公益社団法人 日本心理学会

詳細検索

心理学ワールド 絞込み


号 ~

執筆・投稿の手びき 絞込み

MENU

刊行物

  1. HOME
  2. 刊行物のご案内
  3. 心理学ワールド
  4. 91号 「思いやり」の発達科学
  5. 子どものインターネットとゲームへの依存,睡眠習慣そして学校不適応

【小特集】

子どものインターネットとゲームへの依存,睡眠習慣そして学校不適応

神村 栄一
新潟大学人文社会科学系 教授

神村 栄一(かみむら えいいち)

Profile─神村 栄一
筑波大学大学院博士課程満期修了。博士(心理学)。2012年より現職。臨床心理士・公認心理師・専門行動療法士。専門は臨床心理学・教育相談。著書は『不登校・ひきこもりのための行動活性化』(金剛出版)など。

不登校支援の変遷

不登校の長期化を防ぐためには,「学校がある日の学校がある時間,家庭はとても退屈」を維持するのが望ましいと多くの保護者に提案してきた。

平成の前半頃までは,不登校の子が普段の日中を過ごしている自宅と自室の状況や過ごし方を確認し,その「退屈しにくさ」を査定することは有効であった。「平日の日中の自宅をつまらない場所に」を全ての保護者に提案し,それまでの高い不登校発生率を解消できた学校もある。

しかし,時代は過ぎた。

家庭での通信環境の普及

世帯のスマホ普及率は平成24年度には5割を超え,翌年から不登校は増加し続けている。経済状況にかかわらず,ほとんどの家庭でWi–Fi接続が可能となった。インターネット接続を前提とした端末や小型ゲーム機は,親の生活様式や水準にかかわらずほぼ全ての子が利用できている。「テレビのチャンネル争い」は死語になった。夕食のあと,ともすれば夕食中から,大人も子どももそれぞれ自分専用の端末にアクセスしている状況となった。

「ゲーム機やネット端末は夜の22時まで」などとルールをつくり守らせている意識高い保護者も増えている。「みまもりスイッチ」(ご存知なければこのまま検索して欲しい)を利用している家庭もある。他方,「スマホの中古機は中学生本人でも安価で購入できるし,Wi–Fi環境があれば無制限で利用できる」ことを知らない保護者も多い。

「子どもにはネット利用のルールを守らせ早く寝ているがそれでも朝起きてこない」という保護者には,ためしに,子どもが自室にはいったあとこっそり,Wi–Fiを切断(電源を抜いてみるとか)することを提案している。夜中にごそごそ,怪しい動きをしているようであれば,ビンゴ!である。

家庭の経済格差の意味の変化

子どもに影響する家庭の経済格差は,「購入できるか」でなく「制限できるか」に変わった。ネットに依存する環境を子どもに提供するためのコストは低く,ここにおいて格差はなくなった。むしろ,子どもに「リアルの活動」の機会を提供できる家庭かそれが難しい家庭であるか,の違いが大きい。

親がどれだけ,ネット,ネット・ゲーム漬け状態にならない子どもとして育てることができるかどうかが,子どもの適応(その大きな影響を占めるのは当然ながら学校適応である)を左右する。

健康な睡眠のための習慣の維持

ネット・ゲームといえば,e–sportsも話題になっている。YouTuberあるいはe–sports選手をめざすのと,プロスポーツ選手あるいは音楽など芸術のプロを目指すことに価値の区別はつけ難い。昭和の時代に,作家と漫画家,クラッシックと軽音楽の演奏者の間で,世間の評価に開きが大きかったことと同じことであろう。

善し悪しの判断の決め手は,睡眠を中心とした生活習慣の維持にある。発達段階に応じた健康な睡眠生活を維持し,その他の健康にかかわる留意事項を守れている限り,平日3~4時間,学校がない日に10時間もネット・ゲームに費やしていること,サッカーの練習やピアノの演奏に費やしていることの違いにこだわる妥当な根拠は何もない。部活や塾の時間の「他に」,毎日何時間もネットに漬かろうとすることが問題である。

ざっくりと「普段から何時間寝ていますか」などと尋ねるのでなく,最低でも標準的な(特別な予定のない)ある一週間について連日(記憶が正確なうちに),就寝と起床の時刻の記録を求めたい。休日前夜の就寝と休日朝の起床,可能なら二度寝や昼寝についての記録も重要である。これを年間数回実施できるとよいだろう。

子どもの睡眠の状況

筆者は2019年初冬にある公立小学校の5,6年生,同じ学区の公立中学校から要請を受け,睡眠の調査を行った。

「翌日学校がある日」の就寝時刻が学年進行に比例して遅くなるのは予想された通りだった。金曜から日曜の就寝時刻の学年間の差はさらに顕著であった。中3生徒の土曜夜の就寝時刻は平均で24時を過ぎていた。土日の起床時刻は中学生において平均で1~2時間以上,平日よりも遅く,いわゆる週末の睡眠相後退の傾向が明確であった。

子どもの自己評定による学校適応感尺度得点,これとは独立して求めたクラス担任による「教室,授業中の情緒不安定傾向」「学習への意欲的でない態度」評定のいずれも,子どもの平均睡眠時間の少なさ,および週末の睡眠相後退傾向との関係は明確であった。

聞き取り調査でも,「月曜日の朝なのに授業中の姿勢が崩れている」「ささいな指導や注意に対してしばしばキレる」「自ら強い刺激を求めるような周囲に迷惑になる言動が多い」ことと,平均睡眠時間の短さ(起床時刻の遅さ),および週末の睡眠相後退(これは特に中学生)の関連は明らかであった。

学校現場で,ADHDなど発達障害が疑われる子どもが増えている。しかし,上記の結果は,「発達障害を疑う前に,その児童生徒の睡眠習慣を査定し本人および保護者への指導や提案を適切に行う」ことの必要性を示唆する。つまり,不適切な睡眠習慣に起因する問題行動である可能性を確認せぬまま,精神医学的診断がくだされている可能性がある。

ネット・ゲーム依存の構造

図 ネット・ゲーム依存の構造
図 ネット・ゲーム依存の構造

図にネット・ゲーム依存(嗜癖)の構造を示した。2019年にWHOで規定されたゲーム障害の診断基準,そして,いわゆるネット依存の程度の評価ツールとして評価が高い尺度の項目(樋口,2014に紹介あり)の内容から筆者がまとめた。

抑制の効かないゲーム漬けの状態は情緒の不安定,自然な動機づけと他の活動の機会のアンバランス化をもたらす。これらが,この依存の中心であり,深刻な「リアルにおける孤立(つながりの喪失)」を深める。そしてこれらが学業や仕事の停滞,それらにおける成績成果の低下,人間関係(家族だけでなく友人や同僚,支援者まで)の悪化そして健康の悪化をまねく。

実践と研究の現状

このテーマにとりくむ研究においても,「孤立」は背景にある促進要因のひとつとされている。三原(2019)の指摘にもあるとおり,つながりは依存の抑制要因である。つながりの薄さを代償的にネットで解消しようとする,孤立しやすい特性や生活状況が依存の促進要因となる。

たとえば,「ゲーム依存」については,世界中で女性よりも男性で発症率が高く重症になりやすいが,これは一般に男性においては孤立しやすいことからも説明できる。人生初期から安定した情緒的つながりが不足すること(家族機能,両親との関係,不適切な養育やそれに近い状況およびいじめ)がリスクになるという報告もある(Bussone et al., 2020)。

治療法について現時点できわめて有効である,と推奨できることは多くない。多くの精神症状においてエビデンスが確認されている認知行動療法でさえ,抑うつなどの関連周辺症状には効果があっても,嗜癖行動そのものの変容は難しいという報告もある。

他の行動嗜癖とはやや異なり,触法や経済的ないし健康面の深刻な破綻に直結するわけではないこと,未成年から若年層に圧倒的に多いことから,かえって社会的な抑制が機能しにくく,改善の「決め手に欠く」状況となっているのであろう。今後の,予防と治療についての研究と実践の展開が期待される。

文献

  • Bussone, S. et al. (2020). Early–life interpersonal and affective risk factors for pathological gaming. Front Psychiatry, 11, 423.
  • 樋口進 (2014) 『ネット依存症から子どもを救う本』法研
  • 三原聡子 (2019) ゲーム障害の認知行動療法.医学のあゆみ, 271(6), 591–595.

PDFをダウンロード

1