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【特集】

【医療領域】臨床と基礎との連携をもとめて

吉田 恵理
大見山クリニック 臨床心理士・公認心理師

吉田 恵理(よしだ えり)

Profile─吉田 恵理
2017年,聖心女子大学大学院文学研究科人間科学専攻博士後期課程修了。大学や短期大学での非常勤講師と,都内小学校での特別支援員を兼任。専門は臨床心理学,認知心理学。研究テーマは「先延ばし」について。

私が心理職という仕事に初めて興味を持ったのは中学生の頃であった。両親が教師という環境で育ち,自身も学ぶことや他者に教えることが好きであったため幼い頃から漠然と教師になりたいと思っていた。しかし,中学校教諭である父の話を家で聞き,学校で起きている様々な出来事について自分達生徒だけではなく先生や周りの大人も色々と考えたり行動したりしてくれていること,それには専門の知識および専門の知識を持つ人のサポートが必要であることを知った。そして「人の教育に関わる仕事は教師だけではない」「人のこころについて専門の知識を持つ人が多くなれば先生も負担が減るのではないか」という考えを持つに至ったのである。

大学進学時は臨床心理学への関心が主であったが,いざ専門課程に進んでみると尊敬する先生との出会いや基礎心理学,特に認知心理学の面白さへの気づきがあり,基礎心理学を臨床心理学にどう活かすかに関心を持った。そのため学部から博士後期課程まで基礎心理学のゼミに所属し,博士前期課程では臨床心理学を学び,現在は臨床心理士として医療機関や教育現場で臨床活動を行っている。主な仕事内容としては,精神科クリニックでの予診面接およびカウンセリング,様々な特性を持つ子どもたちの学習面や学校生活のサポートを日々行っている。

そのような経緯を持つ私は,心理職がついに国家資格として認められると知った時にとても嬉しかった。理由は大きく三つある。一つ目は国家資格化に伴い心理職の存在がより広まり,何を専門にしているか,どのようなサポートを提供できるかが他職種の方々にも認知されればさらに援助の幅が広がると思ったこと。二つ目はそれに伴い心理職の立場が向上すると思ったこと。そして三つ目は,心理学の中で基礎領域と臨床領域が相互に関わり理解が深まる,つまり基礎領域の知見や専門家が臨床領域やその活動において現在よりも重要な意味を持つのではないかと思ったことである。実際に公認心理師試験の受験資格についての発表を目にしたり,試験を受けたりして(些か疑問に思う部分もあるものの)上記の三点については期待を持ち続けている。

特に,基礎領域に明るい資格となることを期待したい。昨今は顕著に基礎研究の成果を臨床領域,ひいては社会に還元することが求められる風潮が強くなっているように思う。実際,基礎領域の学会発表や論文にも「臨床応用」の四文字が目立ち,記憶の研究者はADHDやASD等の発達障害の病態の解明に関心を寄せていたり,情動の研究者は不安障害や摂食障害の治療に活かせる知見を発表していたりと,臨床領域への関心が高まっているように感じる。

一方,現在臨床領域で活躍する心理職が基礎研究に関心を持っているかというとやや異なるように感じられる。人間のこころや行動は非常に複雑であり,統計的手法や客観的測定といった科学的な手続きによって個人の援助を行うことは直接的には困難であるかのように思われる。しかし,「科学的」であることは目に見えないこころを扱う心理学にとって最も重要なことであり,最大の武器であると考える。心理職以外,例えば医師や看護師も心に対する働きかけを行う。しかし,心理職が行う心理療法は,やはり心理学的知識,それも積み重ねられてきた基礎領域の知見を含む知識に支えられていることが大切であると思う。人間のこころに寄り添うために必要なのは,目の前のクライエントと向き合うということだけではなく,科学的な側面を持つ心理学の知識を持ち,それを活かすこと。そして心理学が社会に貢献できることを示すということがますます大切になっていくと感じている。

こころの問題はその背景,深刻度も実に多種多様であり,関わる援助職もまた多種多様である。私も毎日様々な立場のクライエントの様々な問題に耳を傾けており,多職種連携の必要性も痛感している。こうした問題に心理学が貢献する上で,まずは臨床と基礎とが「多職種連携」を行い,公認心理師資格の基盤,ひいては心理学の未来を作っていければと思う。

……この上ない機会なのでもう一つ,心理職の待遇についてもこっそりと主張しておきたい。今後ますます幅広い知識を求められることになるであろう心理職にとって,有料の研修やセミナーで研鑽を積むことは必須である。しかし(若手世代は特に)心理職の生活基盤は安定しているとは言い難い。国家資格化に伴い,待遇改善についても是非期待したい。

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