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【特集】

【産業領域】外部EAP機関における役割

馬ノ段 梨乃
株式会社ヘルスウエイブ

馬ノ段 梨乃(うまのだん りの)

Profile─馬ノ段 梨乃
2011年,東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野博士課程修了。博士(保健学)。同年より現職。産業精神保健,職場のメンタルヘルス,復職支援に従事。京都府立医科大学大学院医学研究科で客員講師を兼任。

労働者の健康管理

職場でいきいきと働くために必要なことは何だろうか?

毎日のニュースをみると,某有名企業での自殺や,パワハラ・セクハラ事例,薬物使用や暴力・痴漢等の犯罪など,「いきいき」からは程遠い話題がたくさん流れてくる。では,このようなマイナスの状態(またはそれらに関連する要因)がなくなれば,職場でいきいきと働くことができるのだろうか?

「仕事のストレス」を含めて職場の不満足に関わるマイナス要素は「衛生要因」と呼ばれ,人事や安全・衛生の現場で使用されてきた。いきいきと働くにはマイナスがなくなればOKというわけではなく,さらに他の要素(達成感や周囲からの承認,等)も必要になる。それらは「動機づけ要因」と呼ばれ,満足感を高める要素として重要とされる。

現在,私は「外部EAP(Employee Assistance Program:従業員援助プログラム)」という企業向けメンタルヘルスサービスを提供する会社に勤務している。「外部」とは,企業との契約のもと,社外窓口として相談できる機能をもつ組織を意味する。基本的には,衛生要因,動機づけ要因のそれぞれに働きかけることで,従業員一人ひとり,さらには組織全体の「いきいき」を目指す。具体的な業務は対面でのカウンセリング,電話/メール相談,会社担当者(産業医や保健師,看護師,人事総務担当者,上司)へのコンサルテーション,メンタルヘルスに関わる教育研修やアンケート調査の実施などで,扱う内容は休職・復職者支援から組織の活性化対策までさまざまである。

組織のメンタルヘルス対策

組織のメンタルヘルス対策については各種指針やガイドラインが公表されている。具体的には,①組織としての方針を明確にしたうえで,②計画に基づく四つのケア(従業員一人ひとりの「セルフケア」/管理監督者による「ラインケア」/事業場内産業保健スタッフによるケア/事業場外資源によるケア)を推進することが重要とされる。また,2015年12月より従業員数50名以上の事業場に対して「心理的な負担の程度を把握するための検査(いわゆるストレスチェック)」の実施が義務づけられた。組織のメンタルヘルス対策を後押しする法的枠組みといえる。産業現場で働く心理職はこれまで「心理相談員」という立場で関わることが多く,法的に明記されたものではなかったが,公認心理師の国家資格化により,医師,保健師,看護師,精神保健福祉士に加えて,公認心理師もストレスチェックの企画→実施→評価等を行う「実施者」として役割を担うことが可能となった。

産業現場で働く心理師の課題

労働契約法第5条には「労働者がその生命,身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をするものとする(安全配慮義務)」という項目が明記されている。会社は社員の不調に早く気づいて適切に対処することが求められる。特に休職や復職に関わる事例は個人の生活(経済的問題や人生設計)に直接関わるため,その判断はとても難しいものになる。たとえば,復職を希望する社員に対して,主治医は「生活するうえで支障となる状態(症状の出現)はないか」という基準で判断するが,会社は「継続的かつ安全に業務を行うことが可能かどうか」という安全配慮義務の観点から判断することになる。生活上の問題が解決したとしても,職場で必要な体力や集中力が十分に回復していない場合もあり,両者の見解は必ずしも一致するものではない。しかし,職場復帰の最終判断は会社が責任を担うため,場合によっては復職したいという本人の希望に添えないケースも見られる。

職場のメンタルヘルスを進めるにあたって関係者間の連携は最も重要なテーマといえる。この点に関して,公認心理師法第42条第2項には「心理に関する支援に係る主治の医師がある場合に,その指示を受ける義務」が規定されている。EAPの立場では本人が職場で十分にパフォーマンスを発揮できるよう支援することが求められるため,会社としての判断も尊重する必要がある。会社と主治医との間で意見が分かれたときにどのように進めていくか,運用面での整備はこれからという段階といえる。

新たな枠組みとして心理師の立場が明確になったことは産業領域で働く専門職にとって一つの変化となるが,その役割は今後も変わりゆくものではないかと考える。

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