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巻頭言
スティーブンス(S. S. Stevens)のメモリアルシンポジウム
桑野園子(くわの そのこ)
感覚尺度のパイオニアであり,ME法の開発者であるスティーブンスをしのんで,1989年7月31日~8月1日にアメリカ・シラキュースで,スティーブンス夫人を名誉委員長として,シンポジウムが開催された。総勢20名のratio scalingの専門家のみの小さなシンポジウムで,円形のテーブルを囲み,全員の顔が見える形で開催された。大阪大学の難波精一郎教授と私がこのシンポジウムに日本から招待され,滞在費も日本からの交通費も支給された。
難波先生と私は,ME法を用いて行った環境音の評価実験を紹介し,ME法からPSE(主観的等価点)を求める方法についても紹介し,調整法で求めたPSEとほぼ一致していることを報告した。ME法は調整法よりずっと短い時間で実験が可能であり,ME法の判断をPSEに変換できることのメリットは大きい。難波先生が考案された尺度判別法についても紹介し,関心がもたれた。ME法は現在もよく利用されており,安定した結果が得られるよい方法である。スティーブンス自身も報告しているが,ベキの値に個人差はあるが,個人の結果でも物理量と感覚との間にきれいなベキ関数が得られ,私は講義などでのデモ実験によく利用している。シンポジウムの論文は書籍として出版されている*。
懇親会は,主催者のJ. J. ツビスロッキー教授の立派な自宅で開催され,ツビスロッキー夫人から遠来の客である我々に細やかな気配りをいただいた。
シラキュースへ行く前にはボストンのB. シャーフ教授の自宅に泊めていただき一緒にシラキュースまで連れて行っていただいた。また,シンポジウムのあとにはラウドネス研究で著名なR. ヘルマン博士の自宅でバーベキューパーティーに招待いただき,スティーブンス夫人にホテルまで車で送っていただいた。多くの方と親しくなり,思い出深い有意義なシンポジウムであり,その後も交流が続いた。
残念ながら生前のスティーブンスに会う機会はなかったが,後日,後任のD. M. グリーン教授にハーバード大学の研究室をみせていただく機会があった。スティーブンスの実験機器も棚にきれいに保存されていたのは印象的だった。また,研究室の設備が整っていることとともに,ハーバード大学のキャンパスも広くて緑がいっぱいで,まさに大学の研究環境として羨ましいところであった。この時グリーン教授からいただいたキャンパスのスケッチを見るたびに研究への意欲を掻き立てられる。
- *Bolanowski, S. J. Jr. & Gescheider, G. A. (Eds.). (1991). Ratio scaling of psychological magnitude: In honor of the memory of S. S. Stevens. Hillsdale, N.J.: L. Erlbaum Associates.
Profile─桑野園子
大阪大学文学部卒業。工学博士(東京大学)。専門は環境心理学。アメリカ音響学会フェロー。環境大臣表彰。日本心理学会国際賞受賞。ドイツ音響学会ヘルムホルツメダル受賞。日本騒音制御工学会研究功績賞受賞。日本音響学会佐藤論文賞受賞(2回)。日本音響学会会長,日本音楽知覚認知学会会長などを歴任。主著に『音の評価のための心理学的測定法』(共著,コロナ社),『音環境デザイン』(編著,コロナ社),“Recent topics in environmental psychoacoustics”(Editor, Osaka University Press)。
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