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巻頭言

心理学の国家資格者「公認心理師」の権能を展望する

立教大学 名誉教授・東京成徳短期大学 名誉教授
水口禮治(みずぐち れいじ)

終戦直後の昭和20年代,荒廃していた国土は徐々に復興するも,教育の本質は未成熟で,「心理学」の社会的知名度はかなり低く,不人気な学問であった。ところが昭和30年代には景気回復が本格化し,「神武景気」→「岩戸景気」→「いざなぎ景気」などと,有史以前からの最高を誇る景気で賑わった。昭和40年代には,企業もこの景気に便乗して社員や大衆の心理を把握する委託調査に乗り出するようになった。例えば,当時,立教大学心理学科が企業から委託されて,私が処理した調査には次のような事例があった─「キーパンチャーの適性調査」,「喫煙行動の調査」,「勤労意欲調査」,「競輪・競馬・宝くじのファン行動」など。

昭和50年代に入ると,好景気に煽られて,多くの大学で心理学の「学科・学部・大学院」や関連施設等の充実が図られ,心理学専攻者の活躍の場も開発された。さらに関連学術団体も多く組織化され,それらの団体による「認定資格」も多く制定された。こうして平成に入り,リクルート社が全国の高校3年生の大学進学希望者を対象として行った調査では,「大学に入学したら最も学びたい専門科目」として,男女共に「心理学」を挙げたという。この時代から心理学はまさに「花形学問」として「存在感と知名度」を誇るに至ったのである。

いまや社会的にも,福祉・臨床・産業・医療・スポーツ等の多様な領域に於いても,心理学は不可欠な学問としてその効能が認知されるようになった。こうした進展に対応して,平成16年4月には日本の主要心理学会の83団体が「日本心理学諸学会連合会」を編成し,心理学の国家資格を目指して準備を進め,遂に平成30年9月に試験を行い,その結果を11月に発表し,初の国家資格「公認心理師」が誕生したのである。

ここで,私はこの機会に「公認心理師」には「医師と同等の権能」を与える措置を講ずるべきだと提言したい。何故なら,心理学は「心の科学」として体系化されており,福祉や臨床という医学の近接領域でも,その効能や役割を広く発揮しているからである。例えばアメリカでは,臨床心理士が処方のための訓練を受けるなどの条件を満たせば薬を処方できる州もあるという。現代の日本の心理学のレベルは,もはや国際的水準に達していることから,アメリカと同等と認識して差し支えない。今後,益々優秀な後輩が出現することを思えば,今からその態勢を整えておくことは必然の行為と言える。資格の向上とそのための段取りの充実は,さらに今後も追求されることを期待する。

水口禮治

Profile─水口禮治
1962年,立教大学大学院文学研究科修士課程修了。1979年,文学博士(論文博士)。神戸八代学院大学(現・神戸国際大学),立教大学,東京成徳短期大学で教授を歴任。現在は株式会社東京総合心理研究所社長を兼職。専門は社会心理学,産業心理学,認知心理学など。主な著書は,『常識力を身につける技術』(河出書房新社),『人格構造の認知心理学的研究』(風間書房),『「大衆」の社会心理学』(ブレーン出版),『こころの聴診器』(邑心文庫),『無気力からの脱出』(福村出版)など。ユーキャン通信講座「心理学入門」を監修。特許権取得「文字−色名検査(適性検査)」の開発(東京総合心理研究所)。

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