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巻頭言

オンライン学会のゆくえ

東洋大学社会学部 教授
大島 尚(おおしま たかし)

日本心理学会第84回大会を東洋大学が開催することが2018年6月の総会で決定されてから,会場の確保や業者との打合せ,招待講演者との連絡など例年通りに準備を進めていましたが,開催年の2020年3月になって新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生したため,急遽オンラインでの開催を検討することになりました。この頃には,4月からの大学の授業をどうするかについても議論されており,オンライン授業の具体的な実施方法が教員間で検討されていました。学会の発表は授業との共通点が多く,また研究者の間ではすでにZoomなどの遠隔会議システムの利用が進んでいたことから,オンライン学会のイメージは描けていましたが,参加者情報や発表コンテンツの管理,Webページの設計といった運営面での先行事例が乏しく,委託業者との情報交換や調整に多くの労力を費やしました。そして,9月8日から3日間の予定だった会期を11月2日まで延長し,手探りの運営を行うことになりました。今では,さまざまな分野の学会がオンラインで開催されたこともあり,業者のサポート体制や運営のノウハウも定着してきたように見えます。

オンライン開催のメリットとデメリットについても,授業と共通する部分が多いように思います。メリットとしては,発表者も参加者も開催場所や会場の制約を受けないことがあげられ,またオンデマンドでの視聴やチャットでの質疑応答が可能であれば,時間の制約も受けずに参加することができます。デメリットは臨場感や一体感の欠如,通信環境への依存,そして人的交流の制限といった点でしょうか。私事になりますが,私にとって日本心理学会大会の一番の思い出は,初めて「旅行」して参加した1976年の中京大学の大会で,シンポジウムや個人発表ではとても活発な議論が交わされていた記憶があります。大会長の結城錦一先生にご挨拶する機会を得ることができ,結城先生はその後もお目にかかるたびに親しく話しかけてくださいました。このような諸先生方との新たな出会いと交流は,大会参加のたびに貴重な体験として蓄積され,学会が対面で行われた故の成果として心に刻まれています。

コロナ禍終息後の大会のあり方については,オンラインのメリットを組み入れた「ハイブリッド」の形態が模索されることになると想像します。しかし,授業で試みた経験を踏まえると,効果的なハイブリッドの実現は容易ではありません。この模索の過程では,学会開催の目的や意義をあらためて問い直す必要が生じてくるのではないかと思います。

大島 尚

Profile─大島 尚
1975年,東京大学工学部計数工学科卒業。1978年,東京大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士課程中退。東京大学文学部助手,東洋大学社会学部講師,助教授を経て,1995年より現職。専門は,認知心理学。著書に『はじめて出会う心理学』(共著,有斐閣),『共生のかたち:「共生学」の構築をめざして』(分担執筆,誠信書房),『エコロジーをデザインする:エコ・フィロソフィの挑戦』(分担執筆,春秋社),Achieving Global Sustainability: Policy Recommendations(分担執筆,United Nations University Press)など。

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