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ここでも活きてる心理学

児童のトラウマ支援に活きる心理学

大阪府立子どもライフサポートセンター 心理職

辻野 琢也(つじの たくや)

Profile─辻野 琢也
2007年,同志社大学大学院文学研究科博士課程前期修了。同年に大阪府入庁。障害者支援施設,児童相談所の勤務を経て,東日本大震災の復興支援のため,岩手県一関児童相談所へ派遣された後,現職。

岩手県派遣時の関係機関との打ち合わせの様子 (右端が筆者)
岩手県派遣時の関係機関との打ち合わせの様子(右端が筆者)

私は地方自治体に採用された,いわゆる「公務員心理職」です。公務員心理職は国や地方自治体,その他関連団体に採用され,様々な業務にあたっています。主には心理学的知識を活かした技術職として,医療,福祉,教育,司法,産業等の臨床現場で働いたり,研究に従事したりすることになります。私のような都道府県に採用された地方公務員の場合,その大多数が臨床現場,具体的には児童相談所や精神保健福祉センター,障 害者更生相談所,児童福祉施設,障害者支援施設等に配属されます。また,心理職ではなく,社会福祉職や施設職員の役割として勤務する場合もあると共に,都道府県庁にて行政職として働く場合も少なくありません。

私はここ数年,児童福祉関連の職場に配属されることが続いており,大阪府の児童相談所で勤務した後,東日本大震災の復興支援のために岩手県の児童相談所へ派遣されていました。その後は,現所属である,中学校卒業後の社会的養護を必要とする児童が対象の児童福祉施設にて勤務しています。私がこれまで出会った多くの児童たちは,虐待や自然災害(震災や津波),劣悪な環境等によって,何らかの心理的,身体的,社会的な 逆境を体験しています。そうした逆境体験はトラウマティック・ストレスとなり,体験後にトラウマ反応や症状を引き起こすだけでなく,心身の発達へ悪影響を及ぼしたり,長期的には疾患・障害の原因や社会適応上の問題につながったりすると言われています。トラウマ体験をした児童を支援するにあたっては,児童本人や周囲の大人がトラウマの影響について理解し,トラウマ症状やそのきっかけに気づき,対処スキルを獲得できるような体制を形作ることが必要です。これは「トラウマインフォームド・ケア」と呼ばれており,トラウマにより傷ついた児童が安全感や自己統制感,自己効力感を持つに至るために必要不可欠な支援体制です。

このトラウマインフォームド・ケアにはトラウマのメカニズムを理解するための学習や認知,情動調節についての心理学理論が必須です。また,トラウマの神経基盤や対処法としての認知行動技法の説明には,神経心理学や臨床心理学といった基礎から応用までの幅広い心理学の知識が活かされています。そのため,私が所属する施設や大阪府の児童相談所では,心理職が推進の核となることが期待されています。特に,施設という生活場面での関わりは,児童のトラウマ症状を即座に共有でき,現実感をもって症状について説明し,対処法を一緒に実践できるため,非常に有効です。一方で,症状による行動化等に接することで,職員も危険や不安を感じることも多く,職員自身が疲弊する危険性も高くなります。そのため,職員にとっても安心できる環境や協力体制を培うこともまた,トラウマを理解したケアには欠かせません。

以上のような児童福祉領域でのトラウマ支援は心理学だけが担っているわけではなく,医療,保健,社会福祉,教育等の各分野の力を総動員することが必要です。そのため,「トラウマのレンズ」を通して児童や家庭に関われるよう他の機関に働きかけながら,協働できる心理職を目指したいと思います。

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