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常務理事会から

研究倫理・出版倫理

皆さんこんにちは。編集担当常務理事の宮谷です。お手元にJapanese Psychological Research(JPR)のVol. 61, No.1が届いていることと思います。各論文の中に,“Conflict of Interest” という見出しがあるのにお気づきでしょうか。私がこの仕事を担当させていただいたのは2015年6月ですが,この4年足らずの間に,研究倫理や出版倫理に関して,さまざまな動きがありました。

もちろん,COI(利益相反)というのは,特に目新しい言葉ではなく,日本心理学会でも投稿時に提出していただく倫理チェックリストの中に,「企業などと共同研究を実施,あるいは企業などからの助成を受けましたか」という項目を設けていますし,該当する場合にはその内容を脚注として記載いただいています。しかし,心理学に対する社会からの期待,要請が強まり,また企業等の資金による共同研究を実施する機会が非常に多くなってきた現状では,COI について今まで以上に注意深く扱う必要があります。上記のJPR の変更もそれに対応した動きの一つであり,該当しない場合でもそのことを明記するようにしました。

また,最近『心理学研究』やJPR の編集委員会で,ヘルシンキ宣言が話題となりました。ヘルシンキ宣言は,もともと医学研究の倫理的原則として1964年6月に定められましたが,医学のみならず,人間を対象とする研究を行う多くの機関や施設で,ヘルシンキ宣言を基に研究倫理委員会の設置等が行われてきました。

ヘルシンキ宣言は,何度か改訂が行われています。最新の2013年10月の改訂版では,「研究登録と結果の刊行および普及」に関して,「35.人間を対象とするすべての研究は,最初の被験者を募集する前に一般的にアクセス可能なデータベースに登録されなければならない。」(日本医師会訳版,原文はEvery research study involving human subjects must be registered in a publicly accessible database before recruitment of the first subject.)とあります。

これを文字通りに読むと,論文の中で「ヘルシンキ宣言に則り」と書くためには,研究の事前登録が必要となります。序文には,「本宣言は全体として解釈されることを意図したものであり,各項目は他のすべての関連項目を考慮に入れて適用されるべきである」と書かれており,「ヘルシンキ宣言の精神・・に 則り」のような書き方をしている論文もあるので,必ずしも文字通りの解釈をしなくても良いのかもしれませんが,いずれにせよ研究倫理や出版倫理が時代とともに変化(というよりも厳格化でしょうか)していることは間違いありません。私の勤める大学では,博士論文や修士論文はもちろんのこと,卒業論文についても,研究倫理に関する講習を受けていないと,提出できなくなりました。ちなみに,多くの学生は,一般財団法人公正研究推進協会が提供するCITI Japan e-learning プログラム(2018年10月1日からeAPRIN に名称変更)を受講しているようです。

『心理学研究』88巻5号の「性犯罪者の犯行の否認・責任の最小化と再犯との関連の検討」や,同87巻3号の「ゴミのポイ捨てに対する監視カメラ・先行ゴミ・景観・看板の効果」など,機関誌で発表される論文に,社会における具体的な課題の解決に直結することを目指した内容のものが随分増えてきた印象があります。社会との繋がりが強くなればなるほど,心理学が果たす役割と同時に責任も大きくなります。本誌でも68号(2015年1月15日発行) の特集「その心理学信じていいですか?」で,再現可能性の問題など心理学研究の在り方に関する提言が行われていますが,成果の活用も含めて,個々の研究の倫理的側面については,今まで以上に強く意識する必要があると考えられます。

日本心理学会では,研究と発表における倫理,社会における職務上の倫理などに関して規程を定めています(https://psych.or.jp/publication/rinri_kitei/ 第3版)が,学界をとりまく環境は常に変化しています。機関誌に投稿いただく皆さんはもちろんですが,そうでない方も,今一度このような状況を認識していただき,特に,研究倫理・出版倫理について敏感になっていただければ,と強く願っております。

(編集担当常務理事・広島大学教授 宮谷真人)

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