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ここでも活きてる心理学
対人サービス業と心理学
天野靖信(あまの やすのぶ)
Profile─天野靖信
1983年,早稲田大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年,ソニー株式会社入社。2017年,放送大学大学院文化科学研究科修士課程修了。認定心理士,キャリアカウンセラー(GCDF‐Japan)。
「学生時代に勉強したことは,社会で役に立つのでしょうか?」。私は,大学・大学院では電気化学の研究をしておりましたが,民間企業に入社して長年従事したのは電子光学の分野でした。「気」と「子」,「化」と「光」が一体どう違うの?とおっしゃる方もいるかもしれませんが,全く異なる分野です。ここで,次の疑問が浮かび上がってきます。「でも,大学の研究室で学んだ研究法は,会社でも応用できたのでは?」。私の答えは,玉虫色です。
その後,キャリアカウンセラーになったことをきっかけに,学生の頃に魅力を感じていた心理学に二度目の恋をして,放送大学で学んで認定心理士の資格を取るころには,対人サービス業に携わっていました。ここで驚いたのが,心理学が対人サービス業において役立つ部分が数多く見受けられることです。どんなに商品や技術等の知識があっても,対面する相手の立場になってのサービスを提供できなければ,原稿を棒読みする講演のようなものです。そこでは,臨床心理学の知識が役立ちます。困っている相手の気持ちになりすぎて,過剰なサービスをしてしまいたいと感じてしまうところなどは,カウンセリングにおける逆転移との共通点を感じます。
発達心理学における,乳児が他者(主として母親)との二項関係から,自己・他者・対象(モノ)間の三項関係に移行していくのと同じ現象が,技術職から対人サービス業に職種転換した場合に見受けられることがあります。例えば,PCの対人サービスの場合,修理や設定が必要なPCの方ばかり向いて作業していて,お客さんを見ていないのです。慣れ親しんだ製品であるPCは母親のように安心できる存在であり,二項関係になってしまうのですね。こういったときには,お客さんが望んでいるのと違った設定や説明をしてしまうこともあります。稀に,お客さんでなく,PCに向かって「ありがとうございました」と言って,頭を下げる初心者マークのサービスマンを見かけることもあります。経験を積むにしたがって,徐々にお客さんも加えた三項関係に移行していきますが,移行までに時間がかかる場合は,認知行動療法を応用した教育・訓練が有効だということも発見しました。
また,サービスの途中で予期せぬトラブルが生じてしまう場合には,その場合の責任の所在を,後々明らかにしなければいけないこともあり,それはスーパーバイザーやマネジメントの経験(と勘)に頼ってしまうことが通常多いです。そこで,ケリーの共変モデルを応用することで,担当者の責任なのか,それとも他の原因に帰属するのかを,少なくとも今までよりも客観的に判断することもできるようになりました。その他,対人認知,とりわけ印象形成・態度といった社会心理学の知識を対人サービス業に多く利用することができます。
さらに,二つ目となった修士論文では,認知心理学の観点から,対人サービス業におけるヒューマンエラーについて研究をしました。仕事をしながら学んだ心理学であるから役に立ったのでしょうか? それとも,心理学の様々な領域が対人サービス業との関連が深いのでしょうか? これからも,この答えを求め続けていきたいと切に思っております。そして,対人サービス業のみならず様々な分野において,これまで私が学んだ心理学をどのように活かすことができるのでしょうか? また様々な分野に目を向けたときに,これからも私自身がどのように心理学を学んでいくのでしょうか? まだ見ぬ明日に向かって,チャレンジを続けていきたいと思っています。
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