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ここでも活きてる心理学
児童の自立のための最善の支援を求めて
奥村 清美(おくむら きよみ)
Profile─奥村 清美
2004年,名古屋大学大学院環境学研究科社会環境学専攻心理学講座博士前期課程修了。同年,愛知県庁入庁。児童相談所児童心理司,児童福祉司等を経て,2019年4月より現職。
私は現在,県立の児童自立支援施設にて心理療法担当職員として働いています。
児童自立支援施設とは
「児童自立支援施設」は,「不良行為をなし,又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ,(…中略…)個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い,その自立を支援」する,児童福祉法に規定された児童福祉施設です。現在,全国に58カ所設置されています。
児童は,児童相談所の措置や家庭裁判所の審判により入所します。原則,18歳未満の児童を対象としていますが,私が勤務している施設には,だいたい小学校高学年から中学生くらいまでの児童が入所しています。以前は,非行少年が大多数を占めていましたが,現在は,障害を抱えた児童や家庭で虐待を受けた児童など,非行だけでなく様々な背景を持つ児童が入所しています。
施設における心理職員の仕事
施設における心理職員の主な仕事は,児童のアセスメント,児童に対する心理療法,児童等への生活場面面接,職員への助言及び指導,ケース会議への出席等です。
入所前には児童相談所または家庭裁判所による調査が行われていますが,児童の入所後に改めてアセスメントを行い,児童相談所や学校等の関係機関,保護者,児童等の意見も踏まえ,どのように児童を支援していくのかという自立支援計画を策定します。そして個々の児童の課題に応じ,自立支援専門員や児童指導員,医師,関係機関等と連携し,児童の自立に向け最適な支援を行うことを目指しています。
複数の視点で児童の支援を
施設によって心理職員の動き方は様々だと思いますが,私は,普段は主に,児童が生活する寮とは別の棟にある心理療法室で児童の面接や心理療法を行っています。ただ,面接や心理療法の時だけではなく,寮や学校に行って直接児童の様子を見たり,時には児童と一緒に行事などに参加したりして児童と接することを心がけています。そのため,日々,児童に直接指導を行う職員よりは児童と距離が離れたところにいる一方,児童相談所や医療機関などの職員よりは身近なところにいるという,児童から(あるいは職員からも)その位置を測りかねられているような,物理的にも心理的にも微妙な位置にいるように思います。ただ,その微妙な位置だからこそ,施設の児童と職員を含めた集団の中からの視点と,一歩離れたところから児童やその集団を俯瞰する視点の両方を持つことができると感じています。
また,児童は,施設での生活で,児童同士あるいは職員と刺激を与え,受けながら,目まぐるしく変化していきます。そんな中で,児童の背景となっている過去,そしてそこから続く未来という長期的な視点と,今日,今,この児童に何が起きているかという変化を逃さない視点を同時に持ち続けることも,特に意識していることです。
変化を成長と信じつつ「今,この子に何が起きているのだろう,何が必要なのだろう」と複数の視点を行き来して模索し,様々な職域の人とともに今やれる最善の方法で児童を支援できる─そんな面白さを感じながら,今後も児童とともに成長していきたいです。
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