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    ─生理心理学的・解剖学的アプローチ

【特集】

なぜ顔が赤くなるのか
─生理心理学的・解剖学的アプローチ

廣田 昭久
鎌倉女子大学児童学部子ども心理学科 教授

廣田 昭久(ひろた あきひさ)

Profile─廣田 昭久
上智大学大学院文学研究科教育学専攻博士後期課程単位取得満期退学。文学博士。上智大学文学部心理学科助手,科学警察研究所法科学第四部情報科学第一研究室長などを経て,2010年より現職。専門は生理心理学。著書は『生理心理学の基礎(新生理心理学1)』(分担執筆,北大路書房),『子ども心理学の現在』(分担執筆,北樹出版),『クローズアップ「犯罪」(現代社会と応用心理学7)』(分担執筆,福村出版)など。

日常生活の様々な場面・状況の中で顔における各種の変化が生じる。その中でも昔から注目され研究対象となってきたのは表情である。特に表情を客観的にコード化する方法が開発されて以降,工学的な技術の進歩に後押しされて,表情の認識や表出技術は既に様々な領域で応用・活用されている。

しかし,顔での変化は表情ばかりではない。誰もが経験するものとして顔色の変化がある。特に,顔が赤くなることは様々な場面・状況で生じる極めて日常的な現象である。人前でのパフォーマンス状況で興奮や羞恥心により顔が紅潮する。炎天下の作業や運動時にも,またインフルエンザの発熱によっても顔は赤くなる。心理学的にはどのような心理条件において顔が赤くなるのか,また,そこでの赤面現象の意味・機能は何なのかに興味がある。本稿では赤面現象についての生理心理学的及び解剖学的観点からの検討・考察を試みる。

顔色の変化は顔面皮膚血管の血流量状態に依存している。赤面すなわち顔の紅潮は顔面の皮膚血管の拡張の結果と理解できる。血管の拡張により血流量が増大し,皮膚が赤みを帯びて見えるようになり,それが赤面となる。顔面皮膚の血管は他の皮膚部位と同様自律神経の交感神経により支配されている。血管を支配する交感神経には血管収縮性神経と血管拡張性神経があり,耳介や口唇は交感神経性血管収縮神経が主に支配しているが,他の顔面部位では血管拡張神経も分布している。また近年,顔面皮膚血管は副交感神経性の血管拡張神経の支配も受けていることが分かり,顔面皮膚部位によっては交感・副交感の二重支配を受けていると考えられている。さらに,このような神経性の支配ばかりでなく,顔面皮膚血管には,交感神経系賦活時に副腎髄質から血中に分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンの作用を受けた液性の血管拡張のメカニズムも報告されており,赤面現象として確認される顔面の血管拡張反応が,交感・副交感どちらの神経性の反応なのか,それとも液性の反応なのか,あるいはこれらの組み合わせによる反応なのかについては未だ明確になっているとはいえない。

しかし,しくみがどうであれ,我々は赤面する。特に顔の紅潮は好きな人や憧れの人など他者と面談する際や,人前での発表や演技などパフォーマンスを行う等の対人的な社会的な文脈において,紅潮の発現やその反応の増強を自覚することが多い。このような日常的な経験から,赤面現象,顔の紅潮は対人コミュニケーション状況等の社会的文脈における何らかの機能・役割を有すると推察できるかもしれない。

社会的文脈と赤面現象との関係を検討する目的から筆者ら(廣田・小川・松田, 2018a)は次のような実験的検討を行った。社会的文脈の弱い課題(暗算課題)と強い課題(歌唱課題)を行い,その際の顔面の皮膚血流量を計測した。暗算は連続減算を,歌唱は童謡を歌うという課題で,両課題とも1分間行った。暗算は注意を内面に向け,内的な活動に終始するので,他者の存在を意識することが少なく,かつその影響もあまり受けないと推測できることから,暗算課題は社会的文脈が弱い状況と仮定した。一方,歌唱課題は表出行動を伴い,歌唱について上手とか下手とか他者から評価を受ける潜在性が高く,他者の存在を意識しやすく,かつその影響を受けやすいと推測できることから,社会的文脈の強い状況と仮定した。これら2種の課題を観察者がいない条件と観察者を面前にして行う条件とで実施し,額部と頬部の皮膚血流量を2箇所同時にレーザードップラー血流計により計測した。その結果,観察者の有無に関わらず,暗算課題では額も頬も両部位ともに皮膚血流量の変化はほとんど生じなかったのに対し,歌唱課題では両部位ともに課題時の皮膚血流量の増加が示された(図1に額部の結果を示した)。このように課題が有した社会的文脈の強弱で顔面部の皮膚血流量に弁別的な反応が確認され,対人的・社会的要素が強い状況では顔面部の皮膚血流量が増加することが明らかになった。

図1 観察者の有り・無し条件における暗算課題(MA)と歌唱課題(Song)時の額部皮膚血流量の変化 BL:課題開始直前10秒間平均,Period1〜3:課題時60秒間の各20秒区間の平均,Recovery:課題終了後30秒間の最後の10秒間平均(廣田・小川・松田, 2018 一部改変)
図1 観察者の有り・無し条件における暗算課題(MA)と歌唱課題(Song)時の額部皮膚血流量の変化
BL:課題開始直前10秒間平均,Period1〜3:課題時60秒間の各20秒区間の平均,Recovery:課題終了後30秒間の最後の10秒間平均(廣田・小川・松田, 2018 一部改変)

しかし,顔の皮膚血流量の変化は対人的・社会的な文脈にのみ反応するものでないことは日常経験的にも明らかである(例えば,ギャンブルで勝った際などの個人的な歓喜状況)。筆者ら(廣田・小川・松田, 2018b)は,感情喚起状況ではあるが,社会的文脈はなく,また誰でもが一様な反応を喚起する課題として,驚愕ビデオ視聴時の顔面皮膚血流量の変化を検討した。その結果,驚愕刺激提示後に額と頬両部位において皮膚血流量が一過性に有意に増加することが明らかになった。このように社会的文脈の関与がない感情喚起事態においても,顔面部の皮膚血流量の増加が示された。

社会的文脈が強い課題時でも,驚愕など何らかの感情が喚起された状況においても,その課題・状況に応じて,何らかの対応・処理を行うべく脳活動は高まると推測される。活動亢進が見られる脳部位は,その課題の性質・内容や状況などにより異なることが推察されるが,いずれにしても総じて脳活動は亢進した状態と考えられる。そのように捉えると,顔面皮膚部位での血流量増加の反応と脳活動との間に何らかの関係性を推察することができる。

ところで顔面部の皮膚血流の解剖学的な構造はどのようになっているのか(Norton, 2012; Radlanski & Wesker, 2011)。顔面への血液供給は外頸動脈と内頸動脈に由来する数多くの分枝によって行われている。外頸動脈から発した顔面動脈は下顎枝を回り口角の外方に至り下唇動脈と上唇動脈を発し,鼻の側方から眼角動脈と名称を変え鼻に沿ってさらに走行し,眼動脈(内頸動脈由来)の終枝である鼻背動脈とつながる。そして,鼻背動脈は内眼角部で眼動脈から来た滑車上動脈とつながり,滑車上動脈はさらに上方に進み前額中央部に至る。眼の上部の前頭部は眼動脈から発して眼窩上孔(切痕)を通ってくる眼窩上動脈により血液供給される。一方,眼窩下部は外頸動脈由来の顎動脈の分枝であって眼窩下孔を通ってくる眼窩下動脈によって血液供給される。

それに対し,顔面の,特に額から頬部にかけての静脈構造はどのようになっているのか。基本的に動脈と静脈は並走している。前額部は網状に込み入った静脈網により強力に灌流されており,額の静脈血の大半は滑車上静脈(前頭静脈ともいう)に集まる。側方の前頭部を走行する静脈は眼窩上静脈の分枝であり,前頭静脈は眉間部で眼窩上静脈からの血流を受け,眼窩前方で上眼静脈となり,眼の奥に位置する海綿静脈洞に注ぐ。眼窩下壁からの血液を受ける下眼静脈は海綿静脈洞と翼突筋静脈叢と連絡する。一方,滑車上静脈(前頭静脈)と眼窩上静脈が合流して鼻背部で始まる眼角静脈は鼻部の外側に沿って進み顔面静脈となる。眼角静脈は鼻背部と頬部の小静脈からの血液を集め,眼窩下孔を通る眼窩下静脈とつながり海綿静脈洞と翼突筋静脈叢に合流する。

このように額部や頬部に供給された血液の多くは,各領域にある静脈に集められ,最終的に海綿静脈洞に送られていく(図2参照)。海綿静脈洞は視床下部の下に位置する下垂体に隣接する網目状の構造物で,左右一対あり(海綿間静脈洞により左右は連絡している),左右の内頸動脈はそれぞれの海綿静脈洞の中を抜けて走行した後,分岐して各脳領域に血液を供給している。

図2 海綿静脈洞と関連する静脈
図2 海綿静脈洞と関連する静脈

顔面部の皮膚温の低下が脳を冷却するとの報告がある。鼓膜温は視床下部温度を反映し,様々な研究で鼓膜温が脳温の指標として活用されてきた。前額部に氷嚢を置いたり,冷水に顔面を浸漬することにより鼓膜温は低下する(内野ら, 1982)。顔に送風することによって,送風直後から鼓膜温が低下することが示されている(Cabanac & Caputa, 1979a,b; 山下, 1989)。顔面部の冷却による鼓膜温低下に反映される脳温低下の機序は,上述の顔面血流に関わる解剖学的な血管組織構造から説明される。冷却された顔の皮膚からの静脈血が上眼静脈などを経て海綿静脈洞に流入すると,内頸動脈は海綿静脈洞内を通って脳へと上行してくるので,冷却された海綿静脈洞内の静脈血と内頸動脈血との間で対向流熱交換がなされて内頸動脈血が冷却され,その冷却血が脳の各領域に送られて,鼓膜温の低下に反映されると考えられている。

この機序を本稿で紹介した社会的文脈の強い課題や驚愕時の顔面の皮膚血流量の結果と併せて考えれば,社会的文脈が強い課題遂行時や驚愕時に顔の皮膚血流量の増加が生じているのは,このような条件・状況時に生じる脳活動の高まりによって産生される脳の熱を冷却するためと考えることができるかもしれない。また,社会的文脈の強い課題や驚愕時には,顔面部での発汗活動も確認されている(廣田・小川・松田, 2018a)。汗として汗腺から排出される水分は蒸発する際に皮膚表面の温度を奪い,結果として皮膚温の低下を導く。したがって,皮膚直下の血流量を増やすことで,より効率的に血液温を低下することができる。

このような機序を考えれば,社会的場面での赤面(顔の紅潮)と発汗は,生物学的にはそのような場面・状況で生じる脳活動の高まりによる脳温の増加を冷却する,いわば脳のラジエーター的反応と考えることができるだろう。面前の場面・状況を適切に処理するために,脳温を適正値に保ち,脳の適切な働きを担保する,ホメオスタシス的な反応,生理的な機能として赤面現象を捉えることができるのではないか。また赤面現象は社会的場面等で生じる感情喚起状況ばかりでなく,様々な運動時も,暑熱環境下でも,カゼ等による発熱時にも見られるが,これらの状況・状態での赤面現象も,いずれも「脳を冷やす」という本質的な目的からの反応として理解することができるだろう。このように,脳の冷却システムとして顔面皮膚血流の変化を捉えることで,赤面現象,顔の紅潮という反応のより包括的かつ基本的な説明・解釈ができるだろう。

以上のようなことを仮定すると,赤面現象,つまり顔の皮膚血流量の増加は,一義的には脳の正常な働きを保ち,個体を維持するという生物学的に本質的な目的として生じ,それが結果的に社会的文脈の中で,他者に何らかの感情の発露等を伝達する信号となり,対人コミュニケーション機能を有するようになったと考えられるかもしれない。

本稿で示したように社会的文脈の強弱課題において,顔面部の皮膚血流量に差が示された。この結果は上述したような脳活動と顔面皮膚血流量との関係を仮定すれば,社会的な文脈が弱い課題よりも強い課題において脳活動がより亢進したためと解釈することができる。つまりは,顔面部の皮膚血流量の多寡が脳活動レベルと相関していることを示唆している。もしそうならば,顔面の皮膚血流量を測定・評価することで,脳の全体的な活動レベルを推定できるかもしれない。つまり,脳活動レベルのひとつの指標として,顔面部の皮膚血流量を活用できる可能性が考えられるかもしれない。現在,fMRIが脳機能研究で広く用いられているが,fMRIでは二つの状態間(「task」と「control」)の比較によって脳活動を検出するため,測定値がそのまま脳の神経活動と対応していないことが最大の問題点とされる。脳の神経活動をできるだけ直接的に計測し,また定量化が可能な指標として,脳の代謝活動を反映すると考えられる脳温度が計測値として最適と考えられている(JST-CREST「次世代無侵襲・定量的脳機能イメージング法の開発」)。したがって,顔面皮膚血流量の変化が脳温の維持に関係し,相関していると仮定されれば,顔面部の皮膚血流量はより直接的な脳活動を反映する測度としての価値を有することができるかもしれない。その仮説の検証には今後の研究が必要であろう。

文献

  • Cabanac, M. & Caputa, M.(1979a) Natural selective cooling of the human brain: Evidence of its occurrence and magnitude. The Journal of Physiology, 286, 255-264.
  • Cabanac, M. & Caputa, M.(1979b) Open loop increase in trunk temperature produced by face cooling in working humans. The Journal of Physiology, 289, 163-174.
  • 廣田昭久・小川時洋・松田いづみ(2018a)社会的文脈課題における顔面部の皮膚電気活動 及び皮膚血流量 生理心理学と精神生理学 Advance online publication. doi.org/10.5674/jjppp.1703si
  • 廣田昭久・小川時洋・松田いづみ(2018b)驚愕時の顔面部皮膚電気活動と皮膚血流量変化 第36回日本生理心理学会大会プログラム・予稿集, 58.
  • JST-CREST「次世代無侵襲・定量的脳機能イメージング法の開発」 http://www2.nict.go.jp/advanced_ict/plan/s-brain/CREST_project/CREST_intro.html(November 14, 2018)
  • Norton, N. S.(2012) Netter’s Head and Neck Anatomy for Dentistry 2nd ed. Elsevier Inc.[前田健康(監訳)(2014)『ネッター頭頸部・口腔顎顔面の臨床解剖学アトラス』第2版,医歯薬出版]
  • Radlanski, R. J. & Wesker, K. H.(2011) Das Gesicht:Bildatlas Klinische Anatomie. Quintessenz Verlags-GmbH.[下郷和雄・瀬戸一郎(訳)(2013)『グラフィックス フェイス 臨床解剖図譜』クインテッセンス出版]
  • 内野欽司・増田充・長谷川豪志・西牟田守(1982)頭部冷却時の鼓膜温 宇宙航空環境医学, 19, 67-74.
  • 山下由果(1989)頭部各部冷却時の鼓膜温と発汗応答との関係 愛知医科大学医学会雑誌, 17, 875-886.

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