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私のワークライフバランス
自分だけではとれないバランス
宇井 美代子(うい みよこ)
Profile─宇井 美代子
2004年,筑波大学大学院博士課程修了。博士(心理学)。筑波大学準研究員,東京福祉大学講師,玉川大学助教を経て,2012年に玉川大学准教授(同年に結婚)。産休(2014年12月),出産(2015年1月)を経て,2016年1月に育休から復職。2019年より現職。専門は社会心理学,ジェンダー。
今号からの新連載です。近年,ワークライフバランスへの関心が社会に浸透してきました。研究者たちもワークに偏ることがしばしばで,また「ライフ」という名の「アンペイドワーク」も存在します。将来の仕事の見通しがない若い時分に,出産・育児に時間を割いたり,家族を経済的に支えるために仕事を選ぶ余地がなかったり,親の介護に追われる研究者たちは,今後ますます増えるでしょう。そこで,ワークライフバランスに努力を続けてこられた研究者の方々に,そのヒントを語っていただきます。
初回は,夫婦とも大学教員として働きながら,子育て真っ最中の宇井美代子先生です。
大学院在籍時に知り合い,現在は私と同じく大学教員をしている夫と結婚し,4歳になった娘が一人います。結婚や娘の誕生は自分のワークライフバランスを見直す大きな転機となりました。
出産をする前までは,要領の悪いこともあり仕事を最優先に考え,私生活は後回しにしていました。私のほうが夫よりも先輩にあたるので,私が早く任期のない常勤の職に就かなくてはという思いもあり,(別の要因もありましたが)夫との結婚は30代後半でした。その結果,というわけでもありませんが,娘を授かったのはさらに遅く,高齢出産となりました。
娘が生まれると,娘の世話に大きく時間がとられ,仕事を優先したいとは言ってられなくなりました。「子どもが生まれたときこそ仕事をして,周りから非難されないようにするものだ」とある先輩研究者から言われたことも圧力となり,仕事の時間をうまくとれないことがストレスにも感じていました。しかし,同時に「もっと子どもと一緒にいればよかった」という先輩ママでもある先輩研究者の声もよく聞きました。私自身も娘がかわいくて仕方ありませんので,「どうせ仕事はできないのだから,娘と一緒にいられる時間は仕事を考えない」ことにし,仕事は原則として娘が保育園に行っている間と寝ている間,と割り切りました。仕事ができる時間が限られますので,夜は娘と一緒に早く寝て,朝早く起きて一仕事をする生活スタイルに変え,いかに効率的に仕事を進められるかを考え,5分や10分の細切れの時間に1行でも2行でも文章を書き……,とするようにしました。仕事に時間を割り振っていた以前よりも効率的に仕事ができている感覚もあり,割り切ったおかげで娘や夫との時間も楽しむことができるようになりました。
もし夫が「家事・育児は妻の仕事」と思うような人であったなら,このような割り切りはできなかったと思います。「なんで私だけが仕事をあきらめなくてはいけないのか」と思っていたかもしれません。しかし,夫は「男でも女でも家事・育児をすることは当然で,『手伝う』という表現はおかしい」と常々言っている人です。結婚当初から料理は基本的に夫が当然のようにしてくれますし,娘の離乳食も楽しんで作っていました。私が仕事や趣味で1日家を空けても娘と楽しく過ごしているようです。このような夫ですので,子どもの誕生後にスキューバダイビングのライセンスを取りに1泊するときも快く送り出してくれ(むしろ勧められ)ました。娘誕生後のほうが私の趣味は広がっています。
さらに,職場の環境も大きいと感じています。当時の学科主任(現・学部長)に「いずれは子どもが欲しい」旨を結婚直後の世間話の際に伝えていたら,その後,私がいつ産休・育休に入ってもよいように,「もし子どもができても,A先生が引き継いでくれるから,いつ産んでも大丈夫だからね!」と安心できる環境を整えてくださいました。また育休に入るときには「1年後の復職を待ってるよ!」,育休からの復職後も,保育園の送迎がしやすいようにと,授業や会議の時間帯にも配慮していただいています。このように育児を応援してくださる環境を整えてくださっているので,安心して仕事や育児に取り組めます。
仕事上ではご迷惑をかけているところも多いと思います。しかし自分の割り切りだけではなく,生活を分かち合う夫の存在と安心できる職場環境により,仕事と私生活とを分けることが,それぞれをさらに充実させ,私にとって「ちょうどよい」ワークライフバランスになっていると感じています。
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