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  4. 87号 「あるがまま」の心理学
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古典的実験機器を有効利用するために─関連情報の保存のすすめ

増田 知尋
文教大学人間科学部 准教授

増田 知尋(ますだ ともひろ)

Profile─増田 知尋
2005年,日本大学大学院文学研究科修了。博士(心理学)。立教大学プロジェクト研究員,食品総合研究所特別研究員を経て,2015年より現職。専門は知覚心理学。

草野 勉
文教大学人間科学部 実習支援員

草野 勉(くさの つとむ)

Profile─草野 勉
2010年,首都大学東京大学院人文科学研究科単位取得退学。東京大学,東京海洋大学等の研究員を経て,2019年より現職。神奈川大学人間科学部非常勤助手を兼任。専門は視知覚。

写真1 文教大学で展示されているモイマンの時間知覚器(竹井機器工業製,上部の「腕」は欠品)
写真1 文教大学で展示されているモイマンの時間知覚器(竹井機器工業製,上部の「腕」は欠品)
写真2 実験機器のマニュアル
写真2 実験機器のマニュアル
写真3 手書きの実験機器の操作説明書類
写真3 手書きの実験機器の操作説明書類
写真4 文教大学で展示されているMULTI UNIT SYSTEM(竹井機器工業製)
写真4 文教大学で展示されているMULTI UNIT SYSTEM(竹井機器工業製)

「機器現物だけを保存している」ことの問題点

写真1の装置は,どのように使われていたか,わかりますか? じつは,刺激提示のタイミングを制御するための機械で,「モイマンの時間知覚器」などと呼ばれています(「モイマン」ことErnst Meumann〔1862-1915〕はWundtに学びました)。この装置は,古典的な実験機器の教科書的存在でもある『実験心理写真帖』にも登場する「由緒正しい」もので,カイモグラフ(あるいはモーター)を動力源として上部に放射状に延びている腕が一定速度で回転し,リング型の金具に取りつけられた接点と腕とが触れるタイミングを,接点の位置を調整することで制御するそうです(苧阪,1999)。ちなみに,私は現物を目の当たりにしても,用途はおろか,どこがどう動くのかさえも見当がつきませんでした。このような思いをされる方は決して少なくないようで,授業の一環で学内に展示されている古典機器の用途を推測する課題をおこなった際,Zimmerman製のカイモグラフについて受講生から「……えさバケツ?」という回答があったことは前回紹介した通りです。このように現物が目の前にあっても,正しい用途がわからなければ興味を持ってもらえないかもしれません。そこで私たちは,文教大学で保管している古典機器の動態保存や,動作の様子を映像で記録し現物と並置して展示する試みを計画中です。

ところで,この「使い方がわからない」という問題点,先のような展示の際の問題だけではなく,「現物(あるいはその写真)の保存」の場合にも同様であると考えています。「心理学ミュージアム 歴史館」の「ごあいさつ」にあるように,「学問の進め方や特徴を知る上で機器の変遷を知る」ことが有用であり,保存の意義であるならば,機器そのものに加え,使い方に関する情報をセットで保存することが重要であると思うからです。そのための資料としてまず考えられるのは,書籍や購入時に付属する説明書などです。たとえば私たちは,上述の『実験心理学写真帖』や増田惟茂先生の『実験心理学序説 前編』,TitchenerのExperimental psychology : A manual of laboratory practiceなどを参照しながら機器の動作や使用方法を検証しています。これらの書籍類に加え,私たちが機器を分析する際には,それらと同時に持ち込んだ操作マニュアル類を参考にしています。なかには,メーカーが出しているものだけではなく,実験実習で実際に使われる際の手順書や手書きのノートの類もあり,機器がどのように研究教育活動に使われてきたかを教えてくれます(写真2,写真3)。なお,これらの資料のなかには,印刷のインクが退色してしまっているものも多いので,これらをデジタルアーカイブ化しておくことは喫緊の課題であると考えています。デジタル化することで,既存の歴史館のデータとの対応づけが可能になるというメリットもあります。

忘れがちな「まだ使い方を熟知している」機器の関連情報の保存

上述の紙媒体の関連資料の保存と並んで,私たちが重要だと考えているのは「機器の使用法を熟知している方からの聞き取り」,すなわちオーラルヒストリーや実演の記録です。これが特に重要になるのは,コレクションの際に漏れてしまいがちな「少しだけ古い機器」の場合です。今は「知っている人がいて当たり前」でも,そのうちだれも使い方がわからなくなってしまう。そのとき,実験心理学草創期の『写真帖』のように,機器の使用方法を詳しく述べている本があればいいのですが,現在はそのような本はあまり見かけないように思います。たとえば,写真4の装置をどのように組み立てて使うかは,ある年代以上の方にとっては常識でも,使ったことのない世代にとっては見当もつきません。ちなみに,こちらは瞬間露出器(タキストスコープ)の制御などに使われていたもので,現在はほとんどの場合でPCがその役割を担っているものです。これらの「少しだけ古い機器の『使い方』」の聞き取りや実演の様子を映像化し機器とともに閲覧可能にすることは,その時代に心理学研究をされてきた先人達の時代精神に触れることを通じて,学問の進め方に思いをはせる機会を提供することにつながると考えています。

文 献

苧阪直行(1999)『実験心理写真帖』にみる明治期の心理学実験と古典実験機器『心理学評論』42, 368-412.

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