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心理学ミュージアム歴史館が「所蔵」する古典的機器類の実体展示に向けて

藤 健一
立命館大学文学部 特別任用教授

藤 健一(ふじ けんいち)

Profile─藤 健一
立命館大学文学部助手,助教授を経て教授,2015年4月,立命館大学名誉教授。専門は実験心理学・実験的行動分析学・心理学実験装置史。著訳書は『パピーニの比較心理学:行動の進化と発達』(分担訳,北大路書房)など。

図「心理学ミュージアム」の歴史館古典的機器を,仮に実体として収納あるいは展示するとした場合,考えられる実体としての収蔵庫と展示室のひとつのプラン
図「心理学ミュージアム」の歴史館古典的機器を,仮に実体として収納あるいは展示するとした場合,考えられる実体としての収蔵庫と展示室のひとつのプラン(図の上の画像の出典は,日本心理学会ホームページ https://psychmuseum.jp/device_top/

日本心理学会の仮想博物館「心理学ミュージアム歴史館古典的機器」は,国内各大学に保管されている古典的機器類405件をディジタルデータの型式で「所蔵」しています。現在の内訳は,関西学院大学38件,京都大学59件,立命館大学53件,東京大学23件,東北大学88件,新潟大学83件,そして金沢大学が61件です。このデータ収集作業が進むにつれて,日本の心理学においてもいつかはディジタルデータだけではなく,拠点化した「機器そのもの」の収蔵・保管が必要ではないか,という声が上がるようになりました。しかし,常に問題となったのは,収納保管スペースを確保できるか否かでした。このような課題を検討するのであれば,収納に必要な面積のデータが欠かせないはずです。しかしながら,今までそれが試算されたことはありませんでした。

そこで,本稿では以下のような試算をしてみました。つまり,①仮想博物館「心理学ミュージアム」がディジタルデータとして「所蔵」しているこれらの「歴史館の古典的機器」が,仮に実体として「心理学ミュージアム」に収蔵されるとしたならば,いったいどのくらいの広さの実体としての収蔵庫(物置)が必要か,②さらに「心理学ミュージアム」のディジタルデータの古典的機器を実体展示するとしたならば,どのような展示室が考えられるか,このふたつについて架空のアイデアを図に示してみました。

仮想博物館「心理学ミュージアム歴史館古典的機器」を収蔵庫として実体化したプラン

[試算の前提条件]①収蔵品は,「心理学ミュージアム歴史館古典的機器」の収蔵件数405件(2019年10月現在)とする。②収蔵庫は,中量スチールラック(5段)に並べて収納する。③機器1件についての収蔵スペースは,大まかに考えて1台が40cm幅に収まるものとする。④中量スチールラックは棚板5枚(5段)で幅1250mmとして,作業のしやすさを考慮して棚板5段のうち3段を利用する。

[試算]①収蔵品を1列に並べたときの総延長 405×40cm=16200cm=162mとなる。②1台のラックの3段を使うので,162m÷3段=54mとなる。③必要なスチールラック数は,54m÷1.25m≒43台となる。④スチールラック7台を1列として,2列を向かい合わせに組んで1群として計3群配置にまとめる。これを,図の左下に示してみました。おおよそ10m×16mの広さの部屋があれば,壁まわりに作業台や整理棚を配置することもできます。仮に「心理学ミュージアム」にあるディジタルデータの機器類を全て実体物として保管したなら,この程度のスペースがあればよい,ということです。一応,この収蔵庫の収蔵能力余裕として,あと200件ほど収蔵品が増えても,対応できるように設計してあります(収蔵量の安全率1.50)。200件というと,上述の東北大学と新潟大学規模の件数の装置類を追加しても,そのまま棚に収納できるということです。

仮想博物館「心理学ミュージアム歴史館古典的機器」を展示室として実体化したプラン

[試算の前提条件]①展示品は,収蔵品(405件)のうちの1/3として,定期的に入れ替えるものとする。②展示品は,平型展示ケース(1段 幅1250mm)を使用して,見やすい展示を心がける。一部に,3段縦型展示ケースを用いる。③展示室スペースは,機器のデモンストレーションや説明ガイドなどのための空間的余裕を考慮する。④収蔵庫は別室とする。これを,図の右下に示してみました。

[試算]①展示品を1列に並べたときの総延長 135×40cm=5400cm=54mとなる。②1台の平型展示ケースに3件展示できるものとする。③135÷3=45台となるので,1段展示の平型展示ケースを32台,3段展示の縦型展示ケースを4台とすると,展示件数は平型で32×3=96件,縦型で4×3×3=36件となり,計135件となります。展示室でのケースの配置間隔は,見学者の移動スペースを確保するため,2mと広めにとってあります。展示室の広さは,10m×16mとなりました。

ロンドン科学博物館(https://www.sciencemuseum.org.uk)のような博物館は,科学と工学における多様な領域の織りなす歴史的関係を,「もの」を見学者に提示することによって,その理解を深めようとしています。心理学の博物館を設置するとしたなら,心理学の歴史(古典的機器もその中に含まれます)は重要な展示の一画を占めることになり,そこでも「実体としての機器」が重要な役割を果たすことになるでしょう。日本心理学会は2027年に創立100周年を迎えます。実体としての「心理学博物館」を構想するよい機会ではないでしょうか。

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