公益社団法人 日本心理学会

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常務理事会から

時代の転回期を前にした日本心理学会

2017年から財務担当の常務理事をお引き受けし,その後,理事長に就任したので,すでに4年も経ってしまいました。しかし前期と異なり,今期は本当に様々なことがありました。その中でも皆様にとって関連の強い二つの出来事を,お話ししたいと思います。

その1は,言うまでもなくコロナ禍での学会の運営でした。2020年9月に予定されていた大会は,東洋大学の先生方ならびに大会を支えてくださった企業の方々のご努力で,ネットを用いた開催にこぎつけることができました。事務局職員にとっても初めての経験となり,テレワークというハンディを背負いつつも,どうにかサポート体制を維持することができました。しかし何よりも,会員の方々の積極的な参加によって,新しい大会の在り方の可能性が見えてきたことが,強く印象に残りました。

コロナ禍で影響を受けたのは,大会だけではありません。ほとんどの委員会はテレコミュニケーションを余儀なくされ,参加されたメンバーの方々は,慣れない方式での会議の進行に初めは戸惑いつつも,遠方からの気軽な参加という利点を活かしながら,新しい形式を活用してきたように思います。常務理事会も,意思疎通におけるもどかしさを感じつつも,ここ1年以上を乗り切ってきました。大会以外での講演会やシンポジウムも,その多くが中止や延期となる一方で,この新しい方式の可能性を広げるべく,会員の方々による様々な開催への挑戦が見られたことも,学会としての重要な経験の一つとなったように思います。学会事務局は,1回目の緊急事態宣言のあたりからテレワーク下での具体的な事務体制の構築が進み,これまでの機能を維持してくださいました。理事長として,事務局職員お一人お一人のご努力に深く感謝したいと思います。

その一方で,大会をはじめとする様々な事業が,大学などの教育機関の援助の上に成り立っていることからくる限界も見えてまいりました。感染防止のため,催し物の開催校となっている多くの大学は閉鎖されました。そして特に,今後の感染終息の見通しも立たないという状況から,現在,2022年以降の年次大会開催が危ぶまれております。大会を引き受けることに躊躇されるお気持ちは十分に理解できる一方,発表の機会や研究成果の共有の場を失うことによるデメリットも無視することはできず,常務理事会や関連委員会では,新たな年次大会の在り方を議論し始めました。これらについては,方向性が決まった段階で皆様にご報告し,ご支援を賜りたいと思っております。

その2は,コロナ禍の最中に起こった日本学術会議の新会員任命拒否問題(日学問題と略)です。日学問題では,日本心理学会だけでなく数多くの学協会からの抗議声明の発出がありました。問題点の解説や反論,再反論などはすでにいくつかの書籍で語られているのでここでは省略させていただきますが,この問題を契機として,すべてではないにしろ,人文・社会科学関連の学協会が初めて一堂に会して話し合うという場面に,私は立ち会うことができました。皮肉なことに,十数回にわたって何十もの学協会の参加が可能となったのは,上述したテレコミュニケーションの恩恵の一つでした。短い期間で,異なる学問分野の方々と共同行動をとることができたという経験は,これからも科学を支える民主的なプロセスを監視し守っていくうえで,重要なものとなるでしょう。

日本学術会議は,心理学関連科学を含む,政府への重要な提言や勧告をこれまで行ってきたものの,政府にとっては自分たちの政策に寄り添った機関とは考えられておらず,すでに総合科学技術・イノベーション会議をはじめとする様々な諮問機関が作られてきたという歴史があります。日本心理学会が内閣総理大臣へ提出した要望書で引用したように,敗戦直後,学問をする人々が,当時生き残った人々と最も近い場所にあった時に構想された日本学術会議は,日本の学問の最も良質なる精神を宿した,ある種の象徴的な存在のように見えます。そうした象徴性への侵犯が,日学問題への学協会の一斉の批判を招いたと私は考えております。こうした問題を契機に,すでに三四半世紀経過した日本で起きつつある,若手とベテラン,実務とアカデミア,学者・研究者と世間一般との間での断絶を埋めるような,深いコミュニケーションが作られていくといいのですが。

(理事長/慶應義塾大学名誉教授 坂上貴之)

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