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心理学史諸国探訪【第14回】

サトウタツヤ
太平洋に面し,6000メートル級の山が並ぶアンデス山脈の北部に位置するペルーでは数千年前から文明が発達し,ナスカの地上絵で知られるナスカ文化は紀元前後から800年頃まで栄えたとされています。

サトウタツヤ

ペルー (その1)

遺跡「マチュ・ピチュ」で知られるインカ帝国は今のペルー,ボリビア(チチカカ湖周辺),エクアドルに及ぶ広大な帝国で,文字を持たない文明でした。16世紀にスペイン人が来襲し,1533年,インカ帝国は滅亡しました。

その年からスペインの植民地として先住民は迫害される傾向がある一方で,スペイン風の教育や文化も浸透することになりました。そして,高等教育が機能し始め哲学の一部として心理学が教えられ始めました。

Hipólito Unanue
Hipólito Unanue(1755-1833)
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Hipólito_Unanue_(detail).jpg

19世紀初頭,医師・博物学者であり後に財務大臣等を歴任したウナヌエ(Hipólito Unanue)が「リマの気候とその生物,特に人間への影響についての観察」を発表しました(1806)。1821年にペルーはスペインからの独立を果たしますが,その背景には大学を根城にしたコンビクトリオ・デ・サン・カルロス(Convictorio de San Carlos)と呼ばれるサークルが存在し哲学などの学問的革新を主導し,独立運動にも波及したといわれています。

バルディザン(Hermilio Valdizán)は先住民族の心理について研究し『ペルー先住民の精神的疎外感』(1915)などを出版しました。

初期のペルーの心理学界では,デルガド(Honorio Delgado)とイベリコ (Mariano Iberico; 1892–1974)の著書“Psicología(心理学)”(1933)に代表されるように,哲学的なアプローチが主流でした。

この本で引用されているのは,ベルクソン,ジェームズ,リボ,フロイトという学者たちでした。デルガドは精神医学者でもありフロイトの精神分析や現象学に傾倒していました。そして,彼は1918年には,バルディザンと共同で“Revista de Psiquiatría y Disciplinas Conexas(精神医学と関連分野のジャーナル)”を創刊し,同誌上に共著で精神分析に関する論文を発表しました。その一方で精神科医としては薬物療法や操作的診断の重要性にも早くから気づいていました。この雑誌は6年しか続きませんでしたが,神経病理学,心理学,精神分析など幅広い分野の著名な学者が寄稿していました(Stucchi-Portocarrero, 2018)。

精神医学と関連分野のジャーナル
精神医学と関連分野のジャーナル(Stucchi-Portocarrero, 2018, Fig.1)

デルガド自身は「La nueva faz de la psicología normal y clínica(正常心理学と臨床心理学の新しい顔)」という論文を執筆し精神分析的な考え方を唱道しました。

デルガドとバルディザンは,教師に対して子どもの発達を教えるため,1919年に心理教育学セミナーを設立し,1922年にはペルー児童会議において異常児童問題について報告しました。

ペルーでは実験心理学の発達は少し遅れて始まったようです。その様子は次号で紹介します。

文献

  • Delgado, H., & Iberico, M. (1933). Psicología. Lima, Peru.
  • Stucchi-Portocarrero, S. (2018). Cien años de la Revista de Psiquiatría y Disciplinas Conexas. Revista de Neuro-Psiquiatria, 81(4).
    https://doi.org/10.20453/rnp.v81i4.3442

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