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心理学ライフ

舞踊と私

山本 絵里子
相模女子大学人間社会学部人間心理学科 講師

山本 絵里子(やまもと えりこ)

Profile─山本 絵里子
2008年,慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程単位取得退学。博士(心理学)。2020年より現職。専門は発達認知科学。慶應義塾大学大学院社会学研究科訪問研究員。

私は舞踊に関する発達研究の傍ら,「創作舞踊」にも挑戦しています。「研究」と「教育」と「創作」はかけ離れたことのようにも思いますが,私にとってこれらは密接に結びついています。

「舞踊」との出会い

私と舞踊との出会いは幼少期に遡ります。5歳の頃,初めて見た舞踊。舞台上で踊り手が音楽に合わせ感情を表現しながら舞い踊る姿を目の当たりにし,煌びやかな世界,しなやかな身体運動,そして情緒溢れる表現力に目を奪われたことを昨日のことのように思い出します。私は幸運なことに,舞踊をあらゆる側面から学び,触れる機会に恵まれました。その一つに,小学校時代の「創作舞踊」があります。舞踊を専門とする体育の先生と共に,子どもたちが自ら様々な動きを組み合わせることで舞踊を創作していく授業です。この授業で,私は心臓の収縮と拡大の規則性を表現した『鼓動』という舞踊の創作に携わりました。創作過程における胸の高鳴りと喜びは,私を舞踊の世界へと瞬く間に魅了していきました。このような幼少期における舞踊との出会いと経験が,舞踊への好奇心へと変化を遂げ,今日における私の舞踊に関する研究の礎となっています。

赤ちゃんのおどりの研究

図1 小さな子どものおどり(腕をふわふわと動かしている)
図1 小さな子どものおどり(腕をふわふわと動かしている)

私が研究者として歩み始めた頃,すでに私の中では「心理学」と「舞踊」の繋がりを意識していました。当初は,舞踊への興味から,「舞踊」を観る人の「こころ」の仕組みを知りたいと思っていたのですが,その後,発達研究に従事し,赤ちゃんの不思議な身体運動に出会うことになります。赤ちゃんは,大人とのコミュニケーションの中で,手や足をリズミカルに動かします。また,赤ちゃんは座った状態で上手に身体を弾ませたり揺らしたりします。私は,様々な動きを生み出す赤ちゃんの能力に驚かされるとともに,その素朴な動きに魅せられていました(図1)。研究を進めていく中で,赤ちゃんが周囲の大人たちの会話や身体運動に合わせて手や足を動かしていることを知りました。大人たちは,このような身体運動を「上手におどっている」や「かわいいおどり」と表現します。そうです,赤ちゃんはおどりを創作し,それを表現していたのです。赤ちゃんのこの不思議な身体運動について知れば知るほど,小さな子どもたちのおどりには,舞踊を理解するためのたくさんの手がかりが秘められているように思います。こうして,私は「赤ちゃんのおどり」を研究対象として捉えるようになりました。

研究,教育,そして創作

小さな子どもたちのおどりに関する研究は,私にある一つの思いをもたらしました。研究を通して出会う赤ちゃんや子どもたちが生み出す,多種多様な動きを目の当たりにするうちに,自らの中に眠っていた創作舞踊への思いが再び込み上げてきたのです。すぐに邦正美(くにまさみ)創作舞踊研究所の門を叩きました。ここは,舞踊を学んできた人もそうではない人も創作舞踊を学ぶことができる日本では数少ない場です。研究所では,創作舞踊を「運動による空間形成の芸術」と位置づけています。そして,自らの身体運動を通して,舞踊的(踊ることのできる)身体を作るための舞踊身体育成法,舞踊を創作するための空間形成法,舞踊理論,そして即興と創作といった創作舞踊の基本を体系的に学ぶことができます。

私は,今,再び,舞踊を創ることの楽しさを追求しています。自分の思いや感情を踊りとして創り上げるその情熱と喜びは,小学校時代に感じたあの胸の高鳴りの延長線上にあり,どうやら私の心の中で,この思いは不変のようです。

今後,心理学と舞踊の二つの領域を行き来しながら,それらの領域の知識を深め繋げ,研究と教育に邁進していきたいと思います。

研究,教育,そして創作という私の中に溢れる情熱と喜びを加えながら。

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