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心理学ライフ

赴任先で出会った新しい楽しみ

田中 大介
鳥取大学地域学部 准教授

田中 大介(たなか だいすけ)

Profile─田中 大介
2006年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。JST社会技術研究開発センター研究員などを経て現職。専門は認知心理学,発達心理学。著書は『単純接触効果研究の最前線』(分担執筆,北大路書房),『保育の心理学Ⅰ』(分担執筆,大学図書出版)など。

3年前,鳥取大学杯での一コマ。Photo by Kota Yoshida
3年前,鳥取大学杯での一コマ。Photo by Kota Yoshida

私は10年ほど前に鳥取大学へ赴任しました。キャンパスから車で5分も走れば美しい日本海の海岸にでられます。「この海に入りたい」という思いからサーフィンを始めました。今回,サーフィンについて語ってよいという機会をいただきましたので,心理学徒目線からサーフィンを語ります。

日常

サーフィンとは,沖から岸へと打ち寄せる波にサーフボードという板を使って乗るスポーツです。サーフィンの最適時は早朝。陸から海に向かう陸風は夜にふきますが,この陸風は波の面を整えるのです。陸風が海風にかわるまでの時間帯が重要なのです。そのため,夜明けとともに海に入り,ひとしきり練習したら家に帰って朝食を済ませて出勤,というのが理想的な生活スタイル。これが実現できるのが「海至近物件・鳥取大学」の良さです。ただ,残念なことに一般的なサーフィン・シーズンである夏,日本海にはあまり波は立ちません。日本海のメインは「西高東低」の気圧配置になる冬。サーフィンはウィンタースポーツなのです。冬は日の出が遅いので出勤前はできません。

学習科学の題材として

サーフィンは上達の難しいスポーツとして知られています。反復練習が難しいのです。「バランスをとって斜面を滑る」という点はスキーやスノーボードに近いですが,海にはリフトがありません。時には流れに流されつつ,波が割れるところまで泳いでいくのが一苦労。そして,たとえ先に待っていても,後から来た上級者に波をとられてしまえば,延々と浮いているのみ。それでも稀には波に乗れることも。そのときの感動たるや,他に例えようのないフロー体験です。そんな超低比率の部分強化スケジュールによって,私はやみつきになりました。海外ではセラピーとして利用されることもあるようです。確かに「今,この波」に集中することでストレス解消になっています。

よく,「二度と同じ波は来ない」と言われます。波の向きや周期,風向や潮など,刻々と変化する状況に対し柔軟に対応しなければなりません。多くのパラメータを同時処理して最適な行動をとる……サーフィンは潜在学習課題に他なりません。このテーマで博士論文を書いた私にとってサーフィンは実践研究でもあるのです。

朝練で顔を合わせる先輩方から技術的なアドバイスをもらうことも多いのですが,それを通じて,身体的な動作をどんな言葉に置き換えるか,に興味をもっています。例えば「テイクオフ」という,波から力をもらって立ち上がる基本的な動作に関しても,初心者と中級者では「コツ」が異なる,ということを習いました。身体が動くようになってはじめて理解できるようになる言葉もある,というのが面白いです。上達するにつれて自分からどんな言語表現がでてくるのか,楽しみです。

文化としてのサーフィン

「サーフィンを始めると人生が変わる」と言われます。サーフィンはスポーツという側面だけではなく,文化としての側面もあるのです。愛好者同士のコミュニティもありますし,人間のコントロールをこえた「波」という自然の力を利用した遊びなので,必然的に自然に対する畏敬の念を抱き,そこから独特の自然観や世界観を構築するのでしょう。「まち」と「自然」の境界としての海岸に立てば,幾多の漂着物や海岸浸食などを目の当たりにすることで,おのずと環境問題に対する意識も芽生えます。APA(アメリカ心理学会)は2019年のトレンドとして「気候変動に関する心理学者の貢献」を挙げていますが,私も一心理学徒として気候変動や環境問題に関して問題提起したいです。

さて私は鳥取大学サーフィン部顧問なる肩書きもいただいています。豊かな自然の恵みを享受しつつ,きちんと講義にも出席できる環境は希有です。サーフィンと勉強を両立させたい高校生のみなさま,ぜひ鳥取大学を進学先候補としてご検討ください。

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