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【小特集】

ヒトと動物のコミュニケーション

私たちは動物に愛情を注ぎ,語り掛け,心を通じ合わせようとしますが,動物には,私たち人間の気持ちがどのように伝わっているのでしょうか。今回は,気鋭の先生方に,身近な動物とのコミュニケーションに関する最新の研究について語っていただきます。動物たちをより身近にいとおしく感じてもらえるきっかけになると幸いです。(漆原宏次)

ネコからみたヒト

髙木 佐保
日本学術振興会特別研究員PD

髙木 佐保(たかぎ さほ)

Profile─髙木 佐保
2018年,京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。京都大学,同志社大学,佛教大学で非常勤講師兼任。専門は比較認知科学。著書は『マンガでわかるねこの心理学』(監修・共著,池田書店)など。

ペットフード協会の『全国犬猫飼育実態調査』によると,現在日本ではネコの飼育頭数がイヌの飼育頭数を上回ったそうです。ネコは名実ともに,益々身近な伴侶動物になりつつあります。本稿では,ネコとヒトとのコミュニケーションに関して,ネコがヒトの社会的な手掛かりをどの程度読み取っているのかという観点から,さまざまな最新の研究を紹介したいと思います。

ヒトが自分に注意を向けていることがわかる

他者の注意状態を推測する能力は,コミュニケーションを行ううえで大きな意味をもちます。特に,相手が自分に注意を向けているのかを知ることは,コミュニケーションの第一歩といえるでしょう。

Itoら(2016)は,異なる演技をする実験者二人のうちどちらから報酬をもらうのかを調べました。実験条件には,視覚条件/聴覚条件/視覚+聴覚条件がありました(図1)。その結果,視覚+聴覚条件で自分に注意を向け,さらに自分の名前を呼ぶ実験者のみを,偶然で起こる確率を超えて選好を示すことがわかりました。このことから,ネコも自分に向けられた注意状態を理解している可能性が示唆されました。

図1 注意状態の理解の実験。ネコは視覚+聴覚条件で,顔をネコのほうへ向け,名前を呼ぶ人物を選好した。
図1 注意状態の理解の実験。ネコは視覚+聴覚条件で,顔をネコのほうへ向け,名前を呼ぶ人物を選好した。

ヒトが見ているところがわかる

注意状態を示す行動の中でも,物体に「視線を向ける」ことは,ヒトのコミュニケーションにおいて大きな意味をもちます。一説にはヒトの白目が他種と比較して大きいのは,視線方向の検出を促進するためだともいわれています(Kobayashi & Kohshima, 1997)。そのため,ヒトの視線方向を検出する能力をもつことは,ヒトと円滑なコミュニケーションをするうえで重要です。ネコは,視線(と顔の向き)手掛かりを利用することができるのでしょうか?

Pongráczら(2018)は,ネコが二つの容器のうち,ヒトが視線を向けたほうを選択するのかを調べました(図2)。その結果,ヒトが視線を向けた容器を統計的に有意に選択することがわかりました(全試行中の70.42%)。ネコが選択を行うまで視線を向け続けた試行も,視線を向けた後すぐに正面にいるネコに視線を戻した試行もありましたが,それらの試行の種類に関係なく,視線手掛かりを利用できることがわかりました。

図2 視線手掛かり実験。ネコはヒトが視線を向けた容器を有意に選択した。
図2 視線手掛かり実験。ネコはヒトが視線を向けた容器を有意に選択した。

ヒトの表情の違いがわかる

ヒトは顔の表情を変化させることで感情を伝えます。ネコはヒトの表情の区別ができるのでしょうか。

GalvanとVonk(2016)は,飼い主/見知らぬ人が,怒った/嬉しそうな表情をしているときに,ネコがその人にどの程度接近するのか,どの程度ポジティブ/ネガティブ行動を表出するのかを調べました(図3)。その結果,飼い主が怒った表情のときよりも,嬉しそうな表情のときに,より接近する傾向がみられ,またポジティブな行動をとることがわかりました。このような結果から,ネコはヒトの表情を弁別していることが示唆されました。しかし,見知らぬ人に対しては表情の違いによる効果はみられなかったことから,ヒトの表情弁別ができるというよりは,飼い主の表情とそれに付随する事象(嬉しそうなときは,ごはんをくれるなど)を個別に学習したのではないかと考えられます。

図3 表情の弁別実験。ネコは飼い主が嬉しそうな表情のときに,より接近した。
図3 表情の弁別実験。ネコは飼い主が嬉しそうな表情のときに,より接近した。

飼い主の声から顔を予測する

ネコは飼い主の声と見知らぬ人の声を弁別することはできますが(Saito & Shinozuka, 2013),聴覚情報と視覚情報を統合した表象をもつかは明らかになっていません。そこで,それを確かめる実験(クロスモーダル統合実験)を行ってみました(Takagi et al., under review)。この実験では,経験の違いによる差をみるために,家庭で飼育されている家庭ネコ,ネコカフェで飼育されているカフェネコを対象にしました。ネコをモニターの前に座らせ,被験体の名前を呼ぶ声を再生した後に,モニターに顔写真を呈示しました。この時,飼い主/見知らぬ人の声と顔が一致する条件と,不一致の条件がありました(図4)。もしネコが,飼い主の声と顔を統合した表象をもち,飼い主の声を聞いてその顔を予測するならば,不一致条件のときにその予測が裏切られ,画面を見る時間が長くなることが推測されました。その結果,カフェネコにおいては予測通り不一致条件を長く見ることがわかりました。一方で,家庭ネコは条件にかかわらず,同程度に画面を見る結果となりました。これらの結果から,少なくともカフェネコは,飼い主の声と顔を統合した表象を有していると考えられます。カフェネコは見知らぬ人の声と顔の組み合わせを日常的に経験していますが,家庭ネコはほとんどの場合,そのような経験はしていません。このような経験の違いが本実験の結果につながったのではないかと考えられます。

図4 クロスモーダル統合実験の(a)実験条件,(b)実験に参加するネコ(三方向から撮影)
図4 クロスモーダル統合実験の(a)実験条件,(b)実験に参加するネコ(三方向から撮影)

おわりに

ネコはツンデレでヒトに興味がないようにみえて,想像以上に我々の仕草を観察し,そこから社会的な情報を読み取っていることがわかってきました。互いを知ることで,ヒトとネコがより良い関係になることを願っています。

文献

  • Galvan, M. & Vonk, J.(2016)Ma’s other best friend: Domestic cats(F. silvestris catus)and their discrimination of human emotion cues. Animal Cognition, 19, 193-205.
  • Ito, Y., Watanabe, A., Takagi, S., Arahori, M., & Saito, A.(2016)Cats beg for food from the human who looks at and calls to them: Ability to understand humans’attentional states. Psychologia, 59, 112-120.
  • Kobayashi, H. & Kohshima, S.(1997)Unique morphology of the human eye. Nature, 387, 767-768.
  • Pongrácz, P., Szapu, J.S., & Faragó, T. Cats(Felis silvestris catus)read human gaze for referential information. Intelligence, in press.
  • Saito, A. & Shinozuka, K.(2013)Vocal recognition of owners by domestic cats(Felis catus). Animal Cognition, 16, 685-690.
  • Takagi, S., Arahori, M., Chijiiwa, H., Saito, A., Kuroshima, H., &Fujita, K. Cats match voice and face: Cross-modal representation of humans in cats(Felis catus). under review.

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