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ここでも活きてる心理学

少年鑑別所で働く法務教官

法務省東京西少年鑑別所 法務教官

島津啓輔(しまづ けいすけ)

Profile─島津啓輔
2012年,帝京大学文学部心理学科卒業。同年4月に法務省八王子少年鑑別所法務教官として拝命。2019年より現職。専門は非行・犯罪,矯正心理学,矯正教育。

少年との運動場面(イメージ)
少年との運動場面(イメージ)

皆さんは少年鑑別所をご存じでしょうか。普段生活をしていても,なかなか耳慣れない,イメージの湧かない場所だと思います。私自身も勤める前はそうでした。少年鑑別所は,非行をした少年たちを家庭裁判所の求めに応じて収容し,鑑別を行うところです。鑑別とは,医学,心理学,教育学,社会学などの専門的知識及び技術に基づいて,少年の非行に影響を及ぼした資質や環境上問題となる事情を明らかにした上で,それらの改善に寄与するための処遇に対して適切な指針を示すためのアセスメントを言います。

少年鑑別所で働く職員は国家公務員である法務技官(心理)や法務教官のほか,医師や看護師等がおり,私自身は法務教官として日々少年と接しています。少年の身柄を預かり,適切な働きかけや鑑別を行うためには各部署での連携が不可欠です。少年たちは,規則正しく健康的な生活を送っていく中で,自分がどうして非行をしてしまったのかを振り返り,今後の生活のやり直しを考えていくこととなります。

ところで,非行や犯罪と聞くと,なんだか怖いもので,自分とは関係のない遠い世界の出来事のように感じてしまうかもしれません。では,非行や犯罪をしてしまう人というのは,問題を抱えている一部の特殊な人なのでしょうか。それは,必ずしもそうではないと思います。人は誰しも心に弱さや甘えを抱えています。一線を越えないように日々生活をしていますが,ある瞬間,それを越えてしまい後悔することがあります。「これくらいならいいだろう。」,「まさかこんなことになるなんて。」といった具合に。誰しもが持つ気持ちの弱さや甘えの延長線上に非行や犯罪がある。そう考えると,非行や犯罪というのは誰にでも起こりうる,意外と身近なものなのかもしれません。

犯罪被害に遭われた方やその関係者の憤りや悲しみに対するケアを行うべきはもちろんですが,私たちの仕事は,再犯を繰り返さないためにはどうしたら良いのかを少年と一緒に考えていくことで,少年自身の生活を立て直し,次の被害者が生まれないように手助けをする仕事です。少年鑑別所で生活していく中で,自身の行為が与えた影響やそれに対する責任の重さ,失って初めてわかる「当たり前」の大切さ,自分を見捨てず支えてくれる保護者の存在等に気づいた少年たちは変わる決意をし,少しずつではあるけれど変わっていくように感じます。

少年鑑別所の法務教官は少年の手本となり,身の周りの世話をしながら,少年の言動を観察し,記録するとともにその心情の把握・安定に努めます。少年の気持ちに寄り添いながら生活上の助言や指導を行っていく一方で,身柄を収容する施設であるため,規律秩序の維持という観点を忘れることもできません。これらを両立させることに難しさがあります。ときにはぶつかり,激しく反発されることもありますが,なすべきことを淡々とやっていくことも大切です。また,行政機関の一員として,関係法令の理解や事務処理能力が求められるほか,運動指導や当直等があるため,体力も必要です。

現在,上記業務のほか地域の一般の方々に対する非行・犯罪の防止に関する相談・援助(地域援助)も活発になってきています。その対象は成人も含んでおり,様々な個別ケースに対応するための必要な知識や技術の習得も求められています。

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