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- 81号 ヒトと動物の芸術心理学
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巻頭言
常務理事(2005~2009)として
小嶋祥三(こじま しょうぞう)
私は心理学と他の学問との境界領域で研究をすることが多かったので,役員の選挙に関して,それらの学会と日本心理学会の違いを考えざるを得ませんでした。少なくとも私が常務理事だったころ,日本心理学会では,一部で大学単位の投票が行われることがありました。学問よりも所属大学が尊重されていると感じました。
ただ,心理学会は上で述べた学会よりも守備範囲が広いので,単純な比較は好ましくないかもしれません。このように書いている私自身,出身大学がとりまとめた票で常務理事をやっていました。当時の心理学会の体制を批判することは,天に向かって唾を吐くようなものです。
私はこの矛盾に内心苛立ち,常務理事会等で過激な発言を繰り返していたように思います。それはともかく,私は国際委員会を任されていましたので,日本の心理学の国際化をテコに学問を尊重する日本心理学会を目指しました。
具体的には国際賞の創設,国際心理学会議ICPの招致,それと関連して中国,韓国との学術交流の推進,若手研究者の国際学会発表の補助,英文論文執筆の推奨です。まず,国際賞について。当時,心理学会の賞としては優秀論文賞がありました。これは『心理学研究』とJapanesePsychological Research(JPR)に発表された論文を対象としたものです。
しかし,JPRのインパクト・ファクター(IF)の低さを考えると,国際的な雑誌に論文を発表することがより重要だと考えました。国際賞には特別賞,功労賞,奨励賞があり,特別賞,奨励賞は研究業績を中心に審査しました。雑誌のIFや論文の引用度数も考慮しました。特別賞を印東太郎先生(2006年度),大山正先生(2007年度)に貰っていただきました。奨励賞の受賞者にはICPでの活躍を期待しました。ICP招致を発議し,繁桝算男さんを中心に招致に努力していただきました。それがICP2016として一昨年結実したことは皆さんご存知の通りです。
日本開催を支援してもらおうと中国,韓国の心理学会との連携を図りました(韓国もICP誘致を考えていることを知り,少し慌てました)。心理学会大会で中国と国際シンポジウムを開催し(その時,中国でも「心理学」と言い,それは日本から輸入したものと知りました),中国,韓国の研究者の発表を可能にしました(開催校の北海道大学は積極的に対応してくれました)。
また,若手研究者の国際学会発表の後押しをしました。心理学会大会で,英文論文の執筆を奨励するシンポジウムを開催しましたが,参加者は少数で,苦笑いしました。
Profile─小嶋祥三
1972年,早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程退学。同年より京都大学霊長類研究所助手,助教授,教授,所長,慶應義塾大学文学部教授を歴任。文学博士。専門は認知神経科学。著書はA Search forthe origins of human speech: Auditory and vocal functions of the chimpanzee(京都大学学術出版会),『脳科学と心の進化』(共著,岩波書店),『ことばと心の発達 全4 巻』( 監修,ミ
ネルヴァ書房)など。
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