自在化身体論
超感覚・超身体・変身・分身・合体が織りなす人類の未来
北崎 充晃
古く狩猟社会や農耕社会では,健康で強靱な肉体が期待され,身体は道具を上手く使うための主体でした。産業革命を経た工業社会では,身体の強靱さは必ずしも利点にならず,機械を使いこなす精神面が過度に期待されたと言えます。続く情報社会では,ロボットやAIなどの普及により自動化が進み,脱身体化の流れが見られます。本書が提案する「自在化身体」は,情報化社会の先,人間中心のSociety 5.0において私たちが求める身体観を提案するものです。
自在化身体を用いることで,私たちは物理世界と情報世界を自由に行き来し,意識的な身体動作と自動的な身体動作を環境や意図に応じて切り替えられるようになります。ただし,その開発や基盤となる神経機構や認知機能の解明は始まったばかりです。例えば,3~4本目の腕による身体拡張,2人で1つの身体を操作する合体,複数人を同時に操作する分身などを実現し,自在に操作するための研究が行われています。
本書は,自在化身体の概念やその背景,現在進行中の研究プロジェクトを生々しく紹介します。
モビリティイノベーションシリーズ2
高齢社会における人と自動車
上出 寛子
世界的に高齢化が進む中,自動運転をはじめ,高齢者の移動を支援する先進的な技術開発が進んでいます。さらに,実世界での移動だけでなく,ネットワークによる仮想的な移動も視野に入りつつあり,移動という現象そのものがますます多様化してきました。ただし,このような技術的な側面での発展が進むほど,ユーザの特性をより深く理解した上でのシステムの設計や,倫理・法的な課題,社会的受容性など,新たに解決しなければならない課題も生じてきています。
本書では,高齢者と移動という観点で,様々な分野での取り組みを紹介しています。前半では,自動車運転における高齢者の特性に対する認知心理学的検討や,移動と健康に関わる医学・疫学的な検討が議論されており,高齢者の移動を分析的に理解する多くのエビデンスが紹介されています。後半では,移動することの楽しさという心理や,人類の歴史における移動の価値に関する哲学的な考察が含まれています。先進技術と人・社会のインタラクションについて考える一助になれば幸いです。
良心から科学を考える
パンデミック時代への視座
櫻井 芳雄
科学としての心理学は客観的な計測対象になり得ない用語を避けてきました。「良心」はその典型であり,心理学者も含む科学者が自身の専門分野について良心の観点から真面目に論じることは,これまでほとんどなかったと思います。しかし人間の幸福に寄与するはずの科学が悲惨な戦争や災害に繋がることも多く,また科学者による研究不正も拡がっています。
そこで,科学者にとって遠い存在であった良心にしっかりと眼を向け,多様な科学と技術の進展を俯瞰することをめざし,本書が企画されました。小原克博先生(宗教学)がセンター長である同志社大学良心学研究センターが中心となり,科学史,生物学,心理学,地球科学,人工知能,脳科学,再生医療などの著名な研究者14名が,自身の分野や研究と良心との関係を論じています。心理学からは,明和政子先生が第4章「ヒトの良心の発達とその生物学的基盤」,武藤崇先生が第6章「科学的な心理学から「共感」を考える」,そして櫻井が第13章「脳と機械をつないだ時に」を担当しています。世代を超え読んで欲しい良書です。
多職種連携を支える「発達障害」理解
ASD・ADHDの今を知る旅
土居 裕和
発達障害支援では,多分野の専門家が連携して効果的な支援を行う〈多職種連携〉の重要性が認識されてきています。このような現状を念頭において,本書では,自閉スペクトラム症(ASD)・注意欠如/多動症(ADHD)を中心に,発達障害支援に関わる様々な分野の基礎と最新動向を一冊で学べるよう工夫しました。
本書は3部からなります。まず第1部では,発達障害の基礎知識をまとめてあります。第2部では,保育現場・教育現場・職場における発達障害支援について,現場での工夫や実体験を交えつつ多面的に解説しています。そして第3部では,ASD・ADHDの脳科学をはじめとした,発達障害支援の最先端の話題をとりあげています。
いずれの内容もイラスト付きで丁寧に解説してあるため,初学者でも無理なく読み進められます。発達障害支援を志す学生さんから,〈多職種連携〉の必要に迫られている専門職の方,あるいは,新たにASD・ADHD研究に取り組むことになった研究者など,様々な方々のニーズに応えられる一冊になっていると自負しています。
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