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ベルギー・ドイツの大学で働く

高野 慶輔
ミュンヘン大学心理学部 PD研究員

高野 慶輔(たかの けいすけ)

Profile─高野 慶輔
2012年,東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。日本大学文理学部とルーヴェン大学でPD研究員を経て,2017年より現職。専門は臨床心理学。著書は『計量パーソナリティ心理学(クロスロード・パーソナリティ・シリーズ3)』(分担執筆,ナカニシヤ出版)など。

私は2012年に博士号を取得し,日本大学でポスドクを1年ほど続けた後,ベルギーのルーヴェン大学(KU Leuven)へ移りました。ルーヴェンは,ブリュッセルから電車で15分ほどの距離にある小さな大学都市で,オランダ語を主要言語とします。ルーヴェンで3年半ほど勤務し,その後ドイツのミュンヘン大学(LMU Munich)に移り2年が経ちました。

思い返してみますと,博士号取得後はどこか別の国で働くことをおぼろげに考えていました。ラボの選択の基準として,①非英語圏であること,②独立した研究ができること,③PI(Principal Investigator)が若く比較的近い目線でディスカッションができることを重視しました。特に一点目に関しては,英語を母語としない研究者が高い生産性を維持する秘訣を知りたかったという動機がありました。折しも大学院の先輩がゲントにおられ,ベルギーの様子を伝い知ることができたことも一つの要因だったかもしれません。ルーヴェンで所属したチームは学習心理学と精神病理学を専門としており,固めの学習屋と臨床心理屋が混在するというすこし風変わりな部署でした。チーム全体のテーマは「精神病理と記憶」ということでしたので,マウスで不安の消去をやる人もいれば,急にナラティブを始める人もいるというように,方法論的にはかなり自由な環境でした。私自身はフィリップ・ラース(Filip Raes)教授をメンターとしていましたので,うつと不眠における認知バイアスと自伝的記憶の研究を行いました。幸いにも共同で書いたグラントが当たり,今でもルーヴェンとは学生の指導などを含めて密なやりとりがあります。これらのグラントは自分自身を雇用できないタイプのものだったので,フェローシップの切れ目で結局ドイツのミュンヘン大学に移ることになりました。こちらは打って変わって臨床の色が強いラボです。また大学の仕組みもいわゆる講座制で,トーマス・エーリング(Thomas Ehring)教授をトップとして臨床心理学と心理療法の研究を行っています。同僚の多くはセラピストを兼業とし,臨床・研究・教育を可能な限りバランス良く行うというような体制になっています。私自身は臨床をしない(できない)研究者として,自身のプロジェクトを遂行する他,同僚の研究のサポート(実験デザインの立案,プログラミング,統計モデリング等)と修士向けの授業を担当しています。ドイツ式の教育についてはさっぱりなもので,いつも助けてくれる同僚には感謝しかありません。

日本,ベルギー,ドイツと三つの国でポスドクを経験しましたが,最も印象的な違いは,ベルギー・ドイツでは博士課程の学生は研究・教育を「仕事」とし,何らかの給料を得ている点でした。無給のポスドクや研究生というのも聞いたことがありません。その意味で若手研究者に対するサポートは欧州のほうが手厚い,あるいはそのような機会が多いように感じました。一方で,修士と博士ははっきりと区別されています。自分のプロジェクトを持つのは博士課程からのことが多く,例えば大学院5年のような体制にはなっていません。その分,日本の大学院生はより早熟で専門的な知識を持っているように思います。精神病理学でも特に行動を扱うものに関して言えば,日本と欧州でハードウェア面で技術的な差を感じることはありませんでした。インターネットのおかげで遠隔地でのミーティングも可能ですので,研究はどこにいてもできるのではないかと思います。反面,本当に多様な人材がひしめいていますので,欧州のほうがその分野の先達や同好の士を探すには良いかもしれません。加えて「直接知っている」というのも重要らしく,私自身は日本を出てから色々な研究に誘ってもらえる機会が増えました。月並みですが,そういった意味では日本に閉じこもらないほうがよいのかなあと感じています。

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