種を選択し,社会で活躍しています。

また,専門職として大学院に進学し,臨床心理士の取得を目指す学生もいます。本学は臨床心理士の第一種指定校であり,専門スタッフによる万全の指導体制のもと,2年間徹底的に鍛えられます。そしてもちろん,18年度より公認心理師のカリキュラムを開始する予定であり,現在は全力でその準備に取り組んでいるところです。

それに加え,本学の特色に,精神保健福祉士(PSW)の資格取得も目指せる点が挙げられます。これは,心に病を抱え,生活上の問題を抱えた人が,社会に復帰して日常生活を営めるよう,相談や支援,社会参加の手助けなどを行う仕事です。心理学科で心理学を学びながら,並行してこの資格を取得できる学科は,それほど多くありません。

多くの受験生は高校時代,漠然と「心理学を学びたい」とか「カウンセラーを目指したい」といった動機で,心理学科を目指してくるのではないかと思います。本学は,入学後に一通り,心理学の各領域の基礎を学んだ上で,民間企業に就職するのか,大学院に進学して臨床心理士を目指すのか,精神保健福祉士を目指すのかをじっくり検討する仕組みになっています。エリクソンの定義に基づけば,大学4年間は青年期後期にあたり,学生たちは自分が社会で何をするのか,どのように貢献していくのかに,真っ正面から向き合う時期になります。自分の歩みたい道を,入学後にじっくり検討することで,学びの対象を柔軟に変更できるという点は,青年期特有の課題である,アイデンティティの確立をはかる上でも,極めて合理的な仕組みとなっているのです。

学科の雰囲気

ここまでは,本学科の仕組みや特徴をまとめてきました。少し堅苦しい紹介文になっているように思いますが,スタッフとして,この学科や学生たちを見た印象は,全くそんなことはありません。私自身,暖かい雰囲気にあふれていて,人に恵まれたこの環境にとても満足しています。中京圏において,本学は「お嬢様女子大学」というイメージを持たれています。正直にいえば着任が決まった時,それもあって「お高くとまった学生にいじめられる」と勝手に妄想(?)し,非常に不安になったのを今でも覚えています。

しかし着任して教壇に立ち,学生たちと接していく中で,そんな不安はすぐに雲散霧消しました。彼女たちの優しさや真面目さ・気配り力など,本当の意味での育ちの良さを目にし,この大学・学科がすっかり気に入り,「俺はココに骨を埋める,学科を良くしていくことに人生を賭けよう!」と,自身のアイデンティティを確立するまで,多くの時間を必要とはしませんでした。スタッフ間の連携も十分に取れており,悩みや問題がある学生はすぐに教員間で共有され,授業でその学生の顔を見れば,誰彼となく親身になって声をかけるので,「どうして知っているのですか? 気にかけてくださりありがとうございます!」と,驚きながら嬉しそうな顔をしてくれます。こうした正のスパイラルがうまく機能しているため,学科全体の雰囲気も非常に良く,「自分の子どもを入学させたい」とさえ思える,理想的な学科運営がなされています。

学科が立ち上がってから,15年が経過いたしました。いろいろ試行錯誤を重ねながらここまでやってきましたが,この先も時代を先取りしつつ,学生目線に立った日々の教育を,スタッフ全員で地道に行っていきたいと思います。

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