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ここでも活きてる心理学

心理学を活かしたメーカーでの研究開発

Advanced Technology Research Division YAMAHA MOTOR CORPORATION, U.S.A.

末神 翔(すえがみ たかし)

Profile─末神 翔
2011年,上智大学大学院総合人間科学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(心理学)。2014年にヤマハ発動機株式会社に入社。先進技術研究部主事を経て,2017年より現所属。専門は認知心理学。

実験準備中の様子
実験準備中の様子

私は海外大学の博士研究員,国内大学の助教などを経て,現在は民間企業であるヤマハ発動機株式会社の研究開発職として働いています。日本ではまだ珍しいキャリアかもしれません。大学に残って研究を進める道しか考えていませんでしたが,助教時代に民間企業との共同研究を経験し,研究成果を実際の製品に応用して世の中に役立てる面白さを知ったことがきっかけで,民間企業での研究開発に興味を持ちました。

現在勤めているヤマハ発動機株式会社は"Revs your Heart"のブランドスローガンの下,オートバイや電動アシスト自転車など,幅広い製品を作るメーカーです。メーカーですので,エンジニアや製造・生産技術といったモノ造りのスペシャリストが多い会社ですが,その中でヒト視点からモノを捉えて,お客様の心を"Rev"する(エンジン回転を上げるように,わくわくさせる,高ぶらせる)ような新しい技術の企画や研究開発を行っています。

心理学を学んだ強みと課題

心理学(特に基礎系心理学)は,ヒトの心という抽象的で捉えどころのない仮説的概念を,可能な限り客観的な手法で論理的に説明しようとする学問です。物理的に存在しない抽象概念を理解して受け入れる観念的側面と,誰にとっても明解で疑う余地のない実証性を追究する即物的側面が混在する,ユニークな学問領域であると言えます。このユニークさ故に心理学は,ヒトとモノ,感性価値と機能価値の橋渡し役になる可能性を秘めています。

一方で,当たり前ですが,心理学に関心のある方の多くは,どうしても物事をヒト中心に考えてしまいがちです。例えば実験の結果「商品Aは商品Bよりも○○感を強く惹起させる」ということが分かっただけでは,モノには結びつきません。○○感というヒトの主観と,モノの詳細な仕様や設計を結び付けない限り,ヒトとモノを橋渡しすることはできません。感覚や主観といったヒト中心の言葉ではなく,モノの動きや機構,サービスを実現するシステムやインフラといった,ヒトの主観が一切入らない純粋なモノ視点の言葉で語る必要があります。ヒトの心を,ヒトを一切排したモノ視点で語るのは,心理学を学んだ故に難しく,日々頭を悩ませています。

仕事のやりがい

企業では様々な領域のエンジニア,デザイナーやマーケティングリサーチャーなど,多彩な仲間と議論を重ねて仕事を行いますが,バックグラウンドが違いすぎて言葉すら通じないこともあります。しかし,自分の知らない領域のスペシャリストと協力することで常に新鮮な驚きがありますし,自分の専門知識と掛け合わせることで新しいアイディアも生まれます。そのアイディアをモノとして具現化し,世界に発信し,世の中に大きなインパクトを与えることも不可能ではありません。

企業で研究開発を行う上では,究極的には研究成果が利益に繋がる必要があります。心理学を学ぶ方の中には,研究成果を利益に結びつけることに抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし,利益というのは,商品やサービスがお客様の役に立ち,ニーズを満たすことで成立します。つまり,研究成果が利益に繋がることは,研究成果が世の中の役に立ち,世の中を幸せにできたことを意味すると考えています。ヒトのニーズを満たし,ヒトを幸せにすること,ヒトを"Rev"することは,ヒトの心に興味がある心理学者としてとてもやり甲斐を感じています。

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