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常務理事会から

国際化と多様性の尊重

COVID–19が世界的に大流行し始めてから,早くも半年以上が過ぎました。最前線で対応されている方々に御礼申し上げると共に,コロナ禍に影響を受けている皆さまに心よりお見舞い申し上げます。また,心理学の視点からコロナ禍を取り巻く状況の知見を増やし,人々の心に寄り添い健康の促進に努められている会員の皆さまに感謝申し上げます。

国際担当常務理事は,国際委員会,国際賞選考委員会,男女共同参画委員会を担当しています。今回は,その活動報告とともに国際化と多様性の尊重について考えてみたいと思います。

国際委員会は,①三ヶ国シンポジウム,②ICP記念事業,③留学生ネットワークの3つの事業を柱として,世界の心理学界における日本のプレゼンスを高めるとともに,連携強化に努めています。韓国心理学会・中国心理学会・日本心理学会が毎年持ち回りで開催する三ヶ国シンポジウムは,今年は開催が危ぶまれましたが,今までの歴史を止めることなく近隣諸国だからこそできる連携を強めるため,Web開催という形で実施されました。また,ICP2016記念事業と留学生ネットワークも,このような状況だからこその,若手育成と留学生支援の重要性を痛感し,より活躍できる環境に寄与できるよう努めています。2019年にはシンガポール心理学会と覚書を交わし,各国と締結しているMOU(合意文書)は計14となりました。なかなか海外渡航ができず国際交流が難しい現状ではありますが,各国の年次大会のWeb開催は,海外渡航ができない会員も参加できる便利さがあります。さらに,今年に入ってからは,世界的なコロナ禍に対応するため,各国の心理学会のリーダーたちと定期的なミーティングを重ね,連携と協働の新しい形を探っています。それぞれが国から出られない状況,そしてコロナ禍に立ち向かうという共通する目的が,世界の心理学ワールドを近づけているように感じています。

国際賞選考委員会は,長年にわたり優れた研究業績をあげ国際的な心理学の発展に寄与した心理学者,国際学会の設立・運営等により世界の心理学に貢献した心理学者,国際的に高く評価されている研究業績を持つ中堅・若手の研究者を選定し,2020年度は特別賞1名,功労賞2名,奨励賞4名を顕彰しました。

男女共同参画委員会では,主に男女共同参画の推進による女性心理学者・研究者の活躍推進,育児や介護にかかわるワークライフバランスの啓蒙,ネットワーク構築による心理学者の支援,そして,ジェンダーにかかわる問題の是正に取り組んでいます。2019年の代議員選挙においては,ジェンダーバランスを考慮した投票行動をお願いした結果,常務理事会を構成する8名のうち,3名が女性となりました。代議員・理事会・常務理事会のジェンダー構成はまだ不均衡はありますが,多様な背景を持つ人たちが活躍できる学会作りを目指しています。

パンデミックとそれに伴う外出自粛は,世界各地において,家庭内暴力の増加や男女の家事負担の差異,弱者に対する差別等,潜在的にあった問題を浮き彫りにし,私たちに,新しい日常と考え方の転換を迫りました。世界の心理学会は繋がり一丸となって心理学の知を結集して,未曾有の事態に立ち向かう方法を模索しています。心理学の真の国際化とは,知の一方通行を強化することではなく,知を双方向・多方向に移動させながら多様な知見と文脈を包摂的に理解し発展させていくことです。近年では,かつての心理学研究の被験者は大きく偏り,世界の人・人口の実情を反映していないとの批判から欧米中心主義であった心理学が変わりつつあります。海外の知をただ取り入れるのではなく,日本だからこそ生み出せた心理学の知見を発信していくことが重要になってきています。

当たり前だと思っていた状況や構造に疑問を呈していくことは,学問や社会の発展に繋がっていくことであり,これは国際化から見える男女共同参画へのヒントでもあるのではないでしょうか。男女共同参画から始まった取り組みも,男女だけにとどまらない多様な背景を持つ人たちの協働参画へと発展させていく局面に来ています。心理学の総合学会である本学会から,国内外における多様性を理解し尊重し包摂する土壌を作り,会員の皆様が安心して活動・活躍できる学会・学界・社会作りに貢献できるよう今後も努力して参ります。

(国際担当常務理事・立命館大学准教授 鈴木華子)

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