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私のワークライフバランス

子育てに追われて

綿村 英一郎
大阪大学大学院人間科学研究科 准教授

綿村 英一郎(わたむら えいいちろう)

Profile─綿村 英一郎
東京大学大学院人文社会系研究科助教,日本学術振興会特別研究員を経て現職。専門は法心理学,社会心理学,認知心理学。著書は『感じる』(共編,大阪大学出版会),『自ら実感する心理学』(分担執筆,保育出版社),『法と心理学』(分担執筆,法律文化社)など。

「仕事も生活もあきらめない」を応援する連載の第2回目は,フルタイムのパートナーや息子さんの年齢などに応じて,柔軟にバランスを取られてきた,ワンオペ育児経験者の綿村英一郎先生です。

私の家族は,製薬関係の会社にフルタイムで働く2歳年上の妻,今年9月に12歳になった息子,私の3人です。2017年4月から単身赴任を始めるまで,子育ては主に私の担当で,妻が仕事で忙殺されていた一時期は「ワンオペ」になることもありました。表1は,息子が乳児園に入ったときから現在までの私のキャリア,平日の(夜間含む)活動時間の配分(子育て(1):仕事(2)),心配や考えごとといった心理的リソースの配分を示しています(波はありますが,ざっくり均しました)。

表1 時間と心理的リソースの配分(子育て:仕事)
表1 時間と心理的リソースの配分(子育て:仕事)

①から③まで時間配分があまり変化しないのは,息子を預けて仕事する時間がずっと確保できていたからです。この間に途切れず預けることができたのは実に幸運でした。一方で,心理的リソースの配分は仕事にシフトしていきます。①のときは,研究の行き詰まり感などよりも「早く迎えに行きたい」という思いのほうがいつも勝っており,子育てへの配分過多になっていました。その偏りは保育園の卒園まで続きました。これには先述のワンオペなる状況が喫緊であったという事情が関わっています。②の時期の妻は,朝4時半の始発で出張し午前1時過ぎに帰宅といった日が週に何度もあったので,子育て(と家事)を一人でやるしかない私にとっては,息子の予定が前提での研究活動となり,迎えの時間が来ればその日の研究は実質的に終了でした。③の時期は学童クラブがネックでした。息子1人で通え,かつ私の職場から1時間以内で迎えに行ける学童という括りで探すと一つしかなく,しかも1年ごとの抽選でした。この学童に3年続けて通わせられたのは幸運でしたが,小学校から学童へは地下鉄を乗り継ぎ,駅から10分歩きます。ランドセルと学童用の手提げを持っての移動は時間がかかります。天気が悪い日は,学童からよく「まだ着いていない」と連絡がありました。遅すぎて探しに行かねばならないときもありました(このときは電車の遅延でした)(3)。この時期は学童や夏休みの対応によく困り,時間こそ仕事の配分が多くても,心理的リソースの配分がコントロールできないまま乗り切った3年間でした。

このまま「運が大事で,あとは気合い」という話で終わってしまうと味気ないので,私が大切にしていた時間についてもふれておきます。②の時期,入園当初は自転車で送迎していましたが,まもなく徒歩に切り替えました。緑豊かな霊園を30分,自然を観察しながら毎日一緒に歩いたあの時間は,息子の成長をふりかえったとき真っ先に思い浮かぶ貴重な記憶になりました。学童からの帰りも(荷物は私が持って)歩きました。バッファがないため,家では息子を急かしてしまいがちでしたが,ゆっくり歩きながら話を聞く時間を大切にすることでいくらか罪滅ぼしになった気がしました。

単身赴任の現在,息子が高学年になったこともあり,子育てに時間をかける機会も必要もなくなりました。しかし,今でも心理的リソースは3を切っていないように思います。息子の話を聞いてあれこれ考えてしまう,あの時のクセがまだ残っているようです。

1 ここでの子育ては,送り迎えや翌日の準備などに限らず,食事や風呂など生活一般でやっているような子育ても含んでいます。

2 大学院生・研究員の時期は研究活動。

3 携帯電話をもたせられればいくぶんよかったでしょうが,小学校が認めてくれませんでした。

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