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【小特集】

ネットとゲームへの依存が脳に及ぼす影響

松﨑 泰
東北大学加齢医学研究所 助教

松﨑 泰(まつざき ゆたか)

Profile─松﨑 泰
東北大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。2017年より現職。専門は発達障害学・発達心理学。著書は『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(共著,青春出版社)など。

川島隆太
東北大学加齢医学研究所 教授 所長

川島 隆太(かわしま りゅうた)

Profile─川島 隆太
東北大学大学院医学系研究科修了。医師。医学博士。カロリンスカ研究所客員研究員,東北大学助手,講師を経て現職。専門は脳イメージング。著書は『スマホが学力を破壊する』(集英社)など。

スマートフォンやタブレットといった多機能端末が普及したことで,ゲームを楽しむ,ソーシャル・ネットワーキング・サービスで他者と交流するといった多様なサービスにアクセスすることが容易になっている。しかし,インターネットやゲームに対して依存的な症状を呈する者も存在する。近年ではDSM–5「今後の研究のための病態」にインターネットゲーム障害(Internet gaming disorder以下IGD;A. P. A., 2013)が,そしてICD–11にはゲーム障害(WHO, 2018)が記載され研究が進んでいる領域である。

インターネットやゲームへの依存と脳

依存のキーとなる要素は「統制の喪失」,つまり悪い結果に至ることを理解していても使用を制御することが困難である,という状態である(Brand, Young, & Laier, 2014)。こうした問題となる使い方をすることと,使用時間が長くなることは重なり合うものの区別する方がよい。例えば,eスポーツの選手は多くの時間を競技たるゲームに費やすが,彼/彼女らが日常生活に支障を来しているとは限らない(詳述はしないが,IGD者とプロゲーマーの比較研究はすでに報告がある)。

インターネットやゲームへの依存に関する背景として想定されるのは,報酬系と呼ばれるドーパミン作動性の領域,すなわち腹側被蓋野や黒質から視床,線条体,眼窩前頭皮質領域に向かって広がる,快の生起とその学習,そして行動の調整を担う領域の異常である。例えばYao et al.(2017)はIGD者の脳の構造/機能画像研究についてメタ分析を行い,その双方の結果から,線条体,背外側前頭前野そして前帯状皮質に機能面・構造面で統制群との差がみられると報告している(機能面では活動亢進,構造面では灰白質量減少)。線条体については先述の通り報酬に関わり反応する領域である。前帯状皮質と背外側前頭皮質は行動の抑制に関わる領域である。この領域の差異は,行動の制御に関する代償的活動を反映したものと推測されている。

子どもの脳発達とインターネット・ゲームとの関係

我々のグループでは小児の生活習慣や脳画像データの縦断研究を行っており,ゲームやインターネットの頻度や時間といった指標と小児の脳構造の発達的変化との関連を報告してきた。頻度や時間であるため,直接的に依存様の状態と脳構造との関連を検討しているわけではない。それにもかかわらず,インターネットやゲームの使用が長期的に脳の報酬系の構造に影響することが示されている。加えてインターネットやゲームの使用は,言語等多様な認知機能を支える広範な脳の構造に悪影響を及ぼしていた。

インターネット使用頻度の子どもの脳構造(灰白質/白質量)への長期影響を報告したTakeuchi et al.(2018)では,1時点目のインターネットの使用頻度の高さが3年後の脳の灰白質量減少に影響することを示した。有意な影響がみられたのはシルビウス溝近傍,両側側頭頂・小脳,線条体を含む大脳基底核領域,島,眼窩前頭皮質,背外側前頭皮質,左舌状回等であり,詳述はしないが白質量においても広範囲でインターネット使用頻度の高さが容量低下に影響していた。インターネットの使用頻度の高さは言語性の知能指数にも負の影響を及ぼしており,上述の領域は言語性知能指数の減少と関係のある領域と大部分で重なり合っていた。

ゲームとの関係では,ゲームをする時間が増加することで横断的にも縦断的にも線条体付近や言語関連領域(左弓状束など)等で白質内の組織がまばらになる(水分子の拡散性が上昇する)ことが示されている(図1;Takeuchi et al., 2016)。依存様の状態ではなく,使用頻度や時間といった指標であっても,インターネットやゲームにふれる時間が増えるほど報酬や認知機能に関わる広範な領域の脳構造に悪影響を与えるといえる。

図1 ゲーム時間の長さと白質内の水の拡散性の増加に関係があった領域
図1 ゲーム時間の長さと白質内の水の拡散性の増加に関係があった領域 (Takeuchi et al., 2016)

上記のインターネットやゲーム習慣が脳構造に与える影響については先述のIGD者で統制群と差異がみられた領域の脳領域と重なることがわかる。認知機能低下への影響に関しては,インターネットやゲームに費やす時間が増えることで,他の習慣に用いる時間が圧迫されることが関与している可能性がある。例えばスマートフォンの使用が様々な活動によく作用する睡眠のための時間に置き換わることは広く示されているが(e.g. Lemola et al., 2015),そうした影響により日々の学習や生活の質が低下することで,認知機能や脳構造に間接的に影響が生じていた可能性がある。

おわりに

非常に難しいのがスマートフォン等の多機能端末そのものに悪があるとは言い切れないことである。スマートフォンを利用した健康増進のための取り組みは相当数なされ,一定の効果が報告されているようである(e.g. Firth et al., 2017)。多機能端末は使い方次第である,といってしまえばそれまでであるが,インターネットやゲームを無計画に楽しむことが,脳や認知機能によく作用しないことは明確である。

文献

  • A. P. A. (2013). Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Fifth Edition. Arlington: American Psychiatric Publishing.
  • Brand, M., Young, K. S., & Laier, C. (2014). Prefrontal control and Internet addiction: A theoretical model and review of neuropsychological and neuroimaging findings. Frontiers in Human Neuroscience, 8, 1–13.
  • Firth, J., Torous, J., Nicholas, J., Carney, R., Rosenbaum, S., & Sarris, J. (2017). Can smartphone mental health interventions reduce symptoms of anxiety? A meta–analysis of randomized controlled trials. Journal of Affective Disorders, 218, 15–22.
  • WHO (2018). ICD–11 for Mortality and Mobidity Statistics. https://icd.who.int/browse11/l–m/en#/http://id.who.int/icd/entity/1448597234
  • Lemola, S., Perkinson–Goor, N., Brand, S., Dewald–Kaufmann, J. F., & Grob, A. (2015). Adolescents’ electoronic media use at night, sleep disturbance, and depressive symptoms, in the smartphone age. Journal of Youth and Adolescence. 44(2), 405–418.
  • Takeuchi, H., Taki, Y., Hashizume, H., Asano, K., Asano, M., Sassa, Y., Yokota, S., Kotozaki, Y., Nouchi, R., & Kawashima, R. (2016). Impact of videogame play on the brain’s microstructural properties: Cross–sectional and longitudinal analyses. Molecular Psychiatry, 21(12), 1781–1789.
  • Takeuchi, H., Taki, Y., Asano, K., Asano, M., Sassa, Y., Yokota, S., Kotozaki, Y., Nouchi, R., & Kawashima, R. (2018). Impact of frequency of internet use on development of brain structures and verbal intelligence: Longitudinal analyses. Human Brain Mapping, 39(11), 4471–4479.
  • Yao, Y. W., Liu, L., Ma, S. S., Shi, X. H., Zhou, N., Zhang, J. T., & Potenza, M. N. (2017). Functional and structural neural alterations in Internet gaming disorder: A systematic review and meta–analysis. Neuroscience and Biobehavioral Reviews, 83, 313–324.

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