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刊行物

自著を語る

予測する心

佐藤亮司

本書は訳書であり私の自著ではないのだが,ここではいわば名代として本書の内容を紹介させていただく。

本書は,今や心に関する諸学問を席巻している「予測誤差最小化理論」とか「自由エネルギー原理」と呼ばれているものを紹介し,その哲学的経験的含意を探ったものだ。近年類書が次々と出てきているが,本書の重要な特色は,①「脳は能動的に仮説をテストする器官だ」という仮説と,②より抽象的で野心的な「環境の変化に耐えて自己を保つシステムは全て自由エネルギーを最小化しなくてはならない」という原理,この重要だが難解な二側面が可能な限り数式を省いて解説されていることだと考えている。本書は全般にわたって知的に刺激的だと信じているが,本書の後半(とくに第8,11,12章)は,とりわけ「哲学的」だ。

本書の「実用性」を強調するのは野暮ではあるが,前中盤を通じて,本理論のご理解を深めていただき,その含意を読者諸賢のご専門において検討するというのが一つの読み方かもしれない。本書が少しでも心の仕組みの解明に資することを願う。

予測する心
著 ヤコブ・ホーヴィ
監訳 佐藤亮司
訳 太田陽・次田瞬・林禅之・三品由紀子
発行 勁草書房
四六判/512頁
定価 5,500円(税込)
発行年月 2021年2月
さとう りょうじ
東京都立大学大学教育センター准教授。専門は英語圏の心の哲学,応用倫理学。著書に『ワードマップ 心の哲学』(共著,新曜社),『シリーズ新・心の哲学II 意識篇』(共著,勁草書房)など。

B. F.スキナー重要論文集Ⅱ
行動の哲学と科学を樹てる

丹野貴行

本書は,B. F. スキナーの重要論文を選定し翻訳する全三巻プロジェクトの第二巻目である。「行動の哲学と科学を樹てる」という副題のもと,行動の科学の基本的立場としての徹底的行動主義と,その実践としての実験的行動分析を論じた論文を中心に収録されている。

徹底的行動主義に対して,「心を無視している」,「遺伝を無視している」,「脳を無視している」,「理論を作らない」,といった批判がよくなされる。本書を通読していただければ,こうした批判は的外れであり,スキナーの体系の中でそれらは整然と位置づけられていることが明らかとなろう。

スキナーの文章は大変に難しく,このプロジェクトには膨大な時間が費やされた。しかしそれでもなお,日本においてスキナーの主張を正確に伝える書籍が必要であると考えたからこそ,私たちはこのプロジェクトに取り組んだ。少しでも多くの方に,スキナーに直接触れてみる機会を提供できればと願っている。

B. F.スキナー重要論文集Ⅱ 行動の哲学と科学を樹てる
著 B. F. スキナー
編訳 スキナー著作刊行会
発行 勁草書房
A5判/308頁
定価 4,400円(税込)
発行年月 2020年9月
たんの たかゆき
明星大学心理学部准教授。専門は行動分析学。著書に『心理学に興味を持ったあなたへ:大学で学ぶ心理学 改訂版』(学研プラス)など。

幸福な老いを生きる
長寿と生涯発達を支える奄美の地域力

冨澤公子

本書は長寿研究ではあまり議論されていない,超高齢者の多様な潜在能力と文化的価値,精神的次元の力量ともいえる老年的超越兆候に注目し,それらを引き出し,活かしている奄美群島のコミュニティに焦点を当て,幸福な老いを実現している地域要因と支援要因を解明しています。

そのために,集落の自然・居住空間・祭り・習慣などの現地調査,超高齢者・同居家族・民俗研究者へのインタビュー調査,集落区長へのアンケート調査など,多様な学際的手法を用いて分析し,祭りや年中行事が超高齢者の教師的役割や存在意義を高め,長寿と生涯発達を支える地域力として機能していることを明らかにしています。

奄美研究は超高齢者を対象とした「老年的超越」の実証研究からスタートし,世代間の共生と長寿多子化を実現している奄美の地域特性に関心が移っていきました。

本書は学位論文の公刊ですが,普及版には『長生きがしあわせな島〈奄美〉DVD付』があります。コミュニティのつながりの中で輝く,老いの姿を映像からもご覧いただければ幸いです。

幸福な老いを生きる 長寿と生涯発達を支える奄美の地域力
著 冨澤公子
発行 水曜社
A5判/248頁
定価 2,530円(税込)
発行年月 2021年3月
とみざわ きみこ
立命館大学産業社会学部非常勤講師,立命館大学衣笠総合研究機構客員研究員。博士(経営学)。専門は社会老年学,長寿・地域経営学。著書に『老年的超越:歳を重ねる幸福感の世界』(トーンスタム,L. 著,共訳,晃洋書房),『長生きがしあわせな島〈奄美〉』(単著,かもがわ出版)など。

パーソナリティと個人差の心理学・再入門
ブレークスルーを生んだ14の研究

中村菜々子・古谷嘉一郎

本書は,14の古典的研究を通じて,心理学者も臨床実践家も,そして心理学者でなくても,誰もが用いているパーソナリティ,あるいは個人差という概念について,改めて考える機会を提供するものです。

臨床心理士・公認心理師の立場(中村)から読むと,臨床実践において重要な精神分析的なパーソナリティ理解について言及がないことが残念ですが,原書の編者が思いきってこの部分を外したことで,一般的な心理学の概論書では詳細に取り上げられることが少ない研究にも頁を割くことが可能になったと理解しています。

監訳・翻訳作業を通じて,パーソナリティと個人差の心理学に再入門し学ぶことができたことはもちろん,関連する国内外の古典的研究にも再入門できました。

余談ですが心理学研究のJ–STAGE上のアーカイブは何巻からあるかご存じでしょうか。答えは,1912年の1巻1号(前身誌:心理研究)です。各訳者の再入門プロセスの一端は,各章最後の「訳者補遺」として掲載されていますので,本文と併せて楽しんでいただけるとうれしいです。

パーソナリティと個人差の心理学・再入門 ブレークスルーを生んだ14の研究
編 P. J. コー
監訳 中村菜々子・古谷嘉一郎
発行 新曜社
A5判/368頁
定価 3,960円(税込)
発行年月 2021年4月
なかむら ななこ
中央大学文学部教授。専門は健康心理学・臨床心理学・コミュニティ心理学。著書に『その心理臨床,大丈夫?』(共編著,日本評論社)など。
ふるたに かいちろう
北海学園大学准教授。専門は社会心理学・臨床社会心理学。著書に『エピソードでわかる社会心理学』(分担執筆,北樹出版)など。

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