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海外留学経験がくれたもの

足立 幾磨
京都大学霊長類研究所思考言語分野 准教授

足立 幾磨(あだち いくま)

Profile─足立 幾磨
2006年,京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員,同海外特別研究員,京都大学霊長類研究所国際共同先端研究センター特定助教・助教などを経て,2017年より現職。専門は比較認知科学。著書は『動物たちは何を考えている?』(分担執筆,技術評論社)など。

学位をとった直後の2006年4月から,日本学術振興会の海外特別研究員制度により,米国で2年間研究をする機会を得ました。滞在先は,米国南部の中心都市アトランタにあるヤーキス国立霊長類研究所のRobert Hampton博士の研究室でした。博士は動物を対象にメタ記憶をはじめとする記憶メカニズムについて,神経科学的なアプローチを含め統合的に行動研究をされており,とても刺激的な2年間でした。

初めて博士に会ったのは,2003年,京都大学でのシンポジウムでした。当時修士の学生だった私のポスター発表を丁寧にきいてくださり,アドバイスをたくさんもらったことを覚えています。2004年に博士が京都大学霊長類研究所に半年間滞在していた際には,毎週のように食事をとりながら研究談義をしたものでした。そうした縁から,2005年には博士の研究室で2ヵ月間の共同研究を,そして冒頭の海外特別研究員を引き受けてもらえることになりました。

いざ2年間という期間海外に滞在し,現地の研究室のメンバーになると,それまでに数度おこなった海外での共同研究時とは全く異なる経験が待っていました。一番強く感じたのは,お客さんではない,ということでした。研究室の一員なので,研究室運営,ラボミーティングといった場では,ポスドクという立場でのリーダーシップを求められました。そのため,研究体制・事務体制,分業の仕方など,アカデミアにおける様々な文化差も感じることができました。また,生活面でも同様で,短期滞在者用の宿舎などではなく,通常のアパートを借り生活をすることになります。日本とは異なる文化・しきたりの中で,日本では当たり前のようにできていたことにいちいち四苦八苦しながら生活のセットアップをしたことを,懐かしく思い出します。同時に,日本という国・文化について外から眺めることができ,自身のアイデンティティを意識する機会にもなりました。

こうした経験が,日本に帰ってから思わぬ形で役に立つことになりました。日本学術振興会の特別研究員制度(PD)に採用され帰国してほどなく,京都大学霊長類研究所に新しく附置された,国際共同先端研究センターという部署で助教の職を得ました。当時,文部科学省が海外からの学生獲得を推進するために実施していた,グローバル30というプロジェクトの経費によるもので,海外の学生を獲得するためのシステムと,そういった学生が日本で研究をするための環境を作りあげていくことがミッションでした。自身のアメリカ生活を思い出すことで,彼らが直面するであろう,母国を離れて生活をすること,また,研究をすることの中に内在する様々なチャレンジをイメージすることができ,彼らの立場に寄り添った支援体制を構築することができたと思います。

さらに幸運なことに,研究所が「頭脳循環を加速する若手研究者戦略的海外派遣プログラム」に採用され,改めてHampton博士の下で共同研究をのべ12ヵ月にわたり実施する機会を得ました。日本で活動する外国人の支援をおこなう立場になったのちに,再度こうした機会をいただいたことで,改めて国際化問題を考えるきっかけになりました。

ひとところにしかいないと,その場所での常識にどっぷりと浸かり,異なる基準やスタイルに次第に目が向かなくなってしまいます。それは,その場所で効率よく生き,仕事をしていくうえではとても有効な側面ですが,最後まで同じ環境でずっと生きていくことは,こと研究者の世界においては難しいことだと思います。もちろん国という概念に限りません。学際的な研究推進,新領域の創成など,あらたな船出をする必要もあるでしょう。柔軟な対応が可能な時期に様々な経験をつめたこと,また多くの方,政策によって支えていただけたことに,深く感謝しつつ筆をおきたいと思います。

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