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常務理事会から
学会の財務状況と展望
2017年度より財務を担当しております坂上です。今回は日本心理学会の現在の財務状況と今後の課題をご報告したいと思います。
ご存知のように本学会は2011年から公益社団法人となっております。定款にあるように「心理学の進歩普及を図り,もって我が国の学術の発展に寄与すること」がその目的です。公益社団法人は「学術,技芸,慈善その他の公益に関する23種類の事業であって,不特定多数の者の利益の増進に寄与する」公益目的事業をすることがその認定において求められています。つまり会員は,学会が定める事業を通して「不特定多数の者の利益の増進に寄与」していきます。
さて,こうした事業の実施には経費が発生いたします。そのために会員は学会費や大会参加費を納め,他方,学会は実施する事業から収入を得ることもあります。学会の運営担当部門(常務理事会や学会事務局)は,そうした収入を適正に必要な事業へと配分しなくてはなりません。税制上の優遇措置を受けることができる公益社団法人は,その性格上,収支相償であることが求められています。収支相償とは「公益目的事業に係る収入が,その実施に要する適正な費用を償う額を超えないこと」を意味し,学会は大きな収入超過や支出超過のない,バランスのとれた収支を実現できる学会運営を目指す必要があります。
本学会の会計処理規程によれば法人の会計区分は(1) 研究振興支援事業(公1と略されています。主に大会運営,機関誌等の発行),(2)認定心理士資格認定事業(公2。主に資格認定業務),(3) 教育研修啓発事業(公3。主に講演会開催,関連団体との連絡協力),(4) 法人会計(主に人件費や事務局運営費)となっています。財務の仕事は,他の部門と協力して事業遂行のための予算案を作り,その適正な支出の管理や進行状況のチェックを行っていくことです。そして,今後の学会を取り巻く状況の推移を想像しながら,長期的な学会の収支構造のあり方を提案していくことも,重要な職務と考えております。
さて,その長期的な学会の収支構造について考える際に重要なのが,財務指標と呼ばれるものです。正味財産比率は正味財産を資産総額で割った値で,この値は大きいことが望ましいのですが,2009(平成21)年度以降2016(平成28)年度までの値を見ていきますと88%から83%へと減少しています。経常収支比率は経常収益(大まかにいうと収入)を経常費用(同,支出)で割ったもので,これも大きいことが望ましい値ですが,99%から95%へと減少しています。さらに単純に正味財産を見ると,3億4千万円から2億5千万円に減少しています。一方,管理費を経常費用で割った管理費比率には,ほぼ大きな変化はありません。2011(平成23)年度に公益社団法人化があり,2016(平成28)年度にICP2016が行われ,それぞれ財政的な構造が大きく変動したという事実はあるのですが,ある種の一貫した傾向が見て取れる点には,留意する必要があります。
こうした変化の要因となっている,もしくはこれからより拍車をかけると考えられる問題が二つあります。一つは学術大会の収支差額における赤字の増加傾向です。2010(平成22)年74回大会と2014(平成26)年78回大会ではそれぞれ若干の黒字であったのが,このところ中央値で530万円程度の赤字が発生し,2017(平成29)年81回大会でも大きな赤字が見込まれています。その原因は,大都市以外での大会では参加者収入が少ない一方で,会場などの設営経費が掛かることにあると考えられています。しかし経常収益2.6億のうちの何%かを占める赤字ですので,この問題は今後大きな懸案事項となると思われ,早急に対策が必要です。
もう一つの問題は,公認心理師法の施行に伴う認定心理士資格認定事業の今後です。心理学関連学部の出身者すべてが公認心理師を目指すわけではないので,ある程度の資格取得希望者は今後も望みうると思われますが,国家資格制度がなかった頃とはだいぶ様子が変わることが予測されます。日本心理学会としては,認定心理士の方に学会にも積極的に入ってご活躍いただくと同時に,社会的に開かれた学会の在り方を自らが模索していく必要があります。それが学会の公益法人としての責務を果たすことであり,心理学を活性化していくことにつながると思います。
(財務担当常務理事・慶應義塾大学教授 坂上貴之)
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