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Over Seas

ポーツマスでの生活あれこれ

岸本 健
聖心女子大学現代教養学部心理学科 准教授

岸本 健(きしもと たけし)

Profile─岸本 健
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了。日本学術振興会特別研究員PD,聖心女子大学文学部心理学科専任講師を経て現職。専門は発達心理学,比較行動学。著書は『社会的認知の発達科学(発達科学ハンドブック9)』(分担執筆,新曜社),『他者とかかわる心の発達心理学』(分担執筆,金子書房)など。

聖心女子大学の研修年制度,および在外研究制度を利用し,私は2017年4月より1年間,イギリスの南部の都市ポーツマスにあるUniversity of Portsmouthに訪問研究員として滞在しました。ここでは,家族とともに暮らしたポーツマスでの生活の「あれはやっておいてよかった」「これは困った」について記します。

渡英したのち,実際に生活を始めるにあたって,四つの難題を解決せねばなりませんでした。まず,「家」について。そもそも家がなければ生活ができません。我々の場合,子どもが3月末で小学校を転校する手続きをしており,4月以降に日本にいることが難しかったので,渡英前に家を見つけ,渡航後すぐに生活を始めなければなりませんでした。

イギリスの物件探しを日本で行う方法の一つとして,Rightmove(https://www.rightmove.co.uk/)などのサイトを利用する手があります。このサイトは,住みたいエリアの中の物件情報(家賃や家具の有無など)と,その物件を管理している不動産屋を検索でき,大変便利です。ただ,時差の問題もあり,不動産屋とのメールのやりとりはあまりスムーズに進まず,最終的には,渡英直前にポーツマス大学に間に入ってもらうことで,契約する直前の段階にまで漕ぎつけることができましたが,とても肝を冷やしました。

次に「銀行口座」について。いざ物件について契約するとなると必要なのが,家賃を引き落とすための銀行口座です。イギリスの主要銀行(HSBCやバークレイズなど)に口座がないと物件の契約ができなかったのですが,我々の場合,「銀行口座を開設するためには住所が必要」と銀行側に告げられました。住所を得るために口座を開設せねばならないのに,口座を開設するために住所が必要,という見事な堂々巡りとなり非常に難儀しましたが,必死の説明の末,不動産屋が銀行口座開設の前に住所を出すという英断を下してくれたおかげで,銀行口座を開設でき,家を借りることもできました。

三つ目に「子どもの小学校」について。住居が決まると,そこから通える範囲にある小学校に,子ども達を入学させることを考えました。子どもを小学校に入学させるためには,必要書類とともに,希望する小学校名を書いて市役所に提出せねばなりません。ただ,イギリスでは9月が年度のはじまりです。4月にイギリスの小学校に入学するのは,日本でいえば3学期に転入するようなもので,入学可能な人数の枠に空きがないということが生じます。我々の場合,きょうだいのうちの一人は,異なる小学校へ通わねばなりませんでした。

希望する小学校へ子ども全員を通わせられないことは,親である我々にとっては負担でした。しかし,これを機に成長した子のたくましい姿を見られたことで,この負担はある程度ペイされたと思います。

さいごに「病院」について。「イギリスの病院はあまり診察をしてくれない」といった情報は事前に耳に入っていましたが,我々の場合は,しっかりと診察をしてくれる病院を近所に見つけることができました。実を言うと,この病院は,幸運にも現地で巡り合えた日本人の方に教えてもらったのでした。家族で公園で遊んでいたところ,その方に声をかけていただけたのが出会いのきっかけでした。外国で日本人に出会うためには,人の大勢いるところで日本語で会話するとよいと教わりましたが,まさにそのアドバイスが奏功したのでした。

ここまでを改めて読み返してみると,運で乗り切った部分も多かったと感じます。様々な課題に対して完璧に対応することは現実的ではありません。家族でイギリスに渡航した我々は,そういった状況下で助け合う中で,家族の結びつきを強くできました。家族のメンバーに限らず,行政サービスや友人など,他者を積極的に頼ることが,外国での暮らしをうまく進める上で重要だと思います。

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