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私のワークライフバランス
外部支援の活用が安心と仕事の要
伊東 昌子(いとう まさこ)
Profile─伊東 昌子
1985年,慶応義塾大学社会学研究科心理学専攻博士課程単位取得退学。企業でのビ
ジネス開発の傍ら,2001年に広島大学教育学研究科学習開発専攻博士課程に入学し,
2003年に博士(教育学)取得。同年,常磐大学人間科学部に移籍。2019年,同大学を
定年退職して現職。専門は認知心理学,職場学習論(人材開発,熟達),人間中心設計。
「仕事も生活もあきらめない」研究者を応援する連載の第3回は,介護・医療・家事などのサービスを上手に使いこなし,想定外の連続である認知症のお母様の介護を乗り切られた,伊東昌子先生です。
私は2019年3月末で所属大学を定年退職しました。定年まで仕事を続けることができたのは一種の奇跡だと思います。先に,女性教授2名が,ご両親の介護のために同時期に早期退職されました。教授職の女性同僚と会うと,いつも介護の話になりました。
一人で介護をする綱渡りの毎日と先の見通せない不安と突発的出来事の中,特急を使って往復6時間を要する通勤時間,企業との共同研究の推進,仲間と立ち上げた領域の国内標準化委員,専門書や学術論文の執筆などを16年間続けました。それは,一重に,外部支援機関をフルに活用し,周囲の方々に助けて頂いたお陰です。
区の介護サービス,訪問医療サービス,家政婦サービス,管理人常駐マンション,認知症対応グループホーム,何よりも個人で調整可能な時間が信じ難い程ある大学教員職でした。企業人であれば,到底無理だったでしょう。
親が認知症に加えて重病になると,家族が日々判断すべきことが増えます。このとき,訪問診療の先生にいつでも連絡できる,老人ホームの方が病院まで付き添って下さる,外部徘徊の危険は考えなくてよい等々,安心材料を揃えることが,ライフそのものであるワークで責任を果たす必須要件です。というのも,介護する年代は,女性も男性も重責を担う地位にあるからです。特に自分の親でない場合,男女共同参画は現実的ではないと,経験上は,思います。
体が動く認知症の親の行動は想定外の連続です。外部機関に相談し,判断し,手を打つことで,責任あるワークを続ける生き方が守れます。また,親と少し距離を置いて笑顔で対応できました。でも仕事は3倍速複数同時並行で,締切りを1ヵ月前倒し計画で進めて間にあわせていました。バランスを考えるより先に,自分の道と役割を見据えて進むのみです。
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