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【小特集】

合理的配慮ってどんなこと?

一人ひとりに個性があり,個性が尊重される社会が望まれます。障害者に対する差別禁止と合理的配慮の義務が規定された障害者差別解消法の施行から丸2年,心理学に携わる者として,改めて,身近な学校や企業等での合理的配慮の実際を考えましょう。(柏崎秀子)

概説 共生に向けた合理的配慮とは

橋本 創一
東京学芸大学教育実践研究支援センター 教授

橋本 創一(はしもと そういち)

Profile─橋本 創一
1989年,筑波大学大学院教育学研究科修士課程修了。博士(教育学)。専門は障害児心理学,教育臨床学,臨床心理学。著書は『発達障害や人間関係が苦手な人のためのソーシャルスキル・トレーニング』(共編,エンパワメント研究所)など。

社会や学校における各構成員に援助を行う時,「平等(equality)」と「公平(equity)」からの議論がある。学校場面を考えると,平等は状況を鑑みず全員に対して同じ処遇(時間,声かけ,指導など)を施し,その結果はできた者とできない者が出現する。しかし,公平は各々の状況に応じて処遇を変え,全員ができるように施すものである。そもそも,平等は全員が同じように授業参加し学べる状態が準備される場合に限られる。公平さは,全員に学習活動へのアクセシビリティを確保し,個人の差異や来歴は時に授業参加に対して障壁となる場合がある。前提として,公平さの担保があり,次に平等を提供すべきであろう。

合理的配慮とは

2016年に施行された「障害を理由とする差別の解消を推進する法律」は,2006年に国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」の定義(表1)を背景に成立し,障害のある人に対する差別を禁止し,行政機関や事業者は合理的配慮を可能な限り提供するよう求めた。

例えば,障害から鉛筆による書字が困難な生徒に対して,授業や入試で代替手段としてタブレットの支援機器を認めないことは,同法の差別禁止および合理的配慮の否定に抵触する可能性がある。さらに,本人や保護者が申請する代替手段の利用について,学校側は検討する義務が発生する。

一方で,合理的配慮は理に適った(reasonable)変更・調整であり,「配慮を受ける本人」にとって合理的であると同時に,「配慮する側」にとっても非過重負担の要素を含んでおり,双方の事情を考慮すべきとしている。本人や保護者からの申請を受け,要望や意見を丁寧に聴取し,どのような配慮が必要かを合意したうえで提供する。基本的な合理的配慮には,「物理的環境への配慮」「意思疎通の配慮」「ルール・慣行の柔軟な 変更」などがある。

表1 「障害者の権利に関する条約」の定義

障害に基づく差別(Discrimination on the basis of disability)
障害に基づくあらゆる区別,排除又は制限であって,政治的,経済的,社会的,文化的,市民的その他のあらゆる分野において,他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し,享有し,又は行使 することを害し,又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には,あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定等)を含む。
合理的配慮(Reasonable accommodation)
障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し,又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって,特定の場合において必要とされるものであり,かつ,均衡を失 した又は過度の負担を課さないものをいう。
ユニバーサルデザイン(Universal design)
調整又は特別な設計を必要とすることなく,最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品,環境,計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは,特定の障害者の集団のための補装具が必要 な場合には,これを排除するものではない。

(出典)障害者権利条約 第二条 定義

障害のある人とは

「障害者基本法(2011)」にある合理的配慮の提供がなされる障害のある人の定義を表2に示す。注目すべきは,個人の心身機能の障害にとどまらず,個人と社会の相互作用の中で生じる(社会制度や環境が障壁となり個人に支障をもたらす)状態について言及したことである。従来の障害の捉え方として,その種類(特性)や程度に基づく「医学モデル」を重視し,服薬やリハビリテーションなどの提供の根拠とした。それに対して,性同一性障害などに代表される社会生活上の様々な慣習や問題の解消が求められるものを,個人-社会の相互作用に起因する障害と考えて,実際の社会的障壁からその障害の状態を判断する「社会モデル」による見解に転換した。社会的障壁の除去を怠ることが禁止され,合理的配慮の提供を政府や地方公共団体(学校等含む)などに義務づけられ,一般事業者は努力義務とした。また,障害の診断や障害者手帳の有無によらず,合理的配慮は提供される。つまり,学校では,診断の有無によらず特別な支援が必要な子ども(特別支援教育の対象)は合理的配慮を受ける。

内閣府のサイト(http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/)に,合理的配慮等具体例データ集が紹介されている。

表2 「障害者基本法」の定義

障害者とは
身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいう。
社会的障壁とは
障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物,制度,慣行,観念その他一切のものをいう。

(出典)障害者権利条約 第二条 定義

インクルーシブ教育

障害者権利条約の第二十四条に「インクルーシブ教育システム」がある。それは,人間の多様性の尊重等の強化,障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ,自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下,障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みである。障害のある者が教育制度一般から排除されないこと,自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること,個人に必要な合理的配慮が提供されることを主眼に置く。

同じ障害に一律に同じ配慮をすることはむしろ不適切で,障害のある個人が具体的にどんな困難を抱えているかに注目し,必要な配慮を考えなければならない。他方,個別支援を実施すれば合理的配慮であると勘違いしている者が少なくない。

合理的配慮の実践例を挙げよう。小学校2年生のAさんは自閉症スペクトラム障害があり,「想像力が弱い」「触覚過敏がある」「手先が不器用」「多動性・衝動性が強い」という支援ニーズや特性がある。図画工作の粘土による制作の授業では,活動に参加できず教室の外に出て行ってしまう。この場合,「想像力が弱いために制作対象をイメージできない」「手先が不器用なためにうまくつくれない」「感覚過敏から粘土に触れない」が原因と考えられる。この場面における合理的配慮の手立てや工夫は,①教材や道具(手袋,触らずに遂行できる道具,代替教材),②説明(理解しやすく不安を取り除く),③制作活動(作る物をイメージしやすく),④活動グループ(楽しい雰囲気つくり,見本やサポート体制),⑤教室環境(室内にいられる),などだろう。

Aさんや保護者の話に耳を傾け,意見を聴取し,取り入れられそうなことを探す。①〜⑤のすべてを実践するわけではなく,Aさんに合った工夫を見出すことと,教師が授業ですぐにできることを探すことが重要である。国立特別支援教育総合研究所のサイト(http://inclusive.nise.go.jp/?page_id=13) に「合理的配慮」実践事例データベースが紹介されている。

心理学が貢献できること

心理学領域から多角的・包括的な支援技法やツールなどが提供されている。当事者への傾聴,相談支援,生態学的アセスメント,支援計画の立案,支援機器・技術の導入,環境調整,コーディネーション,などがある。特に,社会適応と不適応,環境から引き起こされる二次的な障害を迅速にピックアップし,合理的配慮を見出すことが必要である。例えば,ASIST学校適応スキルプロフィール(橋本・他,2014)にある個人活動と社会参加の視点から,学校適応スキルの獲得,障害と学校生活の環境における問題行動(支援ニーズ)の両面を把握し,学校適応をプロフィール化して支援計画を立案する取り組みなどがある。

文献

  • 橋本創一・他(2014)『ASIST 学校適応スキルプロフィール:適応スキル・支援ニーズのアセスメントと支援目標の立案 特別支援教育・教育相談・障害者支援のために』福村出版

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