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巻頭言

未知との遭遇,その連続─回顧と現在

東京大学 名誉教授
古畑和孝(ふるはた かずたか)

心理学を志して70年。私は伝統ある心理学科ではなく,戦後創設されたばかりの教育心理学科を目指した。ところが,心理学科では「教育」の人,教育学部では「心理」の人と言われた。最初の演習のひとつ「双生児研究」に夢中になった。いきなり「遺伝と環境」という根本問題と格闘。その初志は,形こそ変われ,結局現在にまで続いている。

大学院では,宮城音弥講師が励まされた。「メダマ(視知覚の実験心理学)とネズミ(動物行動の学習心理学)は今盛んだが,人間の心理学を目指そう」と。密かに共感したが,力不足と本格的研学の要も痛感。1960年,フルブライト・プログラムとイリノイ大学フェローシップにより,米国留学が実現。生涯で最も研学に専心できた4年間となった。

指導教授ランケル先生の強い推輓により,社会心理学の第一人者ニューカム先生の未公刊の大著『社会心理学:人間の相互作用の研究』の翻訳を託された時には,社会心理学への志はいっそう顕著になっていた。

1964年帰国と同時に,国際基督教大学(ICU)の教員となった。その間,1972年の国際心理学会議(ICP)での「斉合性」(Consistency)に関するシンポジウムへの出演は特に忘れ難い。座長ジンバルドー教授との間での信頼関係は,後に『現代心理学』や『心理学への招待』(DVD 1〜26巻)の監訳にもつながった。指定討論者ジャニス教授による「社会心理学と児童心理学にまたがる貢献」との評は,過分にせよ,まさに自分の志したことだった。

東京大学に全国で初の社会心理学独立専修課程が設立され,1977年に赴任し,非力ながらも全力を傾注した。社会学と心理学は交わらないとの評を,如何にして克服するかにも腐心した。社会学出身の辻村明教授の統括の下,いくつもの大きな共同研究が実現する結果となった。また,幾多の優秀な社会心理学者を輩出できたことも感謝である。

東大退官後,帝京大学での16年間には,道徳性発達や価値観形成の共同研究なども推進。熱心かつ優秀な共同研究者に恵まれた故でもあったろう。退職後,進行癌が発覚したが,その回復後,ネット上で公開日記をものし,未面識の人たちと交信しつつある。超高齢社会に伴い,介護・支援を要する人たちとは,デイサービスでの交流もしつつある。デジタルネイティブの子どもをいかに育てるかも極めて大切だ。

今や新型コロナウイルスの禍は,未知との遭遇の最たるものだが,心理学の出番もあるはずだ。若手研究者の活躍が待望されるや大である。

古畑和孝

Profile─古畑和孝
1931年,金沢市生まれ。1954年,東京大学教育学部教育心理学科卒業。同大学院修士課程,博士課程,助手を経て,米国イリノイ大学大学院留学。1964年同博士課程修了(Ph.D.)。国際基督教大学,東京大学文学部,帝京大学文学部教授を歴任。専門は社会心理学,教育社会心理学,発達社会心理学。著訳書は『よりよい学級をめざして』(学芸図書),『好きと嫌いの人間関係:魅力と愛の心理学』(有斐閣),『人間性を育てる教育』(慶応義塾大学出版会),ニューカム他『社会心理学:人間の相互作用の研究』(訳,岩波書店)など多数。

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